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モヤモヤした気分で1日を過ごして家に帰ると、ちょっと怒ったママが待っていた。
「ミヤ、朝の態度は良くないなあ。パパ、悲しそうだったよ」
「……ごめんなさい」
手を腰に当てて、ダイニングで仁王立ちしているママに、素直に謝る。
ママを怒らせたかったわけでも、パパに悲しい顔をさせたかったわけでもない。
結果的に、そうなってしまったわけだけど。
するとママは怖い顔からニッコリ笑顔になった。
「反省してるなら、よろしい。さ、おやつにしよっか」
ランドセルを部屋に置いて戻ってくると、テーブルの上には、ママ手作りの、あたしが大好きな紅茶のシフォンケーキがあった。
「そうだ、今度の日曜日にね、パパが一緒に出かけようって」
ケーキに飛びつくあたしに、ママがテンションの下がることを言う。
「えぇぇぇぇ」
「嫌なの?」
「……いやっていうか……」
フォークをつきさしたまま、手が止まってしまった。
「昔は、パパのトラックに乗ってよく出かけたじゃない。おしごとついていくーってワンワン泣いてさ。仕方ないからパパが社長さんに頼んで、夏休みに乗せてもらったでしょ」
「1年生の頃の話でしょー。もう、そんなこどもじゃないもん」
「なーに言ってんの、まだまだこどもじゃないの!」
どうしてママたちは、ほとんど覚えていないような昔のことをほじくり返しては、懐かしそうにニヤニヤと笑うのだろう。
そんな昔のことを言われても、こっちは困ってしまうだけなのに。
フワフワのケーキを、口の中に放り込む。
「小学校最後だから、パパが連れて行きたいところがあるんだって」
それまでのふざけた表情から真剣なものに変えて、ママが言う。
「……ママも?」
聞くと、ママは唇を突き出して、こどもみたいに不満顔。
「パパは、ミヤと2人っきりがいいんだってさー。パパはママの旦那さんなのに、ミヤの方がいいんだってさー。ずっるいなー」
文句を言いながら、すかさずあたしのケーキから一口分取る。ママのが、ずるい。
「パパと2人っきりでさ、少しいろいろ話してみたら?」
「する話なんて……ないもん」
「そお?」
意味ありげに笑ったママは、さーて夕飯何にしようかなーと歌いながらキッチンに消えた。