獅子と蛇
「アイツ、自分がスネイプの娘だからって、いい気になって威張り散らしてんだ。だからマルフォイなんかと仲が良いんだよ」
「そうかな?僕は、リクはそんな子じゃないと思うけど…」
初の魔法薬学の授業の後。ロンがマルフォイやリクの事で愚痴を溢すのを、ハリーはやや苦笑を浮かべて聞いていた。ハリーがリクに気を遣ってか、言葉を濁すと、ロンは信じられない!と言った風な表情になる。
「何言ってんだよ!スネイプの授業であんなにも奴等は贔屓されてたじゃないか!」
「でも、リクは獅子寮のネビルを助けようとしてたよ?」
「アレは、ああすれば目立てるとか思ったからやっただけだろ?…いや、よく考えてもみろよ。そもそもアイつがネビル達の薬にちょっかいを出して、薬は爆発したんだ。つまり、アイつはわざとネビル達の薬を失敗させて獅子寮の減点を狙った可能性が高いんじゃないか?!」
『それは酷い誤解だよロナルド・ウィーズリー』
「「!?」」
突然背後から掛けられた声に、二人が驚いてビクリと振り返った。私と顔を合わせるなり、二人は罰の悪そうな顔になる。ロンの方に関しては、罰の悪そうな…というより、嫌そうな顔に、だけど。どうやら獅子寮側からしてみれば、先程の魔法薬学での件はドラコだけでなく私に対しても贔屓していたと認識されてるらしい。本当に負傷してたのに、ヒドイ偏見だ。
『まあ、セブルスがドラコを贔屓してるのは否定しないけど、少なくとも私に関してはあまり贔屓されてないよ』
セブルスは自分に厳しい人だからね。私の勉学の評価は他の蛇寮生達と比べてむしろ厳しい位だ。実際、セブルスの期待に応え得る成果を毎回頑張って出すものだから、その度にハードルが上がってしまっているのだ。セブルスが私に高い完成度を求めるのも当然の事。そして私もまた、セブをがっかりさせたく無いからある程度頑張ってしまうという。
「リク、その…怪我は?」
『大丈夫。対した傷にはならなかったよ』
「(爛れた皮膚が服に張り付いて酷い状態だった癖に)」
『(でも、ちゃんと治るらしいから間違った事も言ってないでしょ?)』
「(せめて完治させてから言え)」
医務室から帰還した私を心配してくれたハリーに笑顔で返すと、ほっとして貰えた様だった。ヴォルのツッコミは気にしない方向で。これ以上ハリーを心配させてどうするのさ。
『これから二人で何処か行くの?』
「ハグリッドにおt…「お前には関係ないだろ」
何となく聞いてみたら、ハリーが答えてくれてる途中でロンに噛み付かれてしまった。勿論非物理的にね。確か…ハグリットからお茶会に誘われているんだよね。タイミング的にも合ってると思う。ていうか、私も今朝誘われたし。ま、この調子だと今回私が一緒に行くのはやめておいた方が良さげだね。ハグリッドへの挨拶は、また日を改めて行く事にしよう。
『えぇー…何だか風当りが冷たいよロン』
「どうせお前もハリーが目当てなんだろ?」
『まぁ確かにハリーやネビルは可愛いから否定はしないけど、悪戯仕掛け人ズとマブダチな私にソレを言うのかい?』
「余計に質が悪いよ!!」
『うわーん、ハーマイオニー!ロニャルドが冷たいよー』
「ブフっ」
「誰がロニャルドだっつ!お前も笑うなよっつ」
通りすがりのハーマイオニーに泣きつく振りをすると、彼女は堪え切れずに吹き出していた。ロンの真っ赤になった顔が面白くて、私まで噴き出してしまいそうだったけど、何とか頑張って堪えた。双子じゃないけど、ロンは本当に弄り甲斐がある。
それにしても…うん。これまたロンには随分と嫌われてしまったものだね。獅子寮一家なウィーズリー家からしてみれば、蛇寮は目の敵にされやすいのだろう。あと、私がドラコと仲が良いのもお気に召さないんだろうね。個人的には獅子寮とも仲良くしたいんだけどなぁ…やはり、獅子寮と蛇寮の壁は厚い様子。ていうか、獅子寮を悪く思ってないのって、下手すると蛇寮の中で私位じゃなかろうか。今の所はセブの娘&ドラコの友って後ろ盾で牽制されてるけど、いつ蛇寮から裏切り者って言われてもおかしくはない。…もう少し慎重に行動した方が良いかな?
と、ハリー達とじゃれていたら、そこへいつものお供二人を従えたドラコが登場した。
「リク!傷はもう大丈夫なのか」
『心配してくれて有難うドラコ』
「当然だ。獅子寮にやられた怪我なんだからな」
「なっ、そっちが勝手に首を突っ込んできたんだろ?!」
心配そうな顔で此方にやって来るも、私の無事を知るなり、いつもの不遜な態度のドラコに戻ってしまった。デレ終了のお知らせですね残念。そんなドラコがロンとハリーの方へ嫌そうな視線を向ければ、案の定ロンが食って掛かり、早速喧嘩を始めてしまったという。ロンとドラコは親子揃って犬猿の仲だから、仕方ないのかもしれないけどね。何にしろ、火種は燻っている間に消す方が楽なので、早々にドラコを半ば強引に引っ張ってこの場を立ち去る事にした。
『またね、ハリー。心配してくれてありがとう』
「!」
去り際に、ドラコの死角でこっそりハリーにそう耳打ちしたら、ハリーの顔が少し赤くなってた。反応が可愛いね。ちなみに傍から見たらこのやり取りはジェーリリを彷彿とさせるのだろうか。ハリーはジェームズみたいにストーカーじゃないけど……あ、親世代の勝手な妄想です。事情を知る人たちには仲睦まじき兄妹のやり取りにしか見えないんだろうけどね。
「獅子寮と関わるとろくな事がないな。リクも来れからは気を付けた方が良い」
『そうかもね』
不機嫌ながらもそう忠告してくれてるドラコに同意しながら、リクは密かに溜め息を溢した。
別に、ネビルを助けなきゃ!っていう自己犠牲愛よろしく正義感を振りかざした訳ではない。せっかくだし、助けてやるかという傲慢憮然な上から目線で慢心してたんだ。現実を甘く見てたぜ。
だって、ここでネビルをおできから救おうが放置しようが未来の大筋に変化が加わる事は無さそうだし。私が全力を出すなら、それは死亡フラグをへし折る時位だ。勿論、全ては自己満足の為に。
それがあの時ジェームズとリリーを助けられなかった私の、せめてもの罪滅ぼしだ。