導師と守護役達の日常(3/6)


『何処へ逃げるおつもりですか?散らかした書類の後片付けもされずに』



驚いて此方に振り返って足を止めた彼女達を見据え、私は抑揚の無い…静かな声で尋ねる。



「逃げるなんて、私達はそんな…」

「それに、書類を散らかしたのは私達じゃないわよ!あの子が勝手に…」

『わざわざバケツに水を入れて死角で待ち伏せて彼女が通り掛かった所を狙い、頭から水を被せた自分達が書類を散らかしたんじゃない。…そう主張されるのですか?』



シン……と、その場に静かな沈黙が訪れる。見られていた事を知って絶句したのか、大人しく口をつぐむ三人組。



『導師様への大切な書類を駄目にして……気付いておられない様ですが、導師様への職務妨害です』

「わ、私達はそんなつもりじゃ…!」

『その気はなくとも、貴女方がされた事はそういう事です。…度が過ぎましたね』



漸く事態を把握したらしく、彼女達の顔色がサアッと一気に青くなった。今回の職務妨害は、イジメの許容範囲を完全に越えている。アニスに対してやった事で、導師イオンには関係無いとは言い逃れ出来まい。というか、私が見逃す気もない。



『同僚への職務妨害、及び仕事中の待ち伏せによる職務怠慢、ローレライ教団最高指導者、導師イオンへの冒涜と受け取られても……当然ですよ?』



ニヤリ、と口許に笑みを浮かべる。すると、先程まで彼女達の表情が青ざめていたかと思えば、今度はいきなり怒りに表情を醜く歪ませ、此方を睨み付けてきた。



「何も知らない癖に…アンタ何様のつもり!?」

『さあ?』



三人の内リーダーと思われる一人にガッと胸ぐらを掴まれ、ギッと睨み付けられる。本当に、行動が浅はか過ぎるよ……私が本当は誰かも知らずに。もっとも、知らないからこその愚かな暴挙なのだろうけど。

バイザー越しにそんな彼女達を見据えながら、小さくため息をつく。態度によっては厳重注意とある程度の処分で済ませてあげようかと思ってたのに……馬鹿な事をした物だ。



「良い?さっきアンタが見聞きした事を告げ口したら…」

『どうされるおつもりですか?』

「っ……」



カッとなったのだろう。逆上して振り上げられた右手を見上げながら、サクはハァ…とため息をつく。暴力奮って脅す気なのだろうか。完全に身の振り方を間違えてる上に、情状酌量の余地もなくなったな……コレは。



「アンタ、いい加減に…!」

パシッ

「…待ちなよ」



振り降ろされようとしていた女性の右手が、後ろから誰かによって掴まれた。驚いて女性が腕を振り払いながら後ろに振り返ると……そこにはシンクがいた。

しかも、不機嫌MAXな。



「嘘、何で…」

「そいつから手を離せ。これ以上僕に手間をかけさせないでくれる?」

「っ…!」



明らかに怯えた様子で、彼女は慌てて私から手を離すなり、他の二人と一緒に後ろへと後退った。

嗚呼…シンクから痛い位の殺気が滲み出てるよ。素人なら卒倒しかねない程の。



「全く……アンタ達みたいなのがいるからダアトの品格が下がるんだよ」

「し…シンク様!私達はそんなつもりは…」

「無駄な言い訳は聞きたくないね。……目障りだからサッサと失せな」

「ひっ……し、失礼します!!」



そそくさと……というか、脱兎の如く三人組は私達の目の前から逃げていった。尻尾をまいて逃げるとは、正にあんな感じだろうか。



「……で?一体何があったの?」

『……ははは…』



じろり、とシンクに睨み付けられ、サクはバイザーを外しながら渇いた笑い声しか出なかった。あれー?何で私がピンチに陥ってるんだろう。



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