導師と守護役達の日常(4/6)


「馬鹿じゃない?」

『そうだねぇ』

「いや、サクの方も」

『ははは……』

「笑い事でもないよ」



簡単にシンクへ事情を説明すると、彼は呆れてため息を溢した。

図らずしも、彼女達は導師へ二回も喧嘩を売ってしまった事になる。シンクにまで現場を目撃された以上、謹慎とかでは済まないだろう。というか、あんな性格の悪い部下は私もいらないし。悪いけど。



「サクに手を上げるなんて……本来なら首程度じゃ済まないよ。死罪に値する所だ」

『いや、流石に死罪はちょっと……』

「……サク、アンタ導師って自覚はあるの?」



言われてみれば、確かにそうなるかもしれない。彼女達は導師イオンの職務を妨害しただけではなく、第2導師に暴力迄振るおうとしていたのだから。…うん。シンクが止めたのがせめてもの慈悲に思えてきた。そのお陰で後者に関しては未遂で済んだからね。



「アンタはもうちょっと自分の立場を自覚しなよ」

『けど、ほら、今は導師守護役の格好だし…』

「けど本職は導師でしょ。全く……目を離すと直ぐに無茶ばっかりする」

『………面目ない』



心底呆れた様子のシンクに対して、私はやはり苦笑するしかない。う〜ん、いつの間にか立場が逆転してシンクが私の保護者になりつつあるような……いや、シンクは私よりしっかりしてるから当然の流れなのかもしれない。シンクの成長が嬉しい反面、少し寂しいぞ!

とか考えてたら、何故かいきなりシンクが私の肩にコツンと顔を埋めてきた。構図的には顔ではなく仮面だが、位置的に言うとシンクの額辺りだと思う……っていうか、え、さっき迄呆れてたよね?本当に何で!?



『ちょ、シンク!ここ廊下っ』

「あんまり心配させないでよ…」

『!シンク…』



先程シンクが見た場面は、どうやら思いの外、彼を心配させてしまった様だ。そういえば、あんな風に誰かに私が追い詰められた場面(実際はそうでも無かったんだけど…)をシンクが見たのは、あの初めて襲われた日以来初めてだ。彼なりに、肝を冷やしたのだろう。

とはいえ、最近では彼がこんな風に甘えてくる事もめっきり減ってしまった為、シンクには申し訳ないんだけど…内心、ちょっと嬉しかったりする。



『…ごめんねシンク。けど、私は大丈夫だよ?』

「………」



シンクは答えない。結構堪えちゃったのかな…私もそこまで柔じゃないから、本当に大丈夫だったんだけど。実際、先程の場面で譜術で攻撃されそうになったとしても、余裕で返り討ちに出来る余裕があるし。



『シンクが助けてくれたから……大丈夫』



シンクを安心させたくて、彼の背中に手を回して、優しく抱き締める。前より少し背が伸びた彼に、私はもう身長を追い越されてしまった。

けど、いくら身体が成長しても、心迄はそうも簡単にはいかないのだろう。彼は生まれてまだ半年位しか経っていない……いくら刷り込みがあり、任務もこなし始めているとはいえ、まだまだ精神的には発達が未熟な面もある。

だから、こんな時は彼の気が済むまで思いっきり……甘やかしてあげたいと思う。周りの環境に適応する為に、普段から大人びた態度を取る彼だからこそ、こんな時位は。

そんな彼の事を理解してやれるのは…今はまだ、私やヴァン位しかいないと思うから。



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