最愛を捧ぐ(4/6)

『…まぁ、そりゃそうなるよね』


振り子のような大振りな動きで、大鎌の刃がラルゴの首筋に迫る。その様子をじっと見ていたサク"達"の傍を、"彼女"が走り抜けた。


「お父様っ!!」

「ーー…っ!?」

ガキィンッ


瞬間、辺りに鈍い音が大きく響いた。譜術で強化されたシンクの蹴りによって、大鎌はラルゴの首を捉える事なく、弾き飛ばされていた。ラルゴが動揺したのは、武器を手から弾かれたからではない。その前に、もう二度と聞ける筈の無い声に呼ばれて、何かに飛び付かれたからだ。重く冷たい鎧の上から感じたその物体の正体を知り、ラルゴは瞠目する。


「メリ、ル…?」


はーい、ここで【ドッキリ大成功!】とプラカードを掲げたいところですが、シリアスな雰囲気が超振動を起こすので自重します。ドッキリの許容範囲を超えて胸糞過ぎる!とクレーム待った無しだもんね。そんな私の悪ふざけが過ぎる思考を察知してか、隣にいたクロノさんからは先程から白い目を向けられています。はい、巫山戯てごめんなさい。

…という事で、気を取り直して真面目にネタばらしを致しますと、今までのは全てラルゴが見ていた幻覚でした!アブソーブゲートに着いたラルゴとリグレットを尾行し、ルーク達が到着してヴァンが復活して退散するまで身を潜めて……残ったラルゴとルーク達が戦闘を開始したタイミングで割り込み、かねてからラルゴに仕込んでおいたカースロットを発動。幻覚とカースロット(洗脳)を駆使し、ルーク達が敗北した場面からの上映会だったけど、上手くいったようだ。私とラルゴのやり取りを見てたらあまりにもラルゴが可哀想過ぎて、耐えきれなくなったナタリアがラルゴに抱き付いていった時は少々ヒヤッとしたけど。自害しようとするであろう事は読んでいた為、シンクにスタンバって貰ってて良かったよ。弾かれた大鎌が、ここに戻って来た直後のルークの傍に飛んでいって「ヒィッ!?」とか悲鳴が聞こえたけど、怪我はなかった様だから問題あるまい。


「な…何故…っ」

「っ……親が、間違っていれば…その愚行を子が止め様とするのは、当然の事でしょう…?」


ナタリアを見詰めたまま、暫し呆然としてたラルゴだったが、ハッとして周囲を見回した。幻覚を解除した事によって先程まで転がっていた死体が消え、ルーク達が全員無傷でいる事に気付き、ようやく状況を理解したようだ。

ちなみに。ゲートは既にルーク達によって閉鎖済みだ。私達がラルゴに幻覚を掛け始めた時点で、先に閉じてくるように行って貰ったからね。効率良く行こう。ナタリアと、他数名この場に残って貰ってはいたけどね。

さて、今ならまだやり直せると理解した所で……ラルゴは同じ後悔を繰り返す程、愚かではなかった様だ。


「……私の娘は、もういない…」

「いいえ。ここに…ここにおります!生きておりますわ!そのように、バダックとメリルはもういないとおっしゃって、貴方は逃げているだけです。だって、貴方も私も…こうして生きているではありませんか 」


俺を思い、涙を流す娘の泣き顔が、かつての面影と……シルビアと被る。だが、先程までとは違い、メリルは生きている。生きているのだ。血に染まってなどいない。俺を真っ直ぐに見詰めて、怒って、泣いて……嗚呼、俺は…なんて愚かな事をしようとしていたのか。最愛の娘の命を奪う事など、出来る筈がないというのに。


「私は、キムラスカ・ランバルディア王国の王女、ナタリアです。そして……シルヴィアとバダックから産まれた、娘のメリルです。私達の歩む道が違えていても、私は貴方の娘であり、貴方が私の父親である事実は変わりませんわ!」


家族を奪われ、全て失ったと思っていた。否、思い込もうと、していたのだ。妻も娘も…バダック(俺自身)も、あの時共に死んだのだと。けれど、それは違った。生きて、いたのだ。道は違えど、俺達の娘は、こうして今も生きている。自分は王女であるが、俺の娘でもあるのだと言って。こんな、どうしようもない俺の事を父と呼んでくれている。こんなにも、立派に成長してーー…


「すまなかった……メリル…」

「お父様…っ」


互いに涙を流し、強く抱き合う親子の姿を見守りながら、サクは満足気に笑う。うまく和解出来た様で何よりです。

今回の作戦も、至ってシンプルなものだった。ラルゴの信念と心をバッキバキにへし折ってから改めて娘と向き合わせる。ラルゴの情の深さに付け入る作戦だ。ディストの時と違って、メリルという希望がある分、こちらはまだ救いがある。鞭の加減を間違えると、幻覚とはいえ娘を殺したという罪悪感がトラウマになり、飴(メリル)も効かずに自害するリスクもあったけど、この様子ならもう大丈夫だろう。…多分。

ちなみに。今作戦における配役は、クロノが幻覚担当、私がカースロット担当、シンクとアリエッタは私達の護衛という内訳でお送り致しました。


『さて。ここに来た時に先走ってヴァンを追いかけて行ったアッシュがそろそろ限界な気がするから、私達もそろそろ追いかけない?』

「な!?アッシュが!?」

「!?そ、それを早くおっしゃって下さいましっ!!」


私の提案に、ルークとナタリアが慌てている。ヴァンがアッシュを手に掛けるとは思っていないが為の放置プレイである。ローレライの鍵は現在私が持ってる(追いかけて行く直前にソウルクラッシュとすり替えてやった)し、今頃テキトーにあしらわれてるんだろうなぁ。…って、ナッちゃんにも聞こえたんかいっ!?感動の親子の対面シーンに水を差す気は無かったのに…。

そんな訳で。ラルゴの見張りをクロノとアリエッタにお願いして、私達は一足先にヴァンの後を追う事にした。ちなみに、ナタリアも此方に付いて来るようだ。実の父よりアッシュへの心配の方が優った模様。何気にラルゴがシュンとしている様に見えたのは、気のせいだと思いたい…。


「クスクス…思春期の娘にフラレちゃったね?」

「ラルゴ、ドンマイ…です!」


クロノや、それ以上傷口に塩を塗ってやるなし。そしてアリエッタさんや…そこは励ますんじゃなくて、気付かないフリをしてあげた方が良かったんじゃないかなぁ…?

アレ?見張りに残す人選、ミスったかも?



- 439 -
*前 | | 次#

(4/6)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -