鮮血と烈風(3/8)

そんなこんなで。結局医療施設にも立ち寄り、シュウ医師の診察を受ける事に。この先生に診て貰うのは、今回で二回目だ。地核から脱出した後、私の診察をしてくれたのが、シュウ先生だった。良い人だったから良かったけど、下手したらモルモットにされる所だったかもしれない。ジェイドやディスト辺りだったら確実だったかも。まあシンクが付いててくれたから、その心配は無かったかもしれないけど。



「先程のお話を伺った限り、また随分と無茶をされた様ですね…」

『そうですねー…』

「貴女の場合、我々にも下手に治療が出来ませんので、気を付けて頂かないと」



申し訳ありませんが…と、シュウ先生が苦い顔をされている。レプリカの身体以上に厄介な身体の患者なんだろうなぁ、私。此方のが申し訳なくなるね。



「念の為検査をさせて頂き、前回の結果と比較してみました。以前より、僅かに音素の身体含有量が上がっていますが、お話を伺う限り、恐らくフォミクリーで治療された部位でしょう」



ティアの様に体内に第七音素を溜め込む様な体質ではないから、原因はフォミクリーによるものだと考えるのが妥当だろう。シュウ医師曰く、この他に、特に変わった所や大きな外傷も無いとのことで。



「正直なところ、異常なし、と。言って良いものかどうか図りかねますが…検査結果を見る限り、以前の状態とそう変わりないでしょう」

『ほら。シンクは心配症なんだよ』

「アンタは心配しなさ過ぎだけどね」



大丈夫だったでしょ?と後ろに控えている彼に苦笑を浮かべるも、シンクの方は変わらずジト目で責めてくる。医師も大丈夫だって言ってるんだから、そんなに怖い顔しなくてもいいのに。心配してくれる事自体は嬉しいんだけど、ちょっと過保護な気がしないでもないぞ。私の守護役殿。

ただ…私自身、気になる所も、あるにはある。第七音素の体内含有量が増えてる点とかね。ティアの様な瘴気の蓄積って訳じゃないから、医師からもその点の心配はされていない様だけど。

というより、そもそもこの世界の人達と私の身体の構成が根本から違う訳で。そんな身体をこの世界の医者に診て貰うという事自体が、無理難題だったりする。もともと音素で構成されていない異世界人の身体の第七音素が増えようが何だろうが…。



『(…、………。)』



いや…うん。取り敢えず、これは今は保留……にするべきか。今悩んだ所でどうしょうもない事だと、つい先程浮かんだ疑問を、直ぐに頭の片隅に追いやる事にする。むしろそうなった場合、選択肢が一つしかなくなったと、考えればいい。これで迷ったり悩んだりする必要が無くなった、と。ただ、気掛かりなのが、この場合って最悪…



「以前もお話はしましたが、くれぐれもあまり無茶はされない様になさって下さ……?どうかされましたか?」

『…ああ。すみません。ちょっとぼんやりしてました』

「顔色が優れない様ですが…」

「う〜ん。やっぱりまだ本調子じゃないみたいですね……って、嘘です。冗談です。全然大丈夫です。だから入院手続きをしようとしないでシンクさん」

「僕は冗談じゃないから」

『尚更勘弁して下さい』



シンクの服を掴んで引き止め、必死に彼に懇願して何とか思い留まって貰った。教団に帰ったら仕事中以外は暫く安静にするという条件付きで。地味に鬼畜じゃないか。息抜き出来ないと精神に異常を来たすと抗議すると、その時はそっち方面の病院を当たるからね、と清々しい笑顔で返された。ちょ、その顔は色々反則だっ…!!お陰でツッコミ損ねたじゃないかっ!

医師からも「その様子なら大丈夫そうですね」と失笑される始末。何か色々納得いかない。…けど。…まぁ、いっか。

診察を終えて、余計に疲れが増したと感じながら、サクは一つため息を溢した。

…どちらにしろ、今悩んだ所でどうしようもない事だ。あくまで可能性の話だし、そうなるとも限らない訳だし。それより、今は……今目の前にある問題を、何とかしないと。他事にかまけてる場合じゃない。



『二人共お待たせー(本日二回目)。診察終わったよー』

「お疲れ様です。其方の方はどうでしたか?」

『結果は異常無し。ぶっちゃけ分からないってのが診断結果らしいけどね』

「ちょ、それって本当に大丈夫なんですか!?」



慌てるアニスに『大丈夫だ。問題ない』と笑いながら話を流して、其方の方はどうだった?と二人に尋ねてみる。というのも、私が診察や検査を受けている間に、アニスも医師に診て貰っていたのだ。アニスの方は、昨日の負傷は治癒術で完治しているから問題ないとの事。打撲や打ち身は仕方ないけどね。イオン達も、私に大事が無かった事を知って安心してくれた様だった。

それじゃあそろそろ出発しようか、という事になり。診察費の会計を済ませ、病院から出ようとした所で……シンクに腕を掴まれた。アニスとイオンが先を歩く一方で、私は足を止め、後ろにいるシンクへと振り向く。

真剣味を帯びた翡翠色の瞳が、私を捕らえた。



「……サク」

『入院はしないよー』

「それはもういいから。それより……本当に大丈夫?」



……、シンクには敵わないなぁ。なんて内心思いつつ、何も言わずに彼に頷いてみせる。正確には、何も言えなくて…だったけど。

シンクの方も、何かを察してくれた様で、それ以上は何も言わなかった。前を歩くイオンとアニスの方を一瞥していたから、今は詮索するべきじゃないと判断してくれたのかもしれない。

…何処か辛そうに、凄く何か言いたげな顔をしていたけれど。



「二人共ー?置いて行っちゃいますよー?」

『あ、待ってよアニス!今行くからー!』



するり、と。シンクの手が離されて。小さく「行くよ」とだけ言って、私の横を通り過ぎて行く。チクリと胸が痛んだけれど、表情には出さない様に平静を装って、私も彼等に追い付く為に再び歩き出した。

取り敢えず、だ。今は目の前にある問題…主に瘴気と第七音素不足の件…に集中していこう。ディストから報告書も貰った事だしね。



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