鮮血と烈風(2/8)

宿屋で皆と一緒に朝食を済ませた後、ルーク達はまずはマルクトに向かった。アッシュとクロノ達は宝珠捜索を再開……する前に、ベルケンドとダアトを経由して貰う事に。現在アルビオールは二機しか無い(初号機と二号機)んだから仕方が無いじゃないですか。アッシュカラーのアルビオール三号機…あれもお目に掛かりたかったなぁ…。

閑話休題。

とりあえず、そんな訳で。私とシンク、イオンとアニスのメンバーはベルケンドへと赴いた。ダアトへはここで頼まれた用事を済ませてから戻る予定です。

ベルケンドの研究施設でスピノザ達にフェレス島の件を説明し、ルーク達の報告内容と一緒に伝えた後、イオンとアニスには『野暮用だから〜』と言って少しだけ席を外させて貰い、サク達はとある人物と接触していた。



『ディストお疲れー!目の下の隈も似合うとは流石薔薇のディスト様ですね〜』

「それは褒めてるんですか?貶しているのですか?」

『労ってるに決まってるじゃん』



いや、今のはどう聞いても労ってる様にも褒めてる様にも聞こえないんだけど。しかし、ディストは満更でもない様子。…やっぱり馬鹿だろコイツ。

一緒に付いてきたシンクの心の声もといツッコミである。



「……ベルケンドに寄る事に二つ返事だったのも、そういう意図があったって訳ね」

『そりゃあ、タダでお遣いに行く様な利口な子どもじゃないから、私も』


むしろこの為にここに寄ったんだよ〜、とシンクに言いながらフェレス島で得たデータを渡し、ディストからの報告書を受け取るサクである。サク曰く、ダアトに帰って来てから報告書を貰うのでも良かったんだけど、現在エルドラントやダアトにここベルケンドを行き来して多忙な身である事を考慮し、事前に直接会う約束を取り付けていた…らしい。ここで会う方がディストのスケジュール上の都合も良かったんだとか。正直どうでもいい。

現在ディストは、裏ではヴァンの同士として活動し、表向きは騎士団の使者兼サクの使いとして、多忙極まりない日々を送っている。本人曰く、モースとヴァンの間で蝙蝠になっていた時以上に忙しくて大変らしい。ヴァンの計画が本腰を入れ始めた為か、はたまたサクの人使いが荒いが故にか……正直、その両方が原因な気がしてならないシンクである。

受け取ったデータと報告書を見比べながら、流し読みをしていたサクが、暫くすると表情を顰め始めた。どうやら、あまり良い報告ではなかったみたいだ。



『……足りないの?』

「ええ。貴女の提案を元に見積もってみましたが、やはり現状では難しい様ですね」



ディストの計算結果だと、フェレス島の再建に使用されている分の第七音素だけでは、瘴気中和時に必要な量が圧倒的に足りないらしい。…フェレス島の再建より、エルドラントの建設の方に第七音素を回されたか。或いは、レプリカ一万人は未だ作られていない為、単純にその分の第七音素が不足していると見るべきか。レプリカ一万人分相当量の第七音素を音機関か何かに備蓄し、瘴気中和作戦時に使う……という何らかの手段があれば良かったのだが、そんな都合の良い物は存在せず。譜業博士の名を冠するネイス博士にすら、残念ながらこの一カ月間という短期間では発明するにも時間が足りないとの返答が返された。主な理由は、忙し過ぎてそんな物にまで頭も手も回らないとの事。それはつまり、発明する事自体は不可能でもないという事では…?と思ったりもしたが、ディストの目の下に居座る隈とやつれ果てた彼の姿を見て、現段階でこれ以上の頼み事は難しそうだと、敢え無く断念。長い目で見ても、早期段階で作っておいて損は無い代物になるとは思うのだが……これはまあ致し方ない。

ああ、何にしろ不味いなぁ。不安になってきたよ。



「あと、頼まれていたもう一つの品は完成したので、お渡ししますよ」

『!出来たんだ!』

「ええ。この天才ディスト様にかかれば…」

『有難う!流石ディストだっ』



ディストの手を取り、握手をしたままブンブンと縦に振る。感謝されたせいか、ディストが照れて挙動不審になってるけど気にしない。むしろ、面白いからそのままでOK!

…とか、思ってたら何か突然ディストから変に上ずった「ひぃっ!?」という悲鳴が上がった。私の方も、突き刺さる様な殺気に近い視線…を感じて後ろに振り返るも、そこにはシンクしかいない。というより、発生源がシンクだった。え?何で急に不機嫌に??



『えーっと…シンク?何か怒ってない?』

「別に。用が済んだなら、サッサとイオン達と合流するよ」

『ら、ラジャー…?』



えーっと、これは…待ち時間が長くて機嫌を損ねた。と解釈したらいいのかな?確かに、イオン達も待たせてるし。ついでにアッシュ達も待たせていたりする訳だし。

そんなこんなで。ディストに礼を言ってから彼と別れて、イオンとアニスがいる待ち合わせ場所へと戻ってきた。どうやらスピノザにお茶を入れて貰って寛いでた様子で、此方に気付いたイオンが笑顔で振り向いてくれた。何この子本当に天使。



『二人ともお待たせー』

「あ、もう宜しいのですか?」

『うん。話は終わったからね。あとはダアトに戻るだけだし…』

「その前に、次は病院に行くよ」

『え”?病院は行かなくてもいいよ。治癒術で粗方治療したし、暫くは安静にする予定だし』

「ダメですよサク様!」

『えー…』

「検査だけでも受けられてはどうでしょう?僕も心配ですし」

『う”……分かったよ。イオンにまで言われたら、しょうがないか…』



何時まで寄り道させるつもりだと、アッシュ辺りに文句を言われそうだけど…とボヤくと、医療施設に立ち寄る事は既に伝えてあるとのこと。私の守護役は用意周到でした。



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