束の間の休息(4/8)

シンク達から少し離れた所まで来て、取り敢えず適当なビーチチェアに座るよう、サクはアッシュに勧めた。ここなら彼等にも話の内容までは聞こえないだろう。まあ、仮に聞かれてしまったとしても、最終的には問題が無いように事を運ばせるつもりではいるんだけど……出来れば皆に余計な心配をさせたくないし。何より、これはアッシュ達の個人的な問題だ。彼自身が皆に話す気がない以上、私から他の人達に言い触らす気は毛頭ない。

何のつもりだ?と嫌そうな顔をしながらも、一応話は聞いてくれる様で、ビーチチェアに座ってくれたアッシュに、サクは小声で話を切り出した。



『…一応確認するけど、ディストから大爆発についての話は聞いてるんだよね?』

「…やっぱり、テメェも知ってやがったんだな」

『うん。それはそうなんだけどね…』

「なら、お前も分かってんだろ。俺に残された時間は少ない。…既に、兆候は現れてるからな」



その口振りから察するに、やっぱり勘違いしてたか…。どう説明を聞いたのかは知らないが、恐らくスピノザから大爆発の現象について聞いた時と同様、話を最後まで聞かなかったのか。まあ、相手がディストという点を考えると、仕方が無い気も…ああもう何でもいいや。取り敢えず。ごほん、と一つ咳払いをして、説明を始めてみる。



『簡単に言ってしまうと、大爆発は、被験者がレプリカを取り込む現象だよ』

「……は?」



つまりアシュルクなんだよマイバイブルアビスカップリング!という魂の叫びはぐぐぐっと押し堪える。ここでアッシュの機嫌を損ねて話を聞いて貰えなくなると不味いからね。



『アッシュが思ってるのとは逆の結果。確かに大爆発の過程…コンタミネーション現象の一種で、一度は被験者が仮死状態になって、レプリカに被験者の音素が流れ込むよ?でもそこで再び音素が再構築されて、被験者をベースに、記憶が統合される。…結果、被験者にレプリカが食われるんだ』



完全同位体の被験者とレプリカの間で起き得る、特殊なコンタミネーション現象。アビスの予備知識以外に、この世界に来て実際にフォミクリーの文献を読んでみて、確認もした。勿論ディストにも確認済みだ。



「…ちょっと待て。それじゃあ…」

『だから、アッシュは死なない。むしろ、死ぬのはルークの方なんだよ』



安心してか、逆に自分がルークを殺す側だと知ってか、或いはその両方の感情からだろう……アッシュは驚きに瞳を見開いた後、複雑な面持ちになってしまった。



『正確には、二人が一つになるだけで、どちらも死なないのかもしれない。けど……少なくとも、今のルークという個は、死ぬ。アッシュも、多少は人格が変わっちゃうかもしれない』

「………」



あのEDを否定したい訳じゃない。けど、やっぱり…ね。



『レプリカに奪われた時間を被験者が取り戻すって意味では、理に叶ってるのかもしれないね。けど……悪いけど、私は、そんなの納得しない』



確かに物語としては、あれは筋が通った結末と言えるだろう。言うなればハッピーエンドではなく、トゥルーエンドだ。けど…



『私はどちらかが消えるなんて嫌だから。ルークもアッシュも……ううん。どっちのルークも、私は失いたくない』



私が納得のいかない悲劇ならいっそ、滑稽な喜劇に変えてしまえ。世界救済の大義はルーク達が何とかしちゃうだろうから、私は私のやりたい事を好きにさせて貰う。これが、私の旅の目的、未来の改編。やりたい事の一つだ。



「…お前がそこまで言い切るって事は、何か打つ手があるのか?」

『……まだ確証は無いけど、一応はね。それに、ディストにももっと完全同位体や大爆発について研究して貰うようにお願いしたし』



変人だけど、音機関やフォミクリーの研究に関してはジェイドに次ぐ優秀な人材だし。変人だけど。ディストと聞いて余計に不安を感じてしまったのか、渋い顔になってしまっているアッシュに、思わず苦笑する。深くなった眉間の皺を指先でツンと突くと、流石にハッと我に返ったが。アッシュから嫌そうに睨まれてしまったので、サクは構わず彼に優しく笑い掛けた。



『…大丈夫。アッシュもルークも…二人共死なせたりしないから、安心して。だから、血迷って死に急いだりなんかしないでよ?』



勿論、大爆発が起きない可能性も、まだ十分ある。預言が絶対ではない様に、やり方次第ではある程度未来も変わる筈だ。クロノやイオン達がいい例だろうと、アッシュに力説していると、終いには何故か彼に鼻で笑われてしまった。…気のせいだろうか。呆れを通り越して、関心されている様な気がする。



「つくづく、お前ってスゴイ奴だよな…」

『クックック、もっと私を褒め称え崇め奉り賜え』

「ハッ、大ボス気取って調子に乗んじゃねえよ」

『実際にローレライ教団の大ボスの一人だけどね』



真のラスボスって、実はコイツなんじゃねえの?内心そう思わずにはいられないアッシュであったとか何とか。



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