束の間の休息(3/8)


「わーい!温泉だー!」

「ちょ、走ると危ないよ!フローリアン!」



シンクの忠告に、「ハーイ!」という元気のいい返事が木霊して返ってくる。が、結構はしゃいでいるだけに、ちょっと心配だ。



「僕が一緒に付いて行きますね」

「あ、オイラも行きますよ」



…と思ってたら、イオンとギンジさんが申し出てくれた模様。イオンが一緒なら、取り敢えずは安心かな。あ、でもイオンも結構天然で抜けている所があるし身体も弱いから、フローリアンに付き合って一緒にのぼせたりしそうで心配な面もあったりする。が、そんな二人と一緒に更に面倒見の良さそうなギンジお兄さんも一緒に追い掛けて行ってくれたみたいだから、おそらく大丈夫だろう。実際にノエルのお兄さんなだけあって、年下の面倒見も良さそうだし。流石ノエルのお兄さん、略して【さすおに】ですね。



「お、どうやら男共に先を越されたみたいだね」

『あー、私が色々手間取ってたから余計にですね…』



女子更衣室から出て来た所でフローリアン達のやり取りを眺めた後、取り敢えずシンク達が近くに集合していたので、そちらに寄って行く事にした。



『お待たせ〜』

「意外と遅かったね」

『乙女は身嗜みに時間が掛かるものなの!』



…て言うかクロノさん、



『何故にバスローブを…?』

「遅いから先に寛いでたんだよ」

「むしろ寛ぎ慣れし過ぎだよね」



リゾートキングならぬリゾートプリンスがいたとは…!流石クロノだ。恐ろしい子…!そしてその隣に立つシンクは、薄黄色のパーカーに、黒基調の緑のライン入りの水着とまともなチョイス。普通に似合ってるじゃないか。



『シンクもパーカー着てる!お揃いだねー(結構いい体してるし……二年前の時には無かった筋肉がバランスよくついてるし…いつの間にか成長してたんだなあ…)』

「………」

『…えと…?』



…あれ?まさかのノーリアクション?此方を凝視したまま無言を貫いてくるシンクに、サクは珍しく反応に困ってしまった。…はっ!まさか、心の声が全部漏れてて聞かれてしまったが故の反応なのか!?サクが内心焦り始めた所で、シンクの視線が私のパーカーに集中している事に気付き、今度は冷や汗が流れる。これはもしかして……パーカーで傷痕を隠してる事に気付かれたパターンか!?否、お腹の傷跡はパーカーのチャックを下の方だけ少し閉めてる状態だから、カバーされて見えない筈。…はっ!だから逆に隠してる事がバレて怪しまれてるのか!?うわああ胸元まで閉めておくべきだったのか!?でも、そしたらせっかくの可愛い水着が全く見えなくなって勿体n…((以下略



『……な、何…?』

「!……べ、別に!」



…かと思いきや、今度は突然シンクにプイッとそっぽ向かれてしまった。何故だ。マルクト帝国の現皇帝陛下が御自らデザイン&制作を手掛けられた、有り得ない逸品なんだぞ。可愛くないとは言わせない。…あまりにも私には似合ってなさ過ぎて、目も当てられない……っていうのなら、話は分かるけど……あれ?何だか急に悲しくなってきた。

…取り敢えず、パーカーや傷痕について言及してこない様なので、これはばれていないと判断させて貰ってもいいかな。むしろ良いよね?ああもう心臓に悪い!



「サク様の水着姿、とてもよく似合っていらっしゃいますね。さながら、温かい奇跡の泉で羽を休める、天使の休息…と言った所でしょうか」

『!!?あ、有難う…っ』



落ち込みかけていたら、今度は突然フレイルから歯が浮きそうな称号名を頂きました。ガイといいフレンといいフレイルといい、君達は全員揃って天然タラシ属性なのかっ!!今のは完全に不意打ちだったせいで、あからさまに動揺してしまった。今の私の顔は、間違いなく赤くなっている筈だ。…うん。これはこれで心臓に悪いですね。フレイルを直視出来ない上に、先程までとはまた違った気恥ずかしさの所為で死にそうかも。



『フレイルも、カッコいいよ。テクニカルダイバー』

「…っ!!あ、有難う御座います!」



…って、まじでテクニカルダイバーktkr!!やはり彼は、安定のフレンでした。やっぱりかというか何と言うか…!先程までの乙女思考は何処へやら。フレイルの水着がテクニカルダイバーの称号だと気付いた瞬間、このテンションの切り替わり様である。ガイの時も思ったけど、スパで救援いるのか!?のぼせるから?そして温泉後はハンソデ王子に称号チェンジをしそうな気がする。フレンだけに。



「………チッ」

「…おいシンク、何で今こっち見て舌打ちしやがった」

「別に。ただ顔を背けたらアッシュと目が合っただけだから」



そしてアッシュは…普通にタオラーじゃねぇか!何か、長髪なせいか、夏の屋台や海の家で焼きそばを焼いてそうなイメージだよ。王族なのに…。ルークと遺伝子が同じせいか。否、この場合ルークがアッシュと同じ遺伝子な訳だけど……どっちにしろ頭にタオルとか、ダサい。



「オイ、全部声に出てるぞ」

『マジか!?』



眉間に皺を寄せて、苛立ちに表情を引き攣らせるアッシュ氏。何か知らないけど、今日は朝からアッシュのイライラが積もりに積もっていらっしゃる模様。何故だ。いや、どう考えてもアンタの発言の所為デショ、というクロノの正論が聞こえた気がしたけど気にしない。そんな事は百も承知な上で今の私はあえてボケに走っているのだから。



「…クソッ。こんな所で遊んでいる場合じゃねぇってのに…」

「吹雪で足止めされてる以上、我々もどうしようもありませんからね」

『自然の力はコワいからね(棒読み)』

「僕はアンタの発想と行動力にも畏れ入るよ」



再び苛立ち始めたアッシュを見て、フレイルも苦笑する。そして、クロノの発言から察するに、彼には先程の吹雪のカラクリはやはり見抜かれていたようだ。でも、クロノなら黙って私の話に乗ってくれると思ってたよ!私の事を畏れ入るとか言ってるけど、こうしてスパを満喫している時点で、クロノも私と同じ穴の狢という事さ。

それにしても、アッシュもそんなにカリカリしなくても良いのに。



『そんなに心配して焦らなくても、流石にローレライも抵抗位はするだろうからヴァンも制御に時間掛かるだろうし、腹心のリグレット達も重傷負ってるし、暫くはヴァンも出て来ないって』

「ハッ、生憎と、お前達とは違って、俺には時間が無ぇんだよ」

『(………あれ?)』



ここで一つ、サクは違和感を感じた。

…ちょっと待って。俺には時間が無いって、その言い方じゃあまるで…



「…は?何それ?どういう事?」



シンク達も、アッシュの言葉に違和感を感じた様で、怪訝な顔つきになる。あー、これ以上は不味い。っていうか、話が広がって余計に面倒な事になりそうだ。

と、言う事で。



『…アッシュ、ちょっと話があるからこっちに来て。皆は先にスパを満喫しててねー』

「おい!?」

「ちょ、サク?!」



シンクに引き止められ掛けたけど、サクは足を止める事は無く、アッシュの手を引いて二人でその場から強引に離脱した。



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