生まれた意味(6/16)

結局、超振動による瘴気の中和は、ルークが引き受ける事に決まった。ローレライの鍵は現在アッシュが保持している上に、アッシュは自分が引き受けると言ったまま去って行ってしまった。スタイリッシュ持ち逃げ、言い逃げでもある。いや、まあスタイリッシュかどうかは兎も角。取り敢えず、アッシュも瘴気の中和を行う場所に関しては、計画の段階から既知な為、他の所に向かう様な事はしないとは思うけど……最悪、同調フォンスロットを繋いで止める事も出来なくはないし、なんとかなるだろう。

計画決行日は明後日。実施場所は、レムの塔で行われる事に決まっている。この世界で一番高い建物であり、空を覆う瘴気も多少は集めやすいだろう、という配慮から選ばれた。…ヴァンじゃないけど、これには私も少しだけ預言の…って言うかむしろシナリオの強制力を感じたよ。…もっとも、提案者は他でもない私な訳だが。

そして、負担を軽減する為に必要な第七音素は、フェレス島のレプリカで補う事となった。島を人工的な浮島にしている海上移動装置(かつてディストが考案、作成を手掛けたモノ)を操作し、レムの塔があるキュビ半島沖まで移動させるのだが……実は言うと、既に移動済みだったりする。前述した提案者が私である以上、お膳立てにも抜かりはない。

けれど、これだけでは足りない。瘴気を中和するには、肝心の第七音素がまだまだ足りないのだ。

ジェイドに言った事は、強ち的外れではないのだろう。この一ヶ月、私は一万人のレプリカ作成を阻止する為に、ヴァンのレプリカ研究施設からフォニミンやエンシェント鉱石を回収して回った。ディストの話によると、私達が回収した分でレプリカを作った場合、多めに見積もってもレプリカは五千人程しか作れないとの事だった。フェレス島やホド島のレプリカによる再興に消費された第七音素の量を足して単純計算を見積もっても、レプリカを一万人作る量には届かず、八千人が限度だとも。

オールドラントを覆う障気を消す為に必要な第七音素の必要量は、レプリカ一万人分だ。本来ならば、レプリカ一万人の命を犠牲に障気が中和される所なのに、この世界では第七音素が明らかに不足しているのだ。

このまま障気中和作戦を決行した場合、ルークは確実に音素乖離を起こして死ぬだろう。下手すれば、それでも消し切れなかった障気を消す為に、アッシュも犠牲になる可能性がある。

そこで、私は気付いたのだ。ローレライは、私にこの星の未来を変える様に頼んできた。それは、ルークやアッシュが障気中和の為に命を落とし、最終的にローレライは解放されず、この星が滅んでしまう未来を変えて欲しいという事だったのではないだろうか。シナリオ通りに進むのがアビスの正史の未来だとして、この世界は正史から派生した滅びの未来を歩む世界線だとしたら。

イレギュラーな私は、ルークやアッシュが乖離してしまう未来を変えて、本来のシナリオの終末であるローレライの開放まで彼等を保たせる為に、この世界に呼ばれた可能性が高い。

全て私の憶測なだけに、この結論はただの廚二病かもしれない。けれど、このままでは現状最悪な事に変わりはない。

日も暮れて、少し肌寒くなってきた空気を感じながら、サクは一度目を閉じる。…どうしたらいい?このまま無策に、一か八かの賭けに出て、本当に大丈夫?考えが纏まらないまま、時間ばかりがただ悪戯に過ぎていく。こんな風に、時間が無くて焦るのは久しぶりだ。…私に、何が出来る?どうしたら、ルーク達を助ける事が出来る?どうしたら……



「…やっぱりここに居た」

『!』



後ろから聞こえてきた声に、思考の海から意識を現実へと引き戻される。膝を抱えて座ったままの状態で顔だけ振り返ると、転移譜陣の上にシンクが立っていた。



『…よく見付けられたね』

「伊達にサクの守護役をやってないよ。なんせ、教団内で脱走したサクを捜すのが、僕の仕事の一つだからね」

『脱走じゃなくて、息抜き!』

「どっちも同じだろ」



それに、ここはサクのお気に入りの場所の一つだし。そう言って、シンクも私に倣って眼下に広がる街の夜景を見下ろしている。

…ここは、かつて私が(無断で勝手に)作った、譜陣でワープする、教団の屋根の上だ。初めてシンクとここに来たのは、今から二年位前で、その後も何度か来た事がある場所だ。ここから空やダアトの街並みを眺めるのが好きで、よく息抜きに来てはシンクに見つかったりして、怒られたっけ。それでも、この場所や譜陣の事をモースにチクらないでくれたシンクは、かなり優しかったんだと思う。…と、そんな事を考えていたら、フワリと何かが背中に被せられた。



『?あったかい…』

「夕暮れ時にこんな高台で薄着じゃ風邪をひくだろ」

『あ、有難う…』



シンクに小言を言われながら肩に掛けられたソレを見れば、ブランケットだった。…準備が良いですね。流石、私専属の守護役。完全に行動が読まれてるよ。何処までも至れり尽くせりな彼に苦笑を溢せば、いつもの様にシンクにはため息をつかれた。



「また一人で考え込んでたんでしょ」

『…そりゃあ、良い手はないか、考え込みたくもなるよ…』



このままでは、預言通りにも、シナリオ通りにすらいかないのだから。自分の好きな様に未来を変える、なんて余裕を偉そうに宣えない。



「サクにそこまで余裕が無いのって、クロノの時以来じゃない?」



…言われてみれば、そうかもしれない。あとは最初にシンクやフローリアンを助けた時とか、北部戦に特攻を仕掛けた時とか、シンクが地殻に身を投げた時も、結構焦ってたかなぁ……って、シンクが関係してる時が大半じゃないか自分!!頭を抱えて密かに悶絶していると、シンクが私の傍に腰を下ろしてきた。何処となく気遣わし気な視線をシンクから感じて、私も少しだけ冷静さを取り戻す。取り敢えず、今はそんな他事を考えてる場合じゃない。



「…ルーク達が心配?」

『そりゃあ、ね…』



もう、黄昏時も過ぎたらしい。既に暗くなってきた空を見上げると、星よりも譜石帯がキラキラと光っていた。かつてユリアがいた創生歴時代に、障気から逃れる為に、宇宙に行こうと計画してた位だ。今以上に高度な文明が発達した当時の時点で解決出来なかった障気の問題を、文明が退化しているこの時代で解決出来ると考える方に、無理がある。



『…どうしたら、良かったんだろう。何処かで間違っちゃったのかな、私…』



レプリカを犠牲にするのが正しかったのかな?シナリオの様に。ルーク達の為に、彼等を殺すのが最善の道だったのか。けれど、後悔してももう遅い。

このままじゃ、ルーク達が死んでしまう。

いくら私の力がチート並とはいえ、ジェイドが言った様に限界もある。それでも、試してみる価値は十分あるだろうし、勿論私自身やる気だけど……やはり勝算は欲しい。あまり悪い方向に考えたくはないけど、シナリオとは状況が異なり、条件が揃っていない今、万が一……という場合もある。むしろ、シナリオの状況と比べて、現状の方が絶望的なのだ。

そう考えると、やっぱり、私がやってきた事は間違ってーー……



『…シン、ク……?』

「サクは何も間違ってない」



突然後ろから抱き竦める様にして回されたシンクの腕に、力が籠る。シンクからの力強い肯定に、何だか背中を押された気がして。胸に込み上げてくる言い様のない感情に、サクの目頭が熱くなる。…どうして、シンクの言葉にこんなにも安心するのかな?こうして彼に許されるだけで、全て本当に間違いじゃない気すらしてくるから不思議だ。…正直、このまま彼に泣きつきたくなったけど……流石に今回はグッと堪えた。これ以上、シンクに心配を掛けてどうする。そうでなくとも、シンクには普段から迷惑や苦労を掛けてるのに。



「アンタはそうやって、すぐに一人で全部背負い込もうとする。悪い癖だよ」

『う…』



でも、そんな私の強がりですらも、シンクにはすっかり見透かされてしまっている様だ。



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