覚悟の決闘(13/19)


「クロノ!ここがアリエッタの生まれ故郷、フェレス島…です!」

「うん。綺麗な所だね」



アルビオール二号機で降り立ったフェレス島の街中で、アリエッタは無邪気にはしゃぎ、クロノも少女の笑顔と街の情景に瞳を細めた。津波に襲われ、現在フォミクリーで密かに再生中である、無辜の島。長年潮風に晒され朽ちかけた街の残骸や建造物は、津波に襲われる前はとても綺麗な外観であったであろう様子が窺える。まだまだ再建途中ではあるものの、白亜の街並みには独特の雰囲気があって、ここが再建途中なのがとても惜しかった。



「フェレス島はね、アリエッタと……僕の生まれ故郷なんだ」

『え…!?そうなの!?』

「僕は生まれて直ぐに教団に連れて来られたらしいから、全然知らないけど。僕の生誕預言によるとフェレス島だったらしいね」



クロノの言葉に、サクは驚く。成程、女の子は桃色の髪で、男の子は緑の髪色なのがフェレス島民の特徴、ってところか。



「預言通りに馬鹿な戦争なんかが起きなければ、僕が預言に詠まれた次期導師として連れて来られなければ、僕とアリエッタは、幼馴染みとして出逢い、互いに普通に暮らしていたかもしれない。そんな平和であり来たりな未来があったかもしれないのに。

預言は、この世界の人間達は、そんな細やかな未来を潰したんだ」



ザァ…と、潮風がクロノの髪を攫う。悔しさや、焦燥感を滲ませたクロノの声音に、アリエッタも思う所はあるのだろう……ぬいぐるみを抱き締め、悲し気に俯く。そんなアリエッタの頭に、優しく掌が乗せられた。気付いたアリエッタが顔を上げると、クロノがアリエッタを優しい瞳で見詰めていた。



「…ダカラと言って、今更恨みはしないよ。過去を嘆いて、預言に失望しても、何も変わらない事はよく知ってるし。そんなどうしょうもないもしもの話なんて…所詮は無意味だ」



仮定は仮定でしかなく、都合のいいもしもの話なんて、考え始めたら切りがない。

そもそも、預言に定められた以外の、他の未来の選択肢なんてモノは有り得ない。全ての人間は預言に支配され、理不尽に定められた滑稽な人形劇を踊らされているのだと。全てがくだらない茶番に感じて、自分も他の人々もガラクタだと。…そうやって、世界にも自身の未来にも絶望していた時期も、確かにあった。

けれど、それも今となっては過去の話だ。今の自分は、預言以外の未来を選び取れる事を知っている。



「それに、僕は今の生活にはワリと満足してるしね。導師と預言の呪縛から開放されて、晴れて自由の身になって。不都合だったり不便な事も色々あるけど。アリエッタの傍にいる事が出来て、一緒に生きる事が出来て。…幸せだよ」



クロノの言葉で、彼が見せる心からの笑顔で、胸がいっぱいになる。あり得たかもしれない、もしもの未来。死を回避した未来の今。どちらも可能性はあって、けれど、預言に縛られた世界によって、かつてはそのどちらも閉ざされていた。



「だから、アンタの選択は間違っていないよ」

『クロノ…』



不覚にも、ちょっとだけ涙腺にグッときてしまった。まさか、クロノから改めてそんな言葉を貰えるとは思ってなかったから。少なくとも、自分のやり方に疑問を感じてたこのタイミングは、効果は抜群だ。



「…確かに、間違ってはいないのかもしれないけど……でも、今回の件に関しては、僕は正直どうかと思うよ」



ジトリ、と今度は隣から睨まれた。クロノと同じ声で、彼とは対照的な猜疑を訴えてきた人物に、サクは苦笑を浮かべる。うぅ、空気読もうよーそんな手厳しく今の現実を突きつけないで。



「普通決闘までする?イオンとアニスの為なのは分かるけどさ」

「あぁ、それは僕もシンクと同感かな」



サクにしては、アイツに対して随分と手厳しかったんじゃない?と、特に責めるでもなく、純粋に疑問に感じた様なニュアンスでシンクに問われ、サクはそうかなぁ…?と、首を傾げる。クロノまでシンクに同意してるけど、張本人である私にはあまり自覚はない。いや、本当はちょっとあるけど。むしろ確信犯…いやいや何でもナイヨ。ていうか、今何気にクロノに即行で掌を返された気がするんだけど。



『シンクの方こそ。アニスの両親に厳しかった癖に』

「事の発端になった原因は、あの両親に問題があったからでしょ?あと、アニスに関しては導師守護役の癖に導師を殺そうとしたから気にくわないだけだよ」



イオンの趣味が分からない…なんてボヤくシンク。此れは…少し分かりにくいけど、イオンの事を心配していると受け取っても良いのだろうか。



「同族嫌悪かい?」

「アイツはイオンが死ぬって分かっててやったんだ。僕より悪質だろ?」



からかい混じりなクロノの視線に、シンクの眉間に皺が寄る。以前、シンクはサクとは対立してヴァンの方に付いていた時期があり、間接的にサクを裏切っていた。その時に事故ではあるが彼女に怪我を負わせてしまった事は、まだ記憶に新しい。既にサクと和解した今となっても、シンクの中では未だに悔やんでも悔やみ切れない悔恨として、いつまでも罪悪感を引き摺っていたりする。その辺の事情が今回のアニスの件と似通っている事に関して、同族嫌悪かとこの被験者様はほざいてるのだ。本当、どこかの死霊使いと同じくらい性格悪い。



「…ていうか、そもそも、サクは何で借金を何とかしてあげなかったの?アンタの持つ権限なら好きに出来そうだろうにさ」

『現実は甘くないんだよ、クロノ。そしてそんなホイホイお金を他人にあげられないしね。金の切れ目が縁の切れ目とも言うしさ』

「あ、サクって意外とケチ臭いんだ…」

「まあ、確かに額が額だったしね…」



元庶民の金銭感覚を舐めないで欲しい。そして教団の資金事情も地味にカツカツなんだぜ?タトリン夫妻の借金の額を思い出して、シンクも表情を引き攣らせている位なのだから。モースもよく肩代わりなんて出来たね。ポケットマネーじゃなくて運営資金に手を付けましたとかだったら今度神の雷(物理攻撃複合ver.)をくらわせてやろう。汚職ダメ、絶対。

半分冗談はさておき。

この度、私達がフェレス島を訪れたのは、フォミクリー装置の停止させる為の他、この場所をアニスとの決闘の場所に指定したからだ。この決闘は、アニスの覚悟がどれ程のものかを試す為のものであり、 ぶっちゃけ彼女達に殺し合いをさせる気なんて毛頭無い。故に、参戦するアリエッタのお友達も、トクナガのハンデを考えて、アニスと対等にライガ一匹だけになる予定だ。一応どちらが勝っても負けても大丈夫なイベント戦にする予定だよ。とは言え、此方も簡単に負けてやる気もないがな!

上手くいったら、最後にはドッキリ大成功☆の看板を掲げて、ディドゥーン!って効果音を付けてやりたいなあ。シンク辺りには却下されそうだけど。いっそアッシュに立会人兼撮影を頼んで、ディストに音声と照明その他の裏方や機材関係諸々を頼めば良かった…っ!!果てしなくくだらない事で内心悔しがるサクである。そしてディストの扱いがジェイド並みに酷かったりする。



「…じゃあ、フォミクリー装置の停止作業はそっちで頼んだよ。僕はセフィロトの方を確認してくるから。決闘までにはコッチも間に合うと思うけど……くれぐれもアリエッタに無茶はさせないでよね」

『り、了解でありますよ〜クロノ提督』

「何故に艦コレ風?」

「アリエッタも、頑張る…ですっ!」

「ていうか、頑張るも何も、サクが決闘に参戦する時点で、アニスの負けは確定じゃん」

『勿論手加減はするよシンク。あと、これは勝ち負けで決まる問題じゃないし。慢心してる相手との勝負はどう転ぶかは分からないものだよ?』

「慢心するなよ…」

『それに…』

「?」

『もし私が危なくなった時は、頼れる私の守護役が助けてくれるでしょ?』



ニッ、と笑みを浮かべてシンクを見詰めると、彼は虚を突かれた様な顔をした後……頭が痛いと言わんばかりに手で顔を押さえながら、呆れてため息をついていた。



「……そんな事まで有言実行させなくて良いから」




















そっと目を開けると、目の前には見慣れた緑の髪の少年の後ろ姿が、ぼんやりと見えた。…うん。さっきのは、ちょっと走馬灯が駆け巡る程度には危なかった様だ。未だに心臓がバクバクいってるし……



「油断するなって言ったよね?」

『…してないよ。ルーク達が強くなっただけ』



少し、怒った様な彼の声音に、サクはクスリと苦笑を溢した。



- 383 -
*前 | | 次#

(13/19)

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -