覚悟の決闘(14/19)

徐々に落ち着きを取り戻した頃には、視界の方も漸く正常に戻ってきて、目の前に立つシンクの背中がはっきりと直視出来るようになった。ルークの剣は、シンクの拳によって止められていた。イオン同様、私の方にはシンクが飛び込んでくれた様だ。シンクと相対するルークの方は、驚いて固まってしまっており、戦闘の方も完全に中断していた。

他の仲間達の方も、シンクだけでなくアリエッタとアニスの方のイオン乱入騒動にも、漸く気付いた様だ。ちなみに、ガイの方は私のバイザーが弾かれた時点で、素顔を見られた様だった。…道理でガイの秘奥義の後に彼から追撃が来なかった訳だ。



「どういう事…?何でシンクが…それに、あれは…」

「…やはり、そういう事でしたか」

「え?」



疑問符を浮かべるルーク達の中でも、ジェイドはいち早く状況を把握した模様。そんな彼等の反応を見てたら、徐にシンクが此方へと振り返り、スッと手を差し出された。全身に響く鈍い痛みに思わず顔を顰めながらも、シンクの手を借りて助け起こされ、ルーク達の方に改めて顔を上げたら、彼らの瞳が更に驚きに見開かれた。



「ーーっつ!?サク…?いや、まさかお前…も…」

「サクはレプリカじゃないから」

『シンク、その言い方じゃ分かりにくいよ』



面倒そうなシンクの物言いに、サクは苦笑する。どうやらジェイド以外の全員が、此方の正体を理解出来ていない様だ。



『…導師サクと守護役ユリアは、同一人物だよ』



地面に転がっていたバイザーをシンクに拾って貰い、受け取ったバイザーを先程までの様に装着したり外したりして見せた所、一同が「あ…!」と、再び驚きに目を見開いた。うん。気付くのが遅いよ皆。導師サクと守護役ユリアが同時にルーク達の前に現れた事は無かったから、すぐにピンとくるかと思ったんだけど……バイザーの効果か、そもそもこの二人が同一人物、または被験者とレプリカかもしれない…とは、夢にも思われていなかった様だ。声とか戦い方の癖なんかはまるっきり同じだったであろうに不思議。



『イオンの飛び入り参加に関しては、私も予定外だったんだけどね…』



視線をそちらに向ければ、あちらはあちらで茫然と固まっていた。アニスの視線の先には、アリエッタともう一人、イオンと同じ顔の人物がいて。その人物はアリエッタを腕の中に大事そうに抱き抱えていた。

イオンがこの場に現れた時点で、彼等がここに来ている事は確信していた。だからあの時、彼等にアリエッタを助けるよう"お願い"したのだ。



「もう大丈夫だよ、アリエッタ」



その優しい声に、そっと瞳を開けたアリエッタは、その人物を見上げるなり、すまなさそうに…今にも泣き出してしまいそうな瞳で、彼を見詰めた。



「クロノ…ごめんなさい。アリエッタ、負けちゃった…」

「アリエッタはよく頑張ったよ。だから、後の事は僕に任せて。今から君を傷め付けたあいつらを全員消し炭にしてくるから」

『ちょおおおい、待て待て!当初の目的を忘れてるよ!?』

「冗談ダヨ」

「片言じゃねーか!!」



まるで聖人君子の様な穏やかな表情でアリエッタに治癒術を掛けていたクロノに対し、サクとアッシュのツッコミが炸裂した。ああ、鮮血も居たんだ。なんてわざとらしくのたまうクロノに、アッシュのデコに青筋が……ていうか、本当にアッシュ居たんだ。立会人の癖に、危なくなったら止めてよ!!と文句を言ってみた所、俺が止める前に全員(緑っ子達)が各々勝手に飛び出して行きやがったのだと逆ギレしてきました。何この立会人、使えない。



「アニス、大丈夫ですか?」

「!イオン、様…!」



サクやクロノ達が不毛に言い合う最中。イオンに心配そうに声を掛けられ、茫然としていたアニスはハッと我に返った。クロノ達とイオンを交互に見ながら、どう反応したらいいのか分からない様子。



「アタシは、何とも…それより、イオン様の方こそお怪我は!?」

「大丈夫ですよ。アニスが、守ってくれましたから」

「……っつ、」



その言葉を聞いて、イオンの笑顔を見て。アニスは崩れ落ちるようにしてその場に座り込んでしまった。…ああ、そっか。アタシ、今度はイオン様を守れたんだ。導師守護役として……ちゃんと、守れたんだ。それに、イオン様も……こんなアタシを、信じてくれたんだ…。ずっと張り詰めていた緊張の糸が解れ、ボロボロと涙を溢すアニスを、イオンは優しく抱きしめた。



「二人を止めに入った筈が、むしろ危険な目に合わせてしまって……すみません」

「そんな…アタシ、は…」

「また、僕の方が守られてしまいましたね」



申し訳なさそうに話すイオンに、アニスは泣きながら首を横に振る。涙が止まらない様で、イオンが申し訳なさそうに涙を手で拭ってあげている。



「事情はクロノから聞きました。でも、事前に僕にも教えて欲しかったです。僕に関係のある事なら、尚更です」

「…ごめん…なさい…」

「…でも、二人共無事で…本当に良かった」



イオンがアリエッタの方にも視線を向けて微笑むと、アリエッタも嬉しそうに笑って。アリエッタは再びクロノと顔を見合わせて、彼女はまた嬉しそうに笑った。えー…何だか完全に二人の世界を各々で作り上げてる彼等ですが、そろそろ水を差してもいいかな。と思ってたら、私より先に口を開いた勇者がいた。我等が主人公、ルークだ。



「えっと、お前も……イオンのレプリカ、なのか…?」

「…ふーん。鮮血と似た様な反応だね。ま、その推測に関しては残念ながら不正解だけど」



特に興味もなさそうに、クロノは気のない返事を戸惑い混じりのルークへ返していた。アリエッタとのやり取りを邪魔されて、微妙に不服なのかもしれない。



「こうして直接会うのは初めましてになるのかな。僕は元ローレライ教団が最高指導者、導師イオン被験者。現在はクロノって名乗ってるからコッチの認識でヨロシク」

「イオンの被験者!?…生きてたのか…」

「勝手に殺さないで欲しいね。ヒヨコ頭」

「ヒョ…!?」

「ま、サクがいなければ、僕は実際に死んでただろうけど」

「…実際に死んでいた、とは?」

「イオンから聞かなかった?被験者の導師イオンは二年前に病で死去し、レプリカと入れ替わったって」



ジェイドの疑問の声に、クロノが可笑しそうに嗤う。キムラスカの王族をヒヨコ頭呼ばわりしたり、死霊使いを相手に物怖じしないクロノは、流石もと教団の最高指導者というべきか、クロノ様というべきか。…うん、後者でいいか。



「実際は、死に掛けてた所をサクに助けられて、奇跡的に生き延び、死を偽造して教団本部から姿を眩ませ、レプリカと入れ替わった……っていうのが、事の真相だよ。で、今はこうして時々サクに協力したりしてるって訳」



君達が知らない所で、僕等は何度か君達に手を貸してたんだよ?もっと感謝して欲しいね、とでも言いたげにクロノは話す。被験者のイオンとレプリカのイオンとのあまりのギャップに、ルーク達が戸惑う中で。ふと、クロノの隣にいるアリエッタとルークの目が合った。どうやらもう治療の方は終わった様だ。



「アリエッタも…被験者が生きてる事を知っていたのか?イオンがレプリカって事も…」

「うん。全部知ってた…です」

「じゃあ、何で決闘なんて申し込んだんだ?」

『だから、最初から言ってたじゃん。アニスの覚悟を見極めさせて貰うって』



罪過を背負いながらも、今後も導師守護役として、やっていく覚悟を問うた。ケジメをつける意味でも、いい機会だと思ったから。アリエッタから視線を向けられ、サクも同意を込めて彼女に頷く。次いで、此方を見詰めるアニスとアリエッタの視線が交錯し、互いを映した。この場に再び、緊迫した空気が流れる。



「…アリエッタ…」

「…アニスはイオン様を守ってみせた。イオン様を守るって言ったアニスの覚悟は、本物だって、アリエッタ…分かったから。アニスがイオン様の導師守護役を続けていく事…認めます」

「……!」



アリエッタの一言に今度は一同の緊張の糸が解れ、ほっと何人かが息を着く気配がした。



「…何だ。決闘って言うもんだから、本気で命を懸けてるのかと思っちまってたよ…」

「は?まさか。もしも半端な覚悟なら本当に消すつもりだったさ」

「……え…?」



あっさりとし過ぎるクロノの言葉に、ルーク達は絶句している様だった。ちなみに、クロノは本気だった。アニスを信用出来ないと判断したら、本当に排除する気だった。それを真顔でさらりと口にする所が恐い。そして、実際に実行してしまう所も含めて。

今でも、クロノはアニスを信用はしていないんだと思う。実は私やアリエッタ…シンク以上に、クロノが一番私達の中でもアニスに対して猜疑的だったりする。今回の決闘に関しても、私とアリエッタに免じて、あくまでアニスにチャンスを与えただけだし。執行猶予期間ですかと思わず問いたくなる。否定されなさそうでこえぇょ…何と言う小姑だ。



「きゃあ…っ!?」

「うわあ!?」

『…っ!?』

「!サクっ!」



その時、突如として激しい衝撃が私達全員を襲った。フェレス島全体が激しく突き上げられる様に揺れ、足元を掬われそうになる。サクも負傷を負った足では踏み止まる事が出来ず、危うく倒れそうになった所をシンクに支えられ、二人で背を低くして転倒を避けた。

フェレス島から遠く離れた海上にて。海面が呼吸でもしているかのように上下し、泡立つ波間から姿を現したのは……あまりにも巨大な物体だった。轟音と共に海を破って現れた、花弁を開いた花に似た形をしたそれは、驚いた事に海面に留まるつもりはなさそうだった。浮き上がり、高度を増し、空へと昇ってゆく。大瀑布となって落ちる海水の余波は、遠く離れたフェレス島を容赦なく揺らし、濡らしていた。やがて、物体は静かに停止した。



「…ついにアッチも本格的に動き始めたみたいだね」

『……うん』



瞳を細めて遠くに浮かぶ大地を見据えるシンクの言葉に、サクもまた、同じ物を見詰めながらギュッと拳を握り締めた。フェレス島の様な人工的な浮島以上に、常識外れな物体。それはまるで、空を飛ぶ城の様に、巨大な物体は静かに空に浮かんでいる。ルーク達が驚愕を隠せないでいる一方、サクは心の中で思いっきり叫んでいた。すごいや、ラピ○タは本当にあったんだ!



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