深淵の物語(6/8)

教団に残ると言ったイオンと、引き続きアッシュと共にローレライの宝珠を探すと言ったサクとシンクの二人と別れて部屋を出た後。教団内の廊下を歩きながら、ルークが呟いた。



「預言に頼る事を否定した俺達が、こうしてイオンの預言に頼るなんてな……」

「導師イオンは、預言を数ある未来の選択肢の一つとして捉えてくれと仰っていたのよ。あの方の預言通りに行動しなければいけない訳じゃない」

「預言を未来に生かせということですわね。無条件に従うのではなく、可能性の一つとして判断材料にして欲しいということですわ」



ティアとナタリアの言葉も分かる。否、分かってはいるのだが……。表情を歪めるルークに、アニスも眉を寄せる。



「イオン様の預言は正確だよ。サク様だってそう言ってたじゃん。ルーク、信じられないの?それとも信じたくないの?」

「……違う。正確だって事は分かってる。信じてるからこそ、イオンの預言通りに動こうとしてるんだ。だけど……」

「これが成功すれば、今後も預言に頼りたくなってしまうのではないか……ですね」



ジェイドの指摘に、ルークは複雑な面持ちのまま頷く。



「今回だけ、今回だけ……。そう言って、頼り続けない保障があるか?」



そうなってしまったのが、まさに今の人類でもある。だからこそ、ヴァンは今の人類を見限ったのだ。その事は分かっている。分かってはいても……アニスは悲し気な表情を浮かべた。



「……じゃあ、イオン様の言葉を無視するの?お願いだから、そんな事しないで」

「勿論、そんな事はしないさ。ただ……理想と現実の差に、自分が苛ついてるだけだ……」



預言に頼らない世界を目指す自分達が、預言に頼ってしまっている現状に感じる矛盾。現在、預言の詠み上げは導師イオンの意向により禁止となってはいるが……預言の在り方については、今後の大きな課題となる所だ。



「いずれ考えなければなりませんわね。私達はヴァンの求めていた預言を詠めない世界を回避しました。だからといって……預言を全肯定している訳でもありませんわ」

「預言をどうしていくのか、だよな。なんとか事態を落ち着かせて会議に持ち込みたいな」

「そうですわね」

「アニスっ!」

「「「「「!」」」」」



ルーク達が教団を出ようとした所で、彼等の後ろからアリエッタが現れた。アニスを鋭く呼び止めた彼女は、そのままアニスにツカツカと歩み寄ると、彼女の頬をバシリと平手打ちにした。



「アニスはイオン様を殺そうとした!イオン様を裏切って、殺そうとしたんだっ!」

「そうだよ。…だから何?根暗ッタ」



アニスの頬が見る間に赤くなっていく中、アニスは目尻を釣り上げて、アリエッタと睨む様に向き合う。一見、開き直ったかの様にしか見えないアニスの態度が、アリエッタの怒りに更なる拍車を掛ける。



「アリエッタは認めない。イオン様を騙してたアニスがイオン様の導師守護役だなんて…っ!!」

『私も、アリエッタ響手に同感です』

「!ユリア…!?」



ルークが驚きの声を上げる中、私も皆の前に姿を見せる。地味に大変だったんだよこの早着替え!と主張したいのを堪えて、表情には出さずに、静かな憤りを滲ませた声色になるよう心掛ける。



『例えイオン様が貴女をお赦しになられても、私達は認めません』

「そんな…何でだよ、ユリアっ!」

「アリエッタ達は、アニスに決闘を申し込む!」



ルーク達が息を呑むのが、気配で伝わって来た。何を言ってるんだと、アリエッタを止めないのかと言わんとする視線が此方に突き刺さってくるが、残念ながら今回私はアリエッタの肩を持ちます。私も決闘を申し込む側だからね。アニスの返答を待っていると、彼女は顔を上げると、キッと此方を真っ直ぐに見据えてきた。



「……受けて立たってあげるよ!」

「待つんだアニス!一度冷静に…」

「いいの!こいつとは決着つけなきゃいけないんだから!それに、私もケジメは付けなきゃいけない事は分かってる」



ガイが一度冷静になるよう促そうとしたが、アニスはピシャリと言った。…アニスの目を見る限り、ヤケになっている訳では無い様だ。



「場所は後で立会人から知らせる。逃げたら許さないから!」

『要件は以上です。お時間を取らせてしまい、すみませんでした』



そう言い残して、私とアニスは彼等に背を向けてその場から立ち去った。ルーク辺りから待つ様言われたけど、勿論待ちません。…自分で仕組んでおきながら言うのも何だけど。すっげぇ女の嫉妬全開泥沼昼ドラ的展開ですね。



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