深淵の物語(5/8)


「…確かに、ヴァンは惑星終末預言を知ってたみたいだよ。少なくとも、本人は本気でレプリカ計画で人類とこの星を救う為だってほざいてたし」



第七譜石に惑星終末預言が記されていたと、以前ヴァンも言っていたから、確かだろう。直接惑星預言を詠んでサクも確認したらしいし。

そうして、ヴァンは僕に話を持ち掛けて来たのだ。預言の呪縛からの人類の開放を謡い、僕には預言への復讐をダシに、共に世界を変えよう…と。



「その計画に、貴方も賛同したのですね」



サクが警戒してるヴァンへ探りを入れる為と…半分は、自分自身興味もあったから。自分自身、レプリカとして作られたのに、出来損ないとして棄てられ、生まれた事を憎んでた。この世界が滅びようが、ヴァンに滅ぼされようが、どうでも良かった。だから、世界に復讐する機会を与えてくれたヴァンには、感謝もしてた。

サクはこの世界の人間じゃないから、預言に毒されていないから、味方に引き入れれば、レプリカ世界でのレプリカ達の先導者と成り得る存在だと、ヴァンは言っていた。そうしたら、その世界でお前はこの先の未来もずっとサクと共にいられると。そんな甘言を宣って。

でも、現実はそうならなかった。ヴァンに協力する事は同時に…サクと生きる道を違える事を意味していたから。

シンクの無言を肯定と受け取ったルーク達が、再び暗い顔付きになる。



「じゃあやっぱり、俺達がやってる事って間違ってるんじゃ…」

「そうとは言い切れないと思うけど?むしろ、間違ってるのはヴァンの方だ」

「え?」



まさか、シンクからそんな返答が返ってくるとは思ってもみなかったのだろう。驚いているルーク達の様子に、シンクは不快そうに眉根を寄せながら、説明を続けた。



「確かに、ヴァンが望むレプリカ世界は、オールドラントの滅亡を回避して人類が生きる世界だ。でも、ヴァンは根本的な部分が間違ってる。滅亡を回避するには、預言からの脱却が不可欠だ。でも、預言に依存し切った愚かな人類にはそれは不可能だと判断してる。だからヴァンは今の人類を切り捨てて、代わりに預言に毒されていないレプリカで人類を代用する未来を計画したんだ」



それが、レプリカ計画の基盤になってる。今ある地上の障気に満ちた大地を棄て、レプリカ大地を構築し、そこにレプリカ達が住まう計画だ。



「ちょっと待って。人類を救う為に被験者を切り捨てるって言うのは、矛盾しているわ」

「だから言っただろう?ヴァンは根本的な部分が間違ってるってね。…ヴァンは、レプリカで被験者の代用が可能だと本気で思ってるんだ。自分が死んでも、自分のレプリカが自分を引き継いで生きる事で、自らが生きるって考えてる。所謂、生まれ変わりに近い概念さ」



ヴァンの妹が居た堪れ無い顔をしてるけど、これも事実なのだから仕方が無い。聞かせろって言って来たのもそっちだしね。



「レプリカで被験者を代用出来るって本気で思い込んでる時点で、ヴァンの奴はどうしょうもないのさ」



この価値観の違いが、彼等との差なのだろう。同じ目的でありながら、決して交わる事の無い未来への道。その原因。僕から言わせれば、幼稚で愚かな考えでしかない。被験者と出会い、代用品となったレプリカを見て来て、その代用品になれなかった出来損ないの自分自身と、代用品になれなかった為に自分の道を歩いてた元出来損ないのレプリカの存在を知って。全員が全員、それぞれの道を歩む、一人の存在だと、僕らは知ったから。

ズレてもいない眼鏡のブリッジを押し上げる死霊使いへと視線を向けて、シンクは嘲笑を浮かべた。



「昔のアンタと同じ様な考えなんだよ、ヴァンは。あんたがフォミクリーを研究してた経緯はディストから聞いてる。ま、そもそものあんたの研究が、フォミクリーで被験者を代用…否、同一の被験者を作れるって理論が基盤だから、ヴァンはそこに目を付けちゃったんだろうけどさ」

「……っ、シンク!ジェイドをあまり責めないでやってくれ!」

「……、ルーク…」

「僕は事実を述べた迄さ。別に、今更死霊使いや死神を責めた所で意味はないだろ?」



自分と同じフォミクリーの被害者であるルークが悲痛な面持ちでジェイドを庇う姿に、シンクの興が削がれる。少しからかっただけなのに、面倒な奴等だ。



『……兎に角!ヴァンの計画では何方にしろ今の人類は救われないからね。ヴァンの真意を知った所で、止めなきゃいけない事に変わりはないよ』



そう話を纏めて、サクは強引にこの話題を切り上げた。ヴァンの計画の真意も、もうよく分かっただろう。これ以上殺伐とした空気は耐えられないと、早々に根を上げた結果である。そうこうしていたら、奥の部屋の扉が開いて、中からイオンとアニスが出てきた。



「イオン!もう動いても大丈夫なのか!?」

「ええ。皆さんのお陰で助かりました。もう大丈夫です」



御心配をお掛けしてしまってすみませんでした。そう、申し訳なさそうに頭を下げるイオンに、ルークが慌てる。本当に無事で良かった…と、一同が安堵する一方で、イオンの後ろに控えているアニスが気まずそうにしている。泣き腫らして目が真っ赤になってはいるが……うん。アニスの表情を見る限り、もう大丈夫そうだ。



「アニスとイオンは、これからどうする?ダアトに残るか?」

「はい。本当は、皆さんと御一緒したい所なのですが…僕は教団でやらなくてはいけない事があるので。ですから、代わりにアニスに皆さんへ協力して貰うようお願いしました」

「そっか。でも、イオンだけ教団に残って大丈夫か?」

『あ、その点は心配無いよ。主犯達も反省してるし、モースもしっかり監視してくれるって言ってたし、警護の強化も守護役の他に第六師団にも頼んどいたから』

「流石。手回しが早いですね」



キラリと眼鏡を光らせるジェイドにグッと親指を立ててみせる。抜かりは無いのさ。改めてアニスの方へと視線を向けると、彼女は意を決して一歩前に進み出てきた。



「…サク様、皆。イオン様を…パパとママを助けてくれて、有難う」



ぺこりと頭を下げるアニスの声は、まだ僅かに強張っていた。



「…アタシがやって来た事は、許される事じゃないのは分かってる。でも、イオン様や皆に迷惑を掛けちゃった分、出来ればもう少し皆と一緒にいて、協力したい」



…言い訳はしないらしい。アニスらしいね。最も、皆彼女の事情には既にある程度察しは付いているみたいだけど。



「分かった。…これからも宜しく頼むよ」

「アニス。気をしっかりね」

「っ……有難う」



ルークやナタリアの優しい言葉に、アニスの瞳が揺れる。こういうのを見てると、彼等は仲間なんだなぁ…って改めて思う。以前のルークなら、裏切り者を信用出来るかよって切り捨てていただろう。けれど、アクゼリュスでの一件を経験したルークは、相手を思い遣り、仲間を大切にする事を知った。罪を犯したアニスの事を受け入れられる位、あれから皆もルークも成長したのだと実感する。

…ジェイドに関しては、自分の目の届く所にいて貰った方が監視がしやすい…とか考えてそうだけど。私個人の意見としても、モースや詠師会の人達にも釘は刺しておいたし、アニスからの情報漏洩のリスクは低くなった……と考えている。おそらく大丈夫だろう。



「これからどうしたらいいのかしら?預言の件も話し合っていく必要があるし、アッシュは引き続き宝珠を捜すそうだけど……」

「その事なんだけど、アタシ……イオン様の預言を活用したいんだ」



ティアの言葉に、アニスが一つの小さな譜石を見せながら提案をする。火口でイオンが最後にルークの預言を詠んだ際に生成されたものだろう。ガイも記憶の糸を手繰り寄せ、その内容を思い出そうとする。



「ベルケンドに障気を消すための情報があるっていう、アレか……」

「はい。頼るのは不本意かもしれませんが…預言を数ある未来の選択肢の一つとして、見て頂けたら…」

「そうだよな。折角イオンが詠んでくれたんだもんな」

「ええ。今はそれしかないでしょう」



イオンの言葉にルークが頷くと、ジェイドも賛同した。 他に手掛かりも何もない以上、預言の情報を利用するより他に両案は無い。



『……話は纏まったみたいだね』



椅子から立ち上がり、サクは一同を見回す。もっとゆっくりしていって欲しい所だが、善は急げとも言うしね。大事な話は一応一通り終わってるし、そろそろ頃合いだろう。



『私は引き続きアッシュ達と宝珠を捜すから、ルーク達は瘴気の問題の方をお願い』

「分かった」



こうして、彼等の次の行き先が決まり、彼等はベルケンドへ向かう事になった。



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