深淵の物語(7/8)

ルークと導師様
※深淵の物語の章。話し合いの後、サク達と別れて部屋を出る直前に発生。


「これ…返すよ。サクのだろ?」

『あ、そう言えば。すっかり忘れてたけど、ルークに預けっぱなしだったね』



有難う、とお礼を言いながら音叉を受け取る。ルークは律儀にも、ずっと持っていてくれたらしい。今までずっとBCロッドを使ってたし、さっきもアッシュから借りたローレライの鍵を使ってたからね。私もすっかり忘れてたよ。


「それがあったから、モースも俺達に納得して協力してくれたんだ。サクがお前達に協力してたから…それがサク様の意思なら自分も従うって言ってたな」

『何ともモースらしい…』



まぁ、音叉が有ろうと無かろうと、ルーク達に協力するよう言ってあったから、どちらにしろ協力はしてたんだろうけど…。音叉の存在が協力の後押ししたのは確か、かな。



「モースの説得も、サクがやったのか?」

『説得と言うか何と言うか…うん。まぁ、そうだね。話せば分かる人だから、モースは』



さっきみたいな演出を加えれば、相乗効果で簡単に思想を洗脳されてくれる程度には。ギアスを使う迄も無いね、使えないけど。サクってスゴイよな…と純粋に感心してくれているルークの尊敬の眼差しは、ちょっと居心地が悪い。



「…アニスの事、有難うな」

『え?』

「イオンに会うよう勧めてくれたの、サクなんだろ?」

『それはそうだけど……何故にルークが私にお礼を?』

「ハハ…確かに、俺がサクにお礼を言うのは、ちょっと変かもな。でも、俺には、アニスの気持ちが分かる気がするから…」



状況は全然違うけど…と、ルークは私に話す。



「俺が押し潰されそうになった時は、サクが傍にいてくれたから……俺は自分の罪を認める事が出来た。受け入れる事までは出来ていなかったけど、あの時サクがいなかったら、俺は言い逃ればかりで、逃げてたと思う」

『ルーク…』



どうやらルークは今のアニスを、自分の時と重ねたらしい。仲間のアニスを気遣うルークは、あの頃からかなり成長していた。否、不器用な優しさや気遣いは、前からあったけど、今は周りに敏感になってるせいもあるのだろう。それが良い変化なのか悪い変化なのか……一概に、良い変化とは言い切れない所もある。



「だから、アニスの事を…気に掛けてくれて、俺を見捨て無いでくれて……有難う」



今更改めてこんな事言うのも何だけどさ。そう言って、ルークは苦笑を浮かべた。見捨てないでくれて……か。そんな言葉が出るという事は、アクゼリュスが崩落した後…ルークは仲間達に見捨てられたと思っていたという事の現れで。事実、ルークは彼等に一度見放されている。



『前者に関しては、アニスの仲間内から礼として受け取っておくね』

「あぁ」

『後者に関しては……そうだね。殊勝なのは良い事だけど、あんまり自分を責め過ぎちゃ駄目だからね?』

「分かってる。あの頃とは変わるって決めたし、いつ迄も後ろばっかり見ていられないからな」



以前のルークなら、死を強要されても、冗談じゃないと突っぱね返しただろう。けど今のルークは、周りから死ねと言われたら、従順に死を選びそうな位、危うい所があるから。

瘴気が充満しつつある、薄紫色を帯びた空を見上げて、サクは内心ため息をついた。



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