導師守護役(9/10)


「覚悟!」

『っ、』



隠し持ってたナイフを取り出し、此方に向かってくる男がいた。相手の存在に気付いたサクが小さく息を飲んだのが聞こえる。

何が起きてるのか、わからない。思考が追い付かない。

その場から動けないでいると、グイッとサクの後ろへと押しやられた。



『…スプラッシュ!』



サクがそう唱えると譜陣から濁流が出現し、男に濁流が浴びせられた。

倒れた男を前に、僕は更に混乱する。

この男は今、何をしようとしていた?サクを……ナイフで殺そうと?

その時、すぐ背後に誰かの気配を感じて振り返ると、別の男がいて……何かを呟いてる男の手には、サクが出したのとよく似た譜陣が既にあって。



「導師様っ!」



誰かの声が聞こえると、男がニヤリと笑った。

今度は直ぐに分かった。この男も、サクを殺そうとしているんだと。

けど、僕には何も出来ない……

呆然と男を見上げていたら、突然後ろから強く抱き寄せられ、視界が遮断された。包まれたぬくもりに、直ぐにサクだと気付く。



「エナジーブラス――グアッ!」

『「!?」』



すぐ近くにバシッと何かが落ちた音と衝撃音、そして音の声が聞こえた。

サクに抱き締められてるせいで、僕には何も見えない。



「申し訳ありません導師様、御無事ですか!?」

『っ……大丈夫です』



僅かに震える声で、サクが誰かに返事を返している。サクが本当に大丈夫なのかは、わからない。



「この者達は如何なされますか?」

『……処遇はお任せします』



何人かの足音が遠ざかっていくとサクは僕を抱き締めたままその場へ座り込んだ。必然的に、僕もその場へ座り込む。

そこで、僕はようやくサクの手が震えている事に気付いた。違う、手だけじゃない。身体も、震えている。

大きく息を吐き出したサクの腕の力が、僅かに緩んだ。緊張が、少し溶けたのかもしれない。

その後、サクと僕は教団兵に付き添われながら、サクの私室へと戻った。



「サク、」

『シンク、怪我は無い?』

「…うん」



僕の仮面を外しながら、サクは僕に尋ねた。ようやくまともに見る事が出来たサクの顔色は、いつもと違って青い。

良かった……と、ほっとした様子で呟くサクに対して、僕は何も言えなくなる。本当は、サクは大丈夫?って聞きたかったのに。



『ごめんねシンク。恐い思いをさせちゃったね……』



仮面をベッドの上に置いて、サクは悲しそうな顔で謝ってきた。どうしてサクが謝るのか、わからない。

確かに恐かったけど、さっきのはサクが悪いとは思えない。

狙われたのが自分で、僕が巻き込まれたから?それとも、僕を部屋の外へ連れて行ったのがサクだから?

そんな事を考えていたら、部屋の扉がノックされた。一瞬身を固くした僕とサクだったけど、「サク様、御見えですか?」という訪問者の声に、僕は覚えがあった。

確か……ヴァン・グランツという奴だ。僕を作って棄てた人達の仲間で、僕が生きる為にと身体に譜陣を焼いた人。この前背中にもやられて、最初の時よりはマシだったけど結構痛かったからよく覚えてる。

僅かに緊張を解いたサクは、『今そちらに行きます』と扉の向こうへ返事を返して、僕に少し行ってくるね、と行って隣の部屋へ行ってしまった。

改めて一人になると、急に心細くなってきて……僕はハッと気付いた。そうだ、僕は恐かったんだ。

抱いた恐怖心の中に、自分の死への恐怖もあった。けど、一番強かった思いは……それじゃない気がする。

抱いた疑問への答えが出せないまま、僕はサクが出ていった扉の前まで行くと、そこからそっと聞き耳をたてた。




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