導師守護役(10/10) 「これに懲りたら、専属の導師守護役をお持ちになられる事を進言しますよ、導師サク」 『う〜……考えておきます』 「(導師守護役…?)」 気配と会話から察するに、どうやら隣の部屋にいるのはサクとヴァンだけのようだ。 今は仮面を付けていないが、ヴァンなら問題ないだろう。そう考えて、シンクがドアノブに手を掛けようとした所で……彼は思わず手を止めた。 「それから、此れは私からの提案なんだが…」 『?何ですか?』 「導師守護役を付けるのが煩わしいのであれば、シンクを導師守護役にしてはどうだろう」 『………そう来ましたか』 ……僕? 手を止めて、少し考えてみる。先程も疑問に感じた"導師守護役"という言葉………あれは確か、導師を守る人の事だと、ローレライ教団の事を学んだ時に教えて貰った役職だった筈。 そこ迄考え着いて思い出すのが、つい先程の事。サクには、専属の導師守護役がいない。だから、さっき襲われた時に、サクを守る人が傍にいなかった。 否、サクの傍には僕がいたけど……サクを守るのではなく、サクに守られていた。 再認識すると、釈然としない感情が沸き起こり、シンクは眉を潜めた。 僕は、何の為にサクに守られたんだろう?ずっと前から抱いている、シンクの疑問だ。 僕はレプリカだ。被験者(オリジナル)なサクとは違って、いくらでも代えがきく。現に、数人作られた導師イオンのレプリカの中から、出来の良い三番目が選ばれた。 けど、サクは違う。被験者だから、代えがきかない。 従って、本来なら先程守られる巾だったのは僕じゃなくてサクだったんだ。 それなのに、僕はサクを守れなかった。それどころか、逆に守られてしまった。 今までだってそうだ。火口に廃棄されてからずっと………サクに守られてる。 僕は、守られる為に拾われた?いや、それは違う……レプリカの僕を守っても意味がない。 それなら、僕がサクに拾われて、傍にいる意味は…… 「導師守護役に必要な戦闘能力は、私が直々に鍛えてやろう」 ヴァンの言葉に、ハッとしてシンクは顔を上げる。 僕が導師守護役になり、ヴァンに鍛えられたらサクを守れるようになるだろうか? 鍛えて貰う交換条件として、第五師団の師団長にも配属という条件があるそうだが、別に構わないと思った。 教団での地位にも、別に興味は無い。 ただ、サクを守れるようになるなら…… 「シンクにとっても、悪い話では無いだろう」 『確かに、良い条件だけど……どうするか決めるのは私やヴァンじゃなくて、シンクだからね』 決めるのは、僕。 僕は、今日みたいに守られるだけなのは嫌だ。 僕が、サクを守る。それが、僕の生かされた意味だ。 僕は扉を開けて、隣の部屋に入った。ヴァンは僕の気配に気付いていたのか、大して驚かなかったけど、サクは少し驚いた様だった。 「僕を鍛えてくれるの?ヴァン」 「ああ」 「そしたら強くなれる?」 「それはシンク次第だ。だが、お前には素質がある」 「なら……やる」 即答した僕を見て、ヴァンが満足気な笑みを浮かべていた。別に、ヴァンの為に条件を飲んだ訳じゃないのに。 「では、早速明日から稽古をつけよう」 「分かった」 「導師サクも、異存はありませんな?」 『シンクが良いなら…』 サクの歯切れの悪い返事に、僕は少しだけ不安になった。僕が導師守護役になるのは、本当は駄目な事なのだろうか? 更にヴァンから頭を撫でられて、少しムッとする。僕が喜んで欲しいのはヴァンじゃなくてサクなのに。 「……サクは、僕が導師守護役になるのは反対?」 『え?そういう訳じゃないんだけど……むしろ嬉しい位だし。ただ、シンクにはまだ少し早すぎじゃないかと思って…』 「なら、大丈夫」 「『!』」 サクの言葉に安心したら、笑みが浮かんでしまったらしい。サクとヴァンが僕を見て一瞬驚いた顔をしたけど、その後直ぐに何故か凄く嬉しそうな笑顔のサクに抱き締められた。 どうやらサクは僕に導師守護役になって欲しくない、という訳ではなさそうだ。 ただ、サクが僕に抱き着くのを見て、ヴァンに笑われたのが少し不快だったから、次からは気を付けよう(人前で抱き着かれないように)と思うシンクであった。 *前 | 戻 | 次#
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