導師守護役(6/10)

最近文字を覚えてからは、サクに教えて貰う以外にも一人で本を読んで学べるようになった。

今読んでるのはオールドラントの歴史書。図書室で借りる時にサクに見せたら『目が滑る…』って遠い目をしていた。目って滑るの?

本当は図書室へ本を借りに行かなくても、サクが教団の人に頼めば部屋に持って来て貰えるらしいんだけど、サクは『自分で行きたいから』といつも断って、僕を図書室へ連れて行く。

サク曰く、自分の事はなるべく自分でやらなきゃね。って言ってた。サクは変な所で律儀だと思う。

読んでいた歴史書をちょうど読み終わった所で、本から顔を上げて、机に向かっているサクを見る。

サクは僕がいる自分の私室で、回って来た書類を片付けている。隣の部屋に専用の執務室があるのに、わざわざ此方でやってるのは、僕がいるからと以前話してた気がする。

悪い気は、しない。むしろサクが傍にいると安心するし。

壁に掛けてある時計に視線を移すと、もうお昼の時間だった。



「サク、お腹すいた」

『ん、そろそろお昼だね……何が食べたい?』



時計を見上げて時間を確認したサクに聞かれて、しばらく考える。

何が食べたいかと聞かれても、コレといって選べる程料理の種類を覚えていない。

食堂で用意してもらう、という選択肢もあるけど……今の自分が食べたい物はと訊かれれば…



「……サクが作る物」



という事になる。サクが作る料理は好き。たまに失敗して味が微妙な時もあるけど、それ以外は美味しいと思う。

僕の返答を聞くなり、サクは嬉しそうな笑顔で立ち上がった。どうやら今から作ってくれるらしい。



『シンクも一緒に作る?』

「……うん」



ソファーから降りてサクの傍に行くと、そう訊かれたので頷く。

最初はサクが調理するのを見ているだけだったけど、見ているうちに切り方とか手順とかも覚えれた為、最近手伝えるようになった。

近いうちに、一度自分で料理に挑戦しようと思う。



『よし、じゃあシンクには葱を切って貰おうかな?』

「分かった」



サクが用意したまな板の上に渡された葱を乗せて、包丁で細かく切っていく。シンクって手先が器用だよね〜、と僕の手際を見てサクは言う。

実際、こういう細かい作業はサクより僕の方が上手いと自分でも思う。けど、こうして誉められるのは少し嬉しかったりする……。ちょっと恥ずかしくて、葱を切る手を早めたらあっという間に終わってしまった。



「出来たよ」

『Σ早っ!手とか切ってない?』

「うん」

『シンクは本当に器用なんだね……うん、有り難う』



サクからお礼を言われるのはとても嬉しいんだけど、少しむず痒い気もする。

尚もシンクは凄い、と言いながら中華鍋の中身をサクは返していく。葱を切った位で、結構大袈裟だ。



「今作ってるのって……炒飯?」

『正解。よく覚えてたね』



中華鍋の中を覗きながら訊くと、サクが楽しそうに笑った。炒飯は、僕がサクの所に来て間もない頃に一度だけ作って貰った事があった。

あの時は確か……【やきぶたちゃーはん】って言ってた気がする。『ブウサギって可愛いけど食べると美味しいんだよね…』とか言ってたけど、ブウサギはまだ見た事がないから可愛いのかは分からない。味は確かに美味しかったけど、ブウサギの焼豚炒飯。



『葱の他に、にんにくやニラを入れても良いし、エビなんかも美味しいかな』

「ふーん」

『ポイントは炒める前にご飯に卵を混ぜるか、マヨネーズをかけるとパラパラの炒飯が出来るんだよ〜』

「ふーん…」



僕が切った葱を入れながら、サクは炒飯の色んなレシピを教えてくれる。海鮮炒飯、五目炒飯、スタミナ炒飯、キムチ炒飯、卵炒飯……無駄に種類が多い気がする。



「サクはどれが好きなの?」

『私は五目派だったけど……この前入れたブウサギが予想外に美味しかったからなぁ…』



……どうやらサクは、【焼豚炒飯】が好きらしい。



『シンクは何れが好き?…というか食べてみたい?』

「…エビピラフ」

『あ、それは狡い!』



……正直、何が狡いのかが分からない。けど、『それなら私もエビピラフが良い!』って言ってるから、サクもエビピラフが好きなんだって事は分かった。

…サクと好みが一緒で、ちょっと嬉しかったりする。



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