舞台裏の策略(2/7)

モースと話をつけた後、ケテルブルクへ行ってディストにも会いに行って来た。此方も上手く事が運んでいるので、問題はないと思う。

ルーク達の方も、フレイルから報告を聞いた限りでは、順調に事が進んでいる様だ。モースからの妨害もなく、ナタリアと国王の問題も無事に解決したらしい。その後執り行われた二国会談にはマルクトは勿論、ケセドニアのアスターも特別に招待されて、予定通り魔界で取り行われた。



「アンタは二国会談には参加しなくて良かったの?」

『モースに行って貰っておいたから問題無いよ』



クロノが言った様に、私は会談には行かなかった。イオンが行ってたし、私まで行く必要はないでしょ。というのが個人的な意見なのだが、如何せん一応私も導師なので、面子を保つ為に代理としてモースに行って貰ったのだ。

モースが会議に来た時の皆の驚いた顔が見れなかったのが残念だ。妙に協力的なモースの考えの変わり様にも、驚いた事だろう。



「まさか、あのモースまで本当に言いくるめちゃうとはね」

『人は変わろうと思えば変れるものだよ』



ただし、モースに関しては根本的には変わってないが。崇拝対象が預言からユリアの再来に変わっただけだし。



『それに、人類滅亡の危機を目の前にして、今さら和平締結が失敗するとは思えないし。…ま、各国の機密の暴露会議にはなったみたいだけどね』



フレイルから聞いた報告を思い出すと、思わず笑みが溢れてしまう。性格が悪い?何を今更な。



「随分と楽しそうじゃん」

『だって、今迄隠し続けてきた各国の汚点が遂に明るみに出るんだよ?楽しい事この上ないって!』

「えげつない上にゲスだね」

『クロノには言われたくないなぁ』



ウフフ、アハハ、と互いに笑い合う二人。端から見れば、何となく関わり合わない方が身の為だと思わせる様な雰囲気を漂わせている。この場にルーク達がいたら、ヴァンとこの二人のどちらが真の黒幕なのだろうと、問いたくなったかもしれない。



「ま、勿論アンタの事だ。それだけの理由でここに残った訳じゃないんでしょ?」

『そりゃあね』



いくら髭でも、各国会議に正面から邪魔する程愚かじゃない。余計に自分で自分の首を締めるだけだし。



『ヴァンが仕掛けるなら、地核振動静止作戦の時だ』



一万人の民を巻き込んだアクゼリュスの件から見ても、彼が手段を選ばない事は必須。大義を前に犠牲を厭わないからね。…いや、ちょっと違うか。ヴァンは人間をレプリカで代用出来ると考えてるし、そもそも今生きてる人間は、預言に支配された愚かな存在でしかないのかもしれない。



「確かに。アクゼリュスでのやり方から見ても、むしろ、街の人を盾にしてくるって考えるのが妥当だね」

『でしょ?』



だから、私も対抗出来うる勢力を呼び寄せて準備をした。ヴァン達が動く前に。奴等に気付かれる前に。確実に守る為に。

ぶっちゃけ、この地上で今一番安全な場所はと聞かれれば、自信をもってここだと言える。



「預言を逆手に取って裏を斯くヴァンの更に裏を斯く……導師の癖に、預言を冒涜し過ぎじゃない?」

『言ったでしょ?預言は利用する為の道具に過ぎないって。なら、道具は有効的に活用しなきゃ』

「ハハッ、アンタって本当に、無茶苦茶過ぎ」



だからこそ面白いよ。そう言ってクロノは楽し気に笑い、サクも笑った。

導師の肩書きも、詠まれた秘預言も、ユリアの再来とやらも、利用しない手はない。国も王も為政者も世界も振り回し、導いてやるさ。目的の為ならね。

クロノとはこういう話をする機会が多いせいか、わりと本音でぶっちゃけた話をする事が多い。クロノの方も、此方に素を見せてるせいかもしれないけど。



「本当に、アンタとヴァンってよく似てるよね。ヴァンとの違いと言えば、サクの方は貪欲で、横暴で、自分を神か何かだと勘違いしてる様な痛い奴の一歩手前って事くらいじゃない?」

『そのせいで時々慢心しそうになるから頭に傷だよ』

「自分でもよくわかってんじゃん」

『そりゃあね』



クスクスと、互いに笑い合うクロノとサク。ここまでは、概ね上手くいってる。次はアクゼリュスやエンゲーブの時並の大仕事だ。

そんな二人の後ろに、新たな人物が近付いてきた。



「予定通り、全員配置に付きました。いつでもいけます」

『有り難うフレイル。……彼方の方も、漸く動き出したみたいだね」



瞳を細めるサクの視線の先には、隊列を組んだ神託の盾兵達と彼等を指揮するリグレットの姿があった。現在サク達がいる街の高台からは、全て丸見えだ。

さぁ、これで表舞台も裏舞台も整った。今一度シナリオを書きかえて、世界に反旗を翻せ!

胸の内で燻る、たった一つだけの不安には、気付かないフリをして。



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