守られた約束(4/12)

城から出たルーク達は、アッシュが手配したペールや白光騎士団達の助力により、確保されていた昇降機を使って下級層の市民街まで降りる事が出来た。

更に驚く事に、ルーク達が市民街へと着くなり、一同はあっという間に街の人達に囲まれてしまった。主に、ナタリアの周囲を。

市民の話によると、サーカスの連中からナタリア姫が無実の罪で処刑されると聞いたのだという。お顔は存じ上げませんでしたが、貴女がナタリア殿下ですよね?そう市民に尋ねられ、ナタリアは何と答える巾か言い澱んだ。つい先程、それを国王からも否定されたばかりだったから。

そして―――…



「その者は王女の名を騙った大罪人だ!即刻捕らえて引き渡せ!」



彼等が降りてくるのを待ち構えていたのだろう。キムラスカ・ランバルディア王国軍、第一師団長ゴールドバーグが兵士達と共に、彼らの行く手を塞いだ。

ザワッ、と集まった街の人達がざわめく。



「そ…そんな嘘には騙されないぞ!」

「城へ帰れ!!」

「そうよ!!王女様は渡さないわ!!!」



それでも、街の人達はナタリアが本物の姫だと主張し、彼女を庇った。そんな彼等を前に、ナタリアは辛そうに表情を歪めた後……意を決して、彼女は口を開いた。



「事実です」

「!?ナタリア様…!?」



はっきりと、彼女は市民達の前で告げた。集まった街の人達が戸惑う中、ナタリアは更に言葉を続ける。



「その者の言う通り、私は王家の血を引かぬ偽者です。私の為に、危険を冒してはなりません」



ナタリアは顔を上げ、ゴールドバーグを見据ると、前へと足を踏み出した。咄嗟にルークがナタリアを止めようとしたが、それは何故かガイによって制された。



「私ならここですわ。キムラスカ王国軍、第一師団師団長ゴールドバーグ」



ルーク達や市民達が黙って見守る中、ナタリアはゴールドバーグと対峙する。



「任務を違えるのはおやめなさい。市民を傷つける事は許しません!」



臆する事なく堂々と、彼女は言った。民を守る為に。民を想う、王女の品格をもってして。その凛とした声に、気高き意志の宿る瞳に、一国を背負い自分達を守るその背中に、市民達は息を飲んだ。



「…よい覚悟だ。王族として育てられただけの事はある」



自ら己の前に出てきたナタリアに、ほくそ笑んだゴールドバーグだったが……



「……む!?」



ナタリアの前に、今度は街の人達が彼女を守るようにして前に出た。集まった人々、老若男女関係なく。

そして、彼等は口々に言った。



「わしらの為に療養所を開いて下さったのは貴女様じゃ」

「職を追われた俺達平民を、港の開拓事業に雇って下さったのもナタリア様だ」

「王家の血を引こうが引くまいが―――…俺達の王女様は、ナタリア様だ」



彼等は確信したのだ。彼女がナタリア殿下だと。彼女こそが、自分達の王女だと。

一人のまだ幼い少女が、ギュッとナタリアの服の袖を掴んだ。



「優しくて綺麗なお姫さま、だーいすきっ!」

「皆さん…っ!!」



そう言って、一人の子供が笑った。その純粋な笑顔に、自分の事を己を心から慕ってくれる民の心に、ナタリアは堪えきれずに涙が溢れた。

バチカルの市民達は、誰一人としてナタリアを否定などしなかった。

おおよそ武器とはいえない、箒やフライパンを手にし、市民達は一斉に兵士達へと飛び掛かっていく。ナタリアを、この国の王女を守る為に。兵士達の方も、流石に市民を傷付ける訳にはいかず、何も出来ずにいた。そんな兵士や市民達の様子に、業を煮やしたのはゴールドバーグだった。



「ええぃ、うるさい、邪魔をするな!」



ゴールドバーグは苛立たし気にそう叫ぶと、ついに剣へと手を伸ばした。



「貴様らも何を躊躇しているか!その者は王女の名を騙った大罪人だぞ!奴等を逃がそうとする者も同罪!容赦をするな!」



ゴールドバーグの叱咤激励に、今まで市民に武器を向けるのを躊躇っていた兵士達の様子が変わった。彼等の武器を握る手に力がこもる。

直感的に、不味いと思った。そして、ルーク達のその予感は的中する。



「ええいっ!どけぇっ!」

「やめろ!」



剣を抜いたゴールドバーグが、ナタリアを守る様にして立ちはだかる民に向かって剣を振り上げた。ルークが叫ぶも、この距離では間に合わない。ゴールドバーグの剣が、無力な市民を斬り捨てようとしたその瞬間。

黒い影が赤い炎を纏って半数の兵士達を薙ぎ倒し、ゴールドバーグの剣を受け止めると、そのままそれを弾き飛ばして、剣先をその太い喉に突き付けた。



「……屑が。キムラスカの市民を守るのがお前ら軍人の仕事だろうが!」

「アッシュ……!?」



ルーク達の瞳が驚きに見開かれる。ゴールドバーグをナタリアから退け、切り捨てられそうになった市民を守ったのは、この場に駆け付けたアッシュだった。

一方で、尻餅をつく形で弾かれたゴールドバーグを前に、周囲に残った兵士達が警戒し、アッシュに剣先を向けようとするのが見えたので。



『させませんよ』



周りの兵にピコレインを降らせ、ついでにゴールドハンバーグ……間違えた。ゴールドバーグの脳天にはミラクルハンマーを背後からぶちこんだ。卑怯?何とでも言え。昏倒した将軍を前に、ワッと市民から歓声が上がる。



「あれはまさか…チャンピオンだっ!」

「何!?クイーンが駆け付けて来てくれたのか!!」



……覚えてる人は覚えてるらしい。というか、ナタリアとは別の方向からバチカル市民に支持されちゃってるよ私。声援に応える様にしてBCロッド(優勝者の証でもある景品)を掲げて見せると、市民達は更に盛り上がった。この空気、闘技場で三冠を制した時以来かも。

かつて闘技場で優勝する度にフォニムマスター、バトルクイーン、コロシアムチャンピオンの順に増えていった称号。ちなみに、三冠した時にはエターナルソードを貰ったのだが、生憎と剣は装備しないので箪笥にしまってある。

それにしても先程のゴールドバーグ、狼狽え過ぎだ。キムラスカ王族の特徴である赤い髪と、ルークと瓜二つな容姿に余程困惑したんだろうね。じゃなきゃそう簡単に国軍団長の後ろを取れはしない。

そういえばインゴベルト陛下も、アッシュが誰か気付いてたみたいだった。アッシュの方に気を取られてて、此方にまで気が回らなかった様子だったし。まぁ、そのお陰で逃げられたんだけど。



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