守られた約束(5/12) 「アホが!こんな一般市民がいる場所で譜術なんか使ってんじゃねえ!!」 『大丈夫ですよ。味方識別ならぬ敵識別を駆使してますから』 抜かりはありません。隣で怒鳴ってくるアッシュに対し、口調に気を付けながらサクは涼しい顔で笑う。どうでも良いけど、ちょっとアッシュの台詞がバルバトスっぽかったな。 今回ノワール達に依頼したのは、市民の陽動だ。ナタリア姫が無実の罪で処刑されると情報を流して、一騒ぎして貰って。どうやら此方の方も、アッシュが手配した白光騎士団と同じ様に、上手く動いてくれた様だ。 適当にアッシュを宥めた後、サクは改めてルーク達へと向き直った。 『さぁ、お二方共。早くお逃げ下さい。追っ手は我々が食い止めます』 「でも…」 「早く行け、ナタリア!」 「……アッシュ……」 アッシュを見詰めるナタリア。言いたい事は沢山あるのに、そのどれも言えずに、唇を震わせている。対して、アッシュは一度市民達へと視線を向けた。絶賛気絶中の兵士達を、市民に指示しながら手早く縛り上げている人物が一瞬目に止まったが……構わず、再びナタリアへと視線を戻した。 「……お前は約束を果たしたんだな」 「!」 いつになく優し気な口調で、ナタリアに語り掛けるアッシュ。約束。その言葉に、ナタリアの瞳が見開かれ、再び涙が浮かんだ。 「アッシュ……ルーク!覚えてるのね!」 「チッ…行け!そんなしけたツラしてる奴とは一緒に国を変えられないだろうが!」 「……分かりましたわ!」 背を向けたアッシュに対し、力強く頷いたナタリアの瞳に、もう迷いはなかった。 『ヒュー、カッコいいですねぇアッシュ響士。惚れ直しそうです』 「う、うるせぇっ!!」 ニヤニヤしながらアッシュを茶化したら、耳まで赤く染まったアッシュが照れ隠しに斬り掛かって来たので笑いながら避けてやった。アシュナタって良いよね。私は好きだぜ。 「ユリア…っ」 そんな感じで軽くアッシュとじゃれあってたら、ルークに名前を呼ばれた。ナタリア程切羽詰まった表情ではないものの、その瞳は不安気な色を写している。物凄く何か言いたそうな顔で私の方を見てるけど、最初に何て声を掛けて良いのか、言葉を迷っている様子。 ルークの気持ちも、分からなくはない。少なくとも、私…"ユリア"はアクゼリュスで死んでたと思われてたみたいだし。とはいえ、残念ながら今はゆっくり話をしている場合ではない。 『ルーク様、積もる話は後程。今は行って下さい!……今度はちゃんと、直ぐに追い付きますから』 「……っ!!」 ルークの瞳が大きく見開かれる。ナタリアだけでなく、ルークまで今にも泣き出してしまいそうな表情になった。 「あ、ありがとうユリア!」 「ルーク!ドジを踏んだら俺がお前を殺すっ!」 「……けっ。お前こそ、無事でな!」 再び駆け出した一行の後ろ姿を見送った後、アッシュとサクは彼等に背を向けた。遠くの方に、新たな増援と思わしき兵士達の姿を視界に捉える。 市民達が体を張って兵士達を抑えてくれているが、先程のゴールドバーグの様に市民を傷付ける事を厭わない兵士がいたら不味い。ナタリア達が無事にバチカルから逃げ切れ次第、早急に騒ぎを沈静化させる必要がある。 『市民の皆さんの安全を確保したいから、詠唱の時間稼ぎを頼んで良い?』 「ハッ、闘いながら詠唱をこなしたらどうだ。いつも俺と戦ってきた時みたいによ」 『アッシュの意地悪め。随分と簡単に言ってくれるじゃん』 アレってわりと面倒なのにー。とか文句を言いながらも、コイツは既に詠唱を開始している。敵に回すと恐ろしく厄介な奴だが、こうして味方に付けると心強いな。 腐れ縁も、ここまで来ると感慨深いものがある。 『それじゃ、もうひと頑張りしますか』 「足引っ張んじゃねぇぞ」 『その約束は出来かねます』 「オイ…!」 己がライバルと認めた相手であり、共闘する際には背中を預けられる存在……それが、今のアッシュから見たサクだった。 *前 | 戻 | 次#
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