守られた約束(3/12) 『急な謁見、並びに御前を失礼致します。私はローレライ教団導師イオンが僕、ユリア・フェンデ奏士です。此度は導師イオンの名代として参りました』 ルーク達だけでなく、インゴベルト陛下やモース達まで固まったままだけど気にしません。 発言の許可?そんなの待ってる余裕は無い。そうでなくても、アポ無しで謁見に乗り込んだ時点で既にアウトだろうしね。要するに、開き直ってるだけである。不敬?何ソレ美味シイノ? 『導師イオンからの詔勅を、ここに』 国王陛下の正面……大臣の前で跪き、詔勅書が入った筒を手渡す。 余談だが、フェンデのファミリーネームまで名乗ったのはノリだ。案の定、マルクト組のガイとジェイド、本物のフェンデ家の遺児であるティアが目を見開いてるけど気にしない。言っちゃったものは仕方ないし、国王陛下の前で名前しか名乗らなかった事で、素性が分からない不届き者と思われても困る。更にモースがいる手前、かつてクロノが手配した書類に登録されてる名前通りに名乗らないと矛盾が生じるし。 クロノが私の偽名をユリア・フェンデとしたのは、私に詠まれた預言と古代イスパニア語の意味、そしてユリア・ジュエへの皮肉を込めての物だったらしいんだけど……やっぱりあの時に却下しとくべきだった。物凄く今更だけど。 『先程の宣言、撤回して頂けますね?』 詔勅書がインゴベルト陛下の手に渡ったのを見計らい、サクが言う。途端、モースが目を吊り上げた。 「いきなり割り込んで来て何を抜かすかと思えば…!陛下、騙されてはなりませぬぞ!名代など真っ赤な嘘!その書状とて偽物で御座いましょう!」 『口を慎み下さい、大詠師モース。そもそも、貴方に開戦を許可する権限は認められていない筈ですが?』 「ぐぬぅ…!!」 ……やはり聞く耳持たずか。だろうねぇ。モースの愚行に半ば呆れつつ、アッシュとサクは互いにアイコンタクトを交わす。同調フォンスロットを繋ぐまでもない。 これ以上長引いた所で、モース達が強引な手段に出るだろう事は読めたので、私もアッシュも早々に諦めた。ていうか、書類が本物かすら確認しないとは。せっかくイオンに書いてもらったのに。ま、本物だからこそ、例え無下にされても、無駄にはならないんだけどね。モースが自分で自分の首を絞めるという意味合いで。何にしろ、詔勅はあくまで謁見の間に飛び込む口実に欲しかっただけだし。モースは勿論、最初から預言の甘言を吹き込まれた国王にも、はなから期待はしてない。 アッシュは苛立たし気に舌打ちすると、未だに固まったまま動けずにいるルーク達へと振り返った。 「今のうちに行け!この場は俺達に任せろ」 「アッシュ、ユリア……っ」 アッシュの言葉に、ルークが我に返る。まさか、アッシュが助けてくれるとは思ってもみなかったのだろう。とはいえ、じっと此方を見詰めるルークは、何だか今にも泣きそうな顔をしてる気がするけど……ごめんよ。今はちょっと立て込んでるから話は後で。 「アッシュ!我々を裏切る気ですかっ!」 「ガタガタうるせぇよ。お前だってヴァンを裏切って、モースに情報を流してるだろうが」 「……貴様!六神将でありながら総長を裏切っていたのか!」 「私は目的が果たせればいいのです。ヴァンへの忠誠より優先することがありますからね」 嗚呼もう、どいつもこいつも何だかカオス過ぎる。国王陛下の御前での発言が自由過ぎるだろ六神将組。そういう私も同類だけどな。 「えぇい、何をごちゃごちゃ言っておる!さっさとあの二人を殺せ!名代と謀る偽者もだ!」 「何をしているのです!ラルゴ!他の者の手にかかってもよいのですか?」 「……くっ、強引に連れて来られたかと思えば、こういう事とはなっ!」 ルーク達が駆け出した後、剣を抜こうとするアッシュを手で制し、六神将とモースにも無言で牽制を掛ける。流石にキムラスカ兵迄は止められないので此方は無視。 『剣をお納め下さい。名代を任された私の発言は導師イオンの意思、延いては教団の御意向に御座います。 大詠士様方の方こそ、ローレライ教団が最高指導者、導師イオンの命に背かれるおつもりですか?』 ピタリと、彼らの動きが止まった。流石に、こんな公の場で反導師派と同様の行動を起こすのは、憚られた様子。…色々と手遅れな気もするけど。そして、モースが私を本物の名代と認めたも同然だった。 恐らく、ここまでが限界だろう。これ以上は何を言っても時間の無駄だ。それに、ナタリア達の逃亡に手を貸した共謀者と指摘されたら流石に部が悪い。アッシュに謁見の間で…国王の御前で、剣を抜かせるのも不味いので。 『では、私供は此れにて失礼致します』 この場が混乱してうやむやになっている今の内に、若干言い逃げする形で、サクはアッシュと共に謁見の間を後にした。アレだよ、逃げるが勝ちってやつさ。 *前 | 戻 | 次#
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