守られた約束(2/12)

ちょうどサクが来た時とは反対側にあった階段を降りた階下の廊下で、アッシュと合流出来た。ちなみに、アッシュの後ろには追っ手であるキムラスカ兵も一緒に伴って来ていたので、ピコレインでお休みして頂いた。此方の方が詠唱を省略出来るから発動が早いんだ。深い眠りではなく一時的な気絶になる分、効果の持続時間はナイトメアに劣るけど。



『ナタリア達は無事だよ。他の皆とも合流した』

「よし、時間稼ぎはもう充分だろ。俺達も脱出し―――…何っ!?」



サクからの報告に、ほんの僅かに表情を和らげたアッシュだったが、言葉の途中で急に愕然とする表情を浮かべた。いきなりのアッシュの変わりように、サクは首を傾げた。



『どうしたの?反応が若干痛い子になってるけど…』

「何であいつら、謁見の間にいやがる!?あの屑、なんだって―――!」



私のからかいはスルーですか。まぁ、それ処じゃないのは確かだけど。完璧に頭に血が昇っている様子のアッシュを見ていて、サクも何となく事態を察した。

ルーク達が、インゴベルト陛下の所へ行ったのだろう。ナタリアが王家の血筋ではないという事実を、王へ問い質す為に。



「チッ、お前は先に外へ出てろ!俺がアイツラを…」

『待った。私に考えがあるからちょっと落ち着いて』



その場から駆け出そうとしたアッシュを引き止め、サクはずっと羽織っていたローブをバサリと脱ぎ捨てた。













「本物のナタリア様は死産でございました」



謁見の間にて、モースに促された乳母が、蒼白になりながら語り始めた。



「しかし、王妃様はお心が弱っておいででした。そこで私は、数日早く誕生しておりました、我が娘シルヴィアの子を…王妃様に……」

「……そ、それは、本当ですの、ばあや」



狼狽え、声を震わせるナタリアに、乳母は答えずに顔を伏せて泣き崩れた。本当に泣きたいのは、ナタリアの方であろうに。



「古より、ランバルディア王家に連なる者は赤い髪と緑の瞳であった。しかしあの者の髪は金色。亡き王妃様は夜のような黒髪でございましたなぁ?」



ニヤニヤと、嘲笑が込められた意地の悪い笑みと、嫌に猫なで声でモースが語る。



「今更見苦しいぞ、メリル。お前はアクゼリュスへ向かう途中、自分が本当の王女でないことを知り、実の両親と引き裂かれた恨みからアクゼリュス消滅に荷担した」

「ち、違います!そのようなこと……!」

「伯父上!」



もはや黙っていられなかったのであろう、ルークは叫んだ。本物でないと言われる苦しみは、誰よりも彼自身が一番理解しているつもりだった。



「本気ですか!そんな話を本気で信じているんですか!」

「わしとて信じとうはない!」



王は玉座の肘掛けの上で、拳を握り締めた。王の顔は苦渋に歪んでいる。辛うじて王としての威厳こそ保っているものの、以前よりも王は明らかにやつれ、急に老け込んだように見える。



「だが……これの言う場所から嬰児の遺骨が発掘されたのだ!」

「……も、もしそれが本当でも、ナタリアはあなたの実の娘として育てられたんだ!第一、有りもしない罪で罰せられるなんておかしい!」



ルークの言葉に、モースは薄笑いを浮かべた。



「他人事のような口振りですな。貴公もここで死ぬのですよ。アクゼリュス消滅の首謀者として」



実際は、嬰児の摩り替えに教団の工作員も一枚噛んでいるだろうに。自らそれを、愚かにも堂々と明言するとは。大罪を自白したのと同義なのに、誰も気付いてもいない。モースも、大臣達も、国王ですらも。滑稽としか言い様のない、とんだ茶番劇だ。



「さぁ、陛下。改めて御決断を」



モースに促され、国王は目を閉じた。

宴も酣。果てさて、アッシュじゃないけど、いい加減馬鹿らしくなってきたし……もうそろそろ良いよね。

この茶番劇を、ぶち壊しに行っても。



「……そちらの死を以って、我々はマルクトに再度、宣戦を布告する」

『お待ち下さい!』



インゴベルトが重々しく告げた直後。背後で扉が開く音がし、凛とした声が謁見の間に響き渡った。

この場に集った者達の視線が一斉に注がれる、その先に現れた二人の人物。中でも、突然の乱入者達に一番驚いたのは、ルーク達だった。正確には、彼らが息を呑んだのは二人のうちの片方……彼女の方に対してだったが。

様々な感情が入り交じった一同からの視線には構わず、彼女は彼……アッシュと共に謁見の間へと足を踏み入れた。コツコツと足音を響かせ、ルーク達の間を通り過ぎ、国王陛下の御前へと赴くと、彼女は深く頭を垂れて膝間づいた。



『突然の謁見となりますが、事は急を要するが故に、この無礼をどうか御許し下さい……偉大なるキムラスカ・ランバルディア王国国王陛下』



緊張した雰囲気の中、臆する事なくそう口上を述べたのは、崩落より長らく姿を消していた、導師サク扮する、導師守護役ユリアだった。



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