秘預言(3/6)


「いつになったら船を出してくれるんだ」

「港に行ったらここで聞けと追い返されたぞ!」

「ルグニカ大陸の八割が消滅した!この状況では危険過ぎて定期船を出すことは出来ぬ!」



アルビオールにフレイルとノエルを残して一行がダアトへ入ると、教会の前で詠師トリトハイムを人々が囲み、口々に不満を訴えていた。詰め寄っている人々は、おそらく旅行者(巡礼者)や行商人達だろう。



「嘘をつくな!そんな訳がないだろう」

「嘘ではない!兎に角もっと詳しい状況が分かるまでは船は出せぬ」



詠師は苦りきった表情で半ば叫びながら、彼らに対応に追われている。これには思わずイオンと顔を見合わせて苦笑を溢した。トリトハイム詠師……なんだかものすごく申し訳ない。

人々が混乱して騒ぎ続けるのも無理はない。いきなり大陸が消滅しました、なんて言われても、普通信じられないよね。



「ルグニカ大陸って言えば、世界で一番でかい大陸だ。それが消滅したなんて……信じられん!」

「どうなってるんだ、世界は……」



人々の表情に浮かぶのは、不満や不安。このままいけば、この混乱はやがて世界中に広がるだろう。ルークも私と同じ事を思ったらしく、その表情は厳しい。



「この事がもっと大勢の人に知られたら、大混乱になるな……」

「この先どう対処するかが分かれば、それも抑えられるはずよ」

「そういうことですね」



ルークとティアの言葉に、ジェイドも頷いた。取り敢えず、正門前には人だかりが出来ていて、此方から入るのは流石に微妙そうだったので、こっそり別の出入り口から侵入する事にしました。



「ここって、神託の盾騎士団本部にも通じてる通路……ですよね?」

『そうだよ。此方は非常用通路だから、めったに人が通らないの』

「アニスは知ってた?」

「ううん。普段は使わないし、それにこの辺りって一般兵は立ち入り禁止の区域だから…」



周囲の壁に窓一つない長い階段を降りながら、サクが先頭を歩いて案内していく。この場所は、教団内に暮らすアニスでも知らなかったらしい。

一般兵以外…つまり、神託の盾騎士団の幹部とか、教団の上層部の人間が使用するという事で。両者のどちらにしろ、鉢合わせするのは極力避けたい所だ。オマケに隠れられる場所が殆んど無い為、実はかなりリスクが高い侵入ルートだったりするんだけど……、ぅげ。



「どうした?」



扉に手を掛けようとした所で、動きを止めたサクにガイが首を傾げる。

ルークの肩に乗っていたミュウが、ピクリと袋状の大きな耳を揺らした。



「ミュ?皆さん以外の足音と話し声が聞こえるですの!」

『向こう側から誰か来てる…』

「ま、まずい!引き返すか!?」

「無理だよぉ!この通路無駄に真っ直ぐだし、しかも登り階段だし、距離的にも間に合わないって」

「隠れられる部屋もありませんわ」



慌てて回れ右しようとしたルークを、アニスとナタリアが引き止める。確かに無理だ。下りなら兎も角、上りはキツいよサブウェイマスター。…このネタが分かる人は挙手してね、なんて下らない事をこの余裕の無い状況で考えてみたり。ぶっちゃけただの現実逃避さ。



「ティア!譜歌を…」

「今からじゃ無理よ!」

「じゃあピコハンで…」

「相手が騎士団の幹部の方だった場合、危険です」



ジェイドの言う通りだね。六神将みたいな手練れの騎士団幹部だと、ピコハンみたいな初級譜術じゃ逆に返り討ちに遭いそうだし。いやね、六神将とガチで遭遇ってケースもあるんだよ、ここ。実際に私はこの付近でラルゴと遭遇した事あるし。

…え?何でそんなリスクのある通路を選んだのかって?一番侵入が楽なルートなんだよ。イオンもいるし、人数多いし、隠し通路の抜け道を知られるのは不味いしって条件絞ったらここが最適だったんだよ。

まぁ例え教団幹部の方だったにしても、手荒な真似は避けたい所だけど。

そうこうしてる間にも、扉の向こう側から足音と気配は段々近づいて来る。



「どうすんだよ!テオルの森以上にかくれんぼの難易度高過ぎだろっ!?」

『ルークよ、まぁ落ち着きたまえ』

「僕が向こう側に行って、時間稼ぎを…」

『イオンも待ってってば』



皆が面白い位パニくっている中、冷静なのはジェイド位だ。扉を開けようとしたイオンを引き止め、サクは音叉を構えた。…誰だか知らないけど、もっと空気を読んで欲しかったよ。



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