秘預言(2/6) 通常、預言は教団により機密事項に属するものと、そうでないものに編纂され、後者のみが一般市民へと公開される。大勢の人が関わる様な重大な預言は、混乱を招くから、という理由からくるもので、外郭大地の事や魔界等が良い例である。 中でも特に、人の生死に関わる様な預言……影響力の大き過ぎる重大な預言を、教団は秘預言としている。 「もしもセフィロトの暴走が預言通りならば、秘預言にはその事が記されている筈ですが…」 「…ん?イオンでも知らない預言があるのか?」 イオンの説明に耳を傾けていたルークだったが、ふと疑問が浮かんだ。イオンは導師であり、ローレライ教団の最高指導者である。実質上、教団の最高権力者であるイオンに知らない預言があるという事に疑問を感じたのだろう。 「いえ……。実は、僕、今まで秘預言を確認したことがなかったんです」 「え!?そうなんですか?」 「僕は身体が弱いので……預言はいつもサクに詠んで貰っているんです」 驚くアニスに、イオンは頷いた。…間違った事は、言ってない。こういう時のイオンの言い回しは、何気に上手いよね。言葉の裏では、被験者と自分を分けて表現してる。 イオンは一瞬だけ、影のある表情を浮かべた後……そのままうつ向いた。 「秘預言を知っていれば、僕はルークに出会った時、すぐに何者か分かったはずです。アクゼリュスのことも……回避できたかもしれない」 「それでサク様は、あの時六神将達にイオン様と一緒に捕らえられたんですね。秘預言を知っていたから…」 『恐らくね。実際に、親善大使としてルークをアクゼリュスに行かせようとしたら止めるつもりだったし』 その前に六神将に先手を打たれちゃったんだけど、と言ってサクは苦笑を溢す。アニスの見解も、間違ってはいない。それも理由の一つだろう。しかし、実際は恐らく……ヴァンのレプリカ計画を邪魔される事を防ぐ目的の方が大きかったと思う。 「サク様、秘預言にセフィロトの暴走の事は…」 『残念ながら、詠まれていなかった筈だよ』 ティアに尋ねられ、サクは首を振った。 『でも…念の為、もう一度秘預言を調べてみた方が良いかもしれない』 「しかし、ダアトへ戻ればモースは必ず接触してきますよ」 ジェイドが気遣わし気な様子で、よろしいのですか?とイオンに再度確認を取る。イオンも覚悟の上らしく、表情を引き締めて頷いた。 「行きましょう。手掛かりがあるとするなら、教団しかありません」 いつまでも逃げ回っている訳にはいきませんから。ギュッと音叉を握り締め、イオンが決意を固める。 ……やはり人は、預言に頼るのか。まぁ、秘預言を調べるよう促したのは私だし、そういう私自身、他人の事をとやかく言えた義理はない。 結局の所、シナリオに頼ってる私も同じなのだ。 そこで一旦思考を打ち切って、サクはこっそりフレイルに耳打ちする。 『…私達がダアトに行ってる間、フレイルはアルビオールに待機して貰って良いかな』 「……そうですね。今はまだ…」 『それもあるけど、私達がダアトに行った後、ノエルと一緒に少しダアトから離れて欲しいの』 「!それは…」 『もしアルビオールを押さえられたら不便だからね。念の為』 「分かりました」 ダアトへ行くのは、ジェイドが言う様にやはりリスクがある。特にフレイルは、モース辺りに見付かると、別の事情からも非常に厄介だ。 けれど、今回サクがフレイルに待機を頼んだのはその件が理由ではない。僅かに表情を固くしたフレイルだったが、サクの言わんとする事を察し、直ぐに承諾してくれた。 今の世界の流れは、本来のシナリオより早い。既にシナリオから色々と逸脱し始めてもいる。それでも本来の大きな流れからはまだ外れていないので、今後起こるだろう展開は、ある程度予測出来る。 まず鍵となるのは、此れからダアトへ行くにあたり、モースが今何処にいるのか…だ。出来れば降下したケセドニアにいて足止めされていれば、捕まる心配もないんだけど……それより、今はバチカルかダアトのどちらかにいる可能性の方が高いだろう。更に言うと、非常事態において、ダアトに戻って来ている可能性が一番高そうだ。 アクゼリュスが崩落したのに戦争が起きていないから、モースはかなり焦っているだろうね。切り札に偽姫問題を出して来るのは、間違いない。 『(…まぁ、その辺は臨機応変に対応するとして)』 地殻静止作戦のヒントになる禁書、1年位前に見付けた後……何処の棚に戻したっけ?実はモース以上にコレが一番重要な問題だったりする。 *前 | 戻 | 次#
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