生命の樹(2/13)


「双牙斬!」

『ニャー!!?会って早々に攻撃とか何!?』



オアシスに着いて、アッシュと顔を合わせるなり、早々と斬りかかって来やがりましたよこのツンデレめ。咄嗟にフレイルが剣を抜いて私を守ってくれたから助かったけど、危うく無詠唱のエナジーブラストでアッシュを泉の落下譜石まで弾き返す所だったじゃないか!



「待てよアッシュ!サクは敵じゃない!!」

「フン。そんな事は分かっている」

『ちょ、分かってるなら挨拶代わりに斬りかかって来るなよ!!』



ほら、アッシュの態度にはルークも呆れてるじゃないか。フレイルに関しては完全にアッシュを敵と見なして、いつでも抜刀出来る臨戦態勢を取ったままなんですけど!

アッシュの事だから、こっそりルークに同調フォンスロットを繋いだ際にでも、私が敵じゃないって納得してくれたんだろうけど。て言うか知ってるなら攻撃するなよ!本当に全く。



「で、話ってなんだよ」

「何か変わったことは起きてないか?意識が混じり合ってかき乱されるというか……」

「はぁ?」



ルークが首を捻る傍で、サクはああ…と直ぐに合点がいった。大爆発の予兆…かな。または、外郭大地の崩落に対してローレライが過度に焦って「頼むから私を今すぐ地殻から解放してくれぇえええ!!」って感じでアッシュに接触を図っているとか……もし後者が理由だったらちょっと嫌かもしれない。



「意味分かんねぇ……。お前が俺との回線を繋いでこなければ変なことは起きねぇし……」

「……そうか」

「アッシュ。何かありましたの?どこか具合が悪いとか……」

「……別に」



ナタリアが気遣わし気に訊ねるも、アッシュはプイと顔を背けた。子供かっ!と思わずツッコミたくなったけど、頑張って堪えた私は偉いと思う。

ちなみに、わざわざ呼んでおいて、とガイは半ば呆れてしまっていたりする。…ガイとアッシュの間にある温度差が地味に辛いです。



「おい、それだけかよ」

「……ルグニカ平野のほぼ全域をお前達が魔界に降下させたのは知っている。だが、他にもケセドニアの周辺…この辺りも、既に地盤沈下が始まっている」



アッシュの後半の言葉に、一同の顔色が変わった。もしかして…と、アニスが呟く。



「それって、総長がザオ遺跡のパッセージリングを停止させたって事?」

「サクの読みが当たりましたね…」

『全くもって嬉しくないけどね……』



イオンの言葉に、サクは思わず苦虫を噛み潰した様な表情になる。ていうか、シナリオより崩落の兆候が早いし……何?本当に地殻でローレライが暴れてでもいる訳?

オイコラ地殻に引き込もって無ぇでちょっとツラ貸せや、とローレライをしばき倒したくなったが、今ここで奴を呼び出す訳にもいかないので、我慢する。

…まぁ、考え方を変えれば、今回に関してはむしろこの展開の方が好都合か。これでケセドニアを魔界に降下せざるを得なくなった訳だし、私も下手にボロを出さずに済んだし。

実はちょっとどういう口実で降下させようか、地味に悩んでたんだよねぇ。あまりにも事が順調に、本来のシナリオよりも色々と早く進んでたりしてて。



「魔界に降下させるつもりなら、急いだ方が良い。それに、リングを起動させれば、遠くのリングから別のリングを操作する事も可能になるらしいしな」

「それは本当ですか?」

「ヴァンはそう言っていた」



アッシュがそう答えると、ジェイドも確かに理論上は可能ですね、と頷いた。



「……オイ、何をニヤニヤしてやがる」

『いや、何だかんだでルーク達を心配してくれるアッシュは優しいなぁ〜とか、そんなにナタリアの事が心配なのかこのリア充め、とか…「もう黙れ」

ゴインッ


『いだ――っつ!!こ、拳は酷い…』

「大丈夫ですか?ご命令下されば特務師団長を切り刻みますが」

「ちょ、フレイルってそんなキャラだったのか!!?」



思わずルークがフレイルにツッコんでいた。普段と同じ声色でそんな恐い事をサラッと言わないで下さい。余計に恐いですフレイルさん。貴方はいつからクロノと同じ腹黒属性になったんですか!?

一方で、私に弄られた事でアッシュは機嫌を損ねたらしく、彼は舌打ちしながら此方に背を向けた。



「アッシュ!何処へ行くのですか」

「俺はヴァンの動向を探る。奴が次に何処を落とすつもりなのか、知っておく必要があるだろう」



ナタリアに答え、そのまま熱砂の上を歩き出す。



「……ま、お前達がこの大陸を上手く降ろせなければ、俺もここでくたばるんだがな」

「約束しますわ!」



ナタリアはアッシュの背に叫んだ。



「ちゃんと降ろすって!誓いますわ」

「指切りでもするのか?馬鹿馬鹿しいな」

「アッシュ……!」



振り返り、皮肉な笑みを浮かべると、アッシュは自分に言い聞かせる様に続けた。



「世界に絶対なんてないんだ。だから俺はあの時……」



何かを言おうとするも、アッシュはそこで黙り……息をついた。



「……俺は行くぞ。お前らもグズグズするな」



そう言って、アッシュは去った。その姿は直ぐに砂に紛れたが、見えない背中をナタリアはずっと見詰めていた。なっちゃんも健気だねぇ。

そんな二人の背中を見ながら、ルークはため息をつく。



「アッシュのヤツ、結局何の用だったんだ?話すだけ話して行っちまったけど」

「そうですわね。久し振りに会ったというのに……」

『あれだよ。きっとナタリアに会いに来たんだって』

「否定出来ない所がまた何だかなぁ…」



いや、そこは誰か否定してあげようよ。自分で話振っといて何だけどさ。ちなみにガイ曰く、アッシュは相変わらずよく分からないヤツだよ。との事で。



「用件はよく分かりませんでしたが、重要な情報を届けてくれましたよ。ケセドニア周囲の地盤沈下、パッセージリングの操作に関する情報などをね」



眼鏡のレンズの砂を拭き取りながら、ジェイドが特に興味も無さげな様子で言った。眼鏡を取ったジェイドは貴重な上にテラ子安…じゃなくてイケメンですね!



「やはり、私達を助けようと……」

「まだ結論を出すのは早計というものです」



ジェイドがナタリアに注意を促し、ルークも「そうだな」と頷いた。



『そんな事無いよ〜。アッシュはあれでいて根は良い奴だし。確かに素直じゃないし口数も少ないし単純だし沸点低いしツンデレだけどさ』

「サク様、いまいちフォローになっておりませんよ」

『あれ?』



フレイルにツッコまれた。まぁ少なくとも、ナタリアの事が大好きっていうのは確実だけどね、アッシュは。



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