生命の樹(1/13)

シュレーの丘を後にし、魔界に降下したルグニカ平野の上をアルビオールが通った際、駐屯地にマクガヴァン元元帥とマルクト兵達の姿はあったが、キムラスカ軍の姿は無かった事からまだ開戦されていない様で、サクは内心ホッと安堵した。

本来のタイミングならばもう開戦しており、この後ナタリア組がカイツールにいるキムラスカの本陣へ停戦させに向かい、ジェイド組がエンゲーブの住民を避難させに向かう所だった。けれど、今は本来の流れよりも少し早い段階でルーク達は上手く立ち回れていて、まだ戦争は起きていない。

こうなると、エンゲーブの住民を全員避難させなくても良かったかも……とは思ったが、それは今回降下のタイミングがたまたま本来の流れより早かっただけだ。所詮は結果論である。

外郭大地へ戻る前に、ルグニカ平野で駐屯地に寄り、マクガヴァン元元帥達に大地降下の旨を説明してきた。初めて目の当たりにした魔界の姿に、誰もがかなりの衝撃を受けている様子だった。



「もしも預言通りにここで戦争が起きていたら……両軍共に、全滅しかねませんでしたね」

「?…あ、そうか。ここってルグニカ平野だ。下にはもうセフィロトツリーがない状態だったから……」



遅かれ早かれ外郭大地は崩落し、戦場で戦う両軍諸共、崩落に巻き込まれていただろう。窓から平野を見下ろすフレイルの言葉に、アニスも思わず「うわぁ…」と声を上げて、表情を引き吊らせた。恐ろしい事この上ない。



「……それが兄さんの狙いだったんだわ…」

「どういうことだ?」



思わず呟いたティアに、ルークは訊ねた。



「兄は外殻の人間を消滅させようとしていたわ。預言でルグニカ平野での戦争を知っていた兄なら……」

「シュレーの丘のツリーを無くし戦場の両軍を崩落させる……。確かに効率のいい殺し方です」



ティアの言葉をジェイドが引き取った。ルークは思わず壁に拳をぶつけた。



「冗談じゃねぇっ!どんな理由があるのか知らねぇけど、師匠のやろうとしてる事は無茶苦茶だ!」



カッとなって怒鳴ったルークの言葉に、フレイルも思わず苦い表情を浮かべる。彼も一度、預言によって殺され掛けた身だ。しかも、尊敬していたヴァンにも騙されて。そして、あの時とまた同じ事が、繰り返され様としている。不愉快極まりないだろう。

怒りに震えるフレイルの拳に、サクはそっとその手を被せた。ハッと我に返ったフレイルに、サクは小声で話し掛ける。



『……これ以上、同じ過ちは繰り返しちゃいけない』

「…はい」

『その為に、私達は全員動いてる』



だから、大丈夫だと。言葉にはせずに、フレイルに伝える。強く握られていた彼の拳は、ゆるく解れていった。

アルビオールがルグニカ平野を抜けた後、前回タルタロスを打ち上げさせたセフィロトの力を利用し、再び外郭大地へと戻ったルーク達は、そのまま急いでザオ遺跡へと向かった。そうしてアルビオールがザオ砂漠に入り、暫く経った時だった。



キィン―――…

「……いてぇ……!」



突然ルークが頭を押さえて、その場に踞った。…もしかして、アッシュからの通信だろうか。何て言うか、予想よりかなり早い段階でアッシュの方も接触してきたね。



「また例の頭痛か?確かアッシュの声が聞こえるんだったな」

「……ああ。俺、あいつのレプリカだから」



ガイに手を借りて立ち上がりながら、ルークは疲れた様に息を吐いた。



「アッシュは何て言っていましたの?」

「砂漠のオアシスへ来いって。話があるってよ」



ナタリアの問いに、ルークが答える。このタイミングできたって事は…こっちが砂漠に来た事をルークを通して見てたのかな。



「兄さんが裏で糸を引いているんじゃないかしら」

「それはどうでしょう。一概にヴァンの味方とは考えにくい」



ティアの言葉に、ジェイドは首を振った。…あ、そっか。ティアは外郭大地へ戻った時にアッシュと一緒に行動してないから、ジェイド達とはアッシュに抱く印象が微妙に違うんだ。だからこそのこの温度差か…それとも単に、ヴァンとの繋がりが深いからか、もしくは……。



「そうですわ!アッシュは私達の敵ではありませんくてよ!」

「味方でもないんじゃないかなぁ。アッシュってば、前の時も何してるか話してくれなかったし」



アニスの言葉に、ティアが「そうだったの?」と少し意外そうな顔になる。事実なので、ナタリアも浮かない表情のまま「ええ」と肯定した。



「詳しいことは何も……。調べたいことがある、とは言っていたのですけど…」

「秘密主義な所は、サク様とそっくりですね」

『嫌みですかジェイドさん。それから、アッシュは秘密主義なんじゃなくて、ぶっきらぼうなだけだよ』

「……。兎に角、今のアッシュと兄の関係が明確でない以上、やはり警戒だけはしておいた方がいいと思うの」

「分かりましたわ……」



微妙に仲間達のアッシュへの風当たりは厳しく、明らかに気を落としてしまったナタリアを見て、ルークが気まずそうに頬を掻く。



「…まぁ、オアシスに寄ってみようぜ。アッシュの話を聞いてからでも、セフィロトの制御は間に合う筈だろ?」

『ノエル、行き先をオアシスに変更して貰えるかな?』

「分かりました」



砂漠の空を、アルビオールは旋回した。



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