世界を駆ける(8/9)

広間にあった三つの譜陣を消し、一行は再びパッセージリングの前へとやって来た。しかし、これといって特に変化は見られない。



「これでも駄目なのかしら……」



ティアが眉を曇らせ、パッセージリングの前を通り過ぎた時……正面に設置されている譜石が、一瞬輝いた様に見えたのを、ナタリアは見逃さなかった。



「ティア!ちょっとその譜石に近付いてくださる?」

「……?いいけど」



ナタリアに言われるがままに、ティアが二、三歩、譜石に歩み寄った。何事かとルーク達もティアに注目した時、変化は起こった。

閉じていた譜石と制御装置が同時に輝きを放ち、双方の間に譜陣が浮かび上がった。更に、制御装置の上部が割れて書物の様に二つに開く。

ティアの体に青白い光が吸い込まれると、パッセージリングの上部に操作盤の図式が展開された。操作盤は10個の円形の図で構成されており、そのうち五つは緑が赤く囲まれている。

どうやら、パッセージリングが起動した様だ。



「ティアに反応した?これがユリア式封咒ですか?【警告】……と出ていますね」

「……分かりません」



操作盤全体に浮かび上がる注意を促す赤い文字をジェイドが言うと、イオンは首を横に振る。



『(【耐用限界年数に到達】……か)』



本来なら、セフィロトの耐用限界年数はもっと先で……それが、セフィロトの封印が解かれる予定の【約束の時】とされていた。

耐用限界年数が縮まってしまった原因は、ホドやアクゼリュスのセフィロトが消滅した事により生じた他のセフィロトへの過剰負荷と、地殻に閉じ込められたローレライによる振動が影響している。

これにより、セフィロトの暴走が引き起こされるんだっけ。現段階では全部後回しにされる問題だけど。

それにしても、この世界の先人達も、大変な問題を先送りにしてくれた物だよね。当時の技術でどうにも出来なかった事を、当時よりも技術が劣化したこの時代で何とかしろだなんて。遠回しに未来の人間達に死ねって言ってる様な物だ。それとも未来に訪れる【未曾有の繁栄】で技術が発展して対処出来る様になるのを期待してた、とか?……此方の方が可能性としては高いかもしれない。

まぁ、ぶっちゃけ何でも良いや。最終的には第七音素の希薄化を対価に、ローレライを地殻から解放させれば全部解決するんだし……



「…サク様、眉間に皺が寄ってますよ」

『……。思考が脱線してた』



どうやら私はずっとパッセージリングを睨んでいたらしく、フレイルに肩を叩かれて、漸く我に返った。



「……グランツ謡将、やってくれましたね」

「兄が何かしたんですか!?」

「セフィロトがツリーを再生しないように弁を閉じています」



制御装置を覗き込んでいたジェイドが顔を顰めて、そうティアに答えた。どういうことですの?と、ナタリアも不安気な表情でジェイドに訊ねた。



「つまり暗号によって、操作出来ないようにされているということですね」

「暗号、解けないですの?」

「私が第七音素を使えるなら解いてみせます。しかし……」



心配そうにミュウが首を傾げるも、ジェイドの表情は厳しいままだ。残念ながら、ジェイドは第七音素譜術士ではない。この中でティアやナタリアも七音素譜術士ではあるが……やはりパッセージリングの操作となると、難しいらしい。

チラッとジェイドから視線を向けられたが、サクも首を横に振った。そりゃ、フォミクリー技術には多少は精通してるけど、それとコレとは全くの別問題だ。ヴァンの様にセフィロトを操作出来る程、此方方面の技術に詳しくはない。まともに操作盤の操作も出来ないのに、暗号解読など不可能だ。



『(―――…否、ローレライ辺りを呼び出せば……確かに何とか出来るかもしれない)』



けど、私にはそこまでする気はない。何故なら……



「……俺が超振動で、暗号とか弁とかを消したらどうだ?」



皆が一斉にルークへと振り向く中、サクは密かに口角を上げた。



「超振動も第七音素だろ」

「……暗号だけを消せるなら何とかなるかもしれません」



ジェイドが考えながら言うと、ティアが慌ててルークを止めに入った。



「ルーク!あなたまだ制御が……!」

「訓練はずっとしてる!それに、ここで失敗しても、何もしないのと結果は同じだ」



とても、勇気が必要だったと思う。自分からそう言い出すのは。

アクゼリュスでの事だってある。それでも、ルークは自分がやると言ったのだ。セントビナーを助けたい、一心で。



「……そうね。その通りだわ」



意思の強いルークの目を見て……ティアも頷いた。ルークを信じる事に決めたらしい。



「ん…?……あーっ!ちょっと待って下さい。あの文章っ!」



話がまとまり、いざ作業に移ろうとした所で、操作盤を見上げていたアニスが何かに気付いて叫び、図面に浮かぶ文章を指差した。ガイも文章を目で追っていく内に、表情が変わっていった。



「……おい。ここのセフィロトはルグニカ平野のほぼ全域を支えてるって書いてあるぞ。ってことは、エンゲーブも崩落するんじゃないか!?」

「ですよねーっ!?エンゲーブ、マジヤバな感じですよね!?」



これには思わずフレイルと顔を見合わせてしまった。ちなみにジェイドは何も言わずに此方を見ていて、無言のプレッシャーがちょっと痛いです。



「大変ですわ!エンゲーブの皆さんも避難させませんと!!」

『え〜っと、エンゲーブの人達なら大丈夫だよ。既に全員避難して貰ってあるから』



ナタリアの言葉に、サクが挙手をしながらそう返してみた。

グワングワン頭を回していたアニスの動きもピタリと止まり、皆が一斉に此方に振り返ってきて少しビビった。



「ええええ!?サク様それって一体どういう事ですか!!?ていうかいつの間に!!?」

『ほら、一旦皆とはベルケンドで別れたでしょ?あの後シェリダンに行って、次にエンゲーブに行って、街の人達に避難をして貰っておいたの』

「成る程……って、いやいや、その時はまだセントビナーすら崩落して無かったのに、何でエンゲーブが危ないって分かったんですか!?」

『フレイル達から南ルグニカ地方の崩落や、セントビナーが地盤沈下を起こしてるっていう報告があったの』



アニスが混乱しまくる一方で、ね?とフレイルに同意を求めると、彼は「はい」と直ぐ様肯定してくれた。流石フレイル。違和感なく話を合わせてくれて有り難う。



『セントビナーは危ないけど、エンゲーブは大丈夫って保証は無いし。むしろ同じ危険性があるって考えて警戒するのが普通でしょ?』

「サクの考え方は、預言に頼らない考え方なんですね…」

『ん〜…そういう訳でも無いんだけどねぇ』



驚いているせいか、サクの説明に皆が反応出来ないでいる中、イオンが言った。

確かに私の場合、預言には頼っていない。私が頼っているのは、物語のシナリオの知識だ。ぶっちゃけ、どちらもそう変わらないよね。



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