世界を駆ける(9/9) 『一つ提案があるんですけど、セントビナーだけを魔界に降ろすのではなく、いっそルグニカ地方全体を降下をさせてみませんか?』 「……崩落の危険性がある以上、妥当な判断でしょう」 セフィロトの力を調整し、ここのセフィロトが支えている大陸全体を緩やかに降下させれば、アクゼリュス崩落の時の様に死者も出たりはしない。サクからのこの提案には、ジェイドも頷いた。 更に預言に詠まれた戦場予定地が魔界に降下する事により、下手に開戦も出来なくなるという。正に一石二鳥。樽豚と髭ザマァ!って感じだね。 「第三セフィロトを示す図の一番外側が赤く光っているでしょう。まずは、その赤い部分だけを削除してください」 「やってみる」 仲間達が固唾を呑んでルークと円を見守る中、ルークは突き出した両腕の掌に超振動を発生させた。ルークは超振動の光を赤い線の上に飛ばして載せると、ゆっくりと円周をなぞり始めた。超振動は、赤い部分を削り取っていき、無事に一周すると、円はセフィロトと共に明るく強く輝き出し、辺りに記憶粒子が発生し始めた。 「……起動したようです。セフィロトから陸を浮かせるための記憶粒子が発生しました」 記憶粒子の光が吹き上がる中、ジェイドの言葉に、先ずは誰もがホッと安堵した。 …でも、作業はこれでまだ終わりじゃない。 「この後は?」 「光の真上に上向きの矢印を彫り込んで下さい」 「私が代わりましょうか?」 ティアがそう申し出たが、ジェイドは「いえ」と答えた。 「強引に暗号を消去していますから、通常の操作では書き込みが出来ません。ルークの超振動で無理矢理に削っていかないと……」 『ルーク、休憩しなくて大丈夫?』 「ああ。これ位、何ともねぇよ」 矢印は問題なく刻まれた。ルークも緊張した面持ちではあるが、体力的にはまだまだいけそうだ。かなり神経を使う作業ではあるけど……。ジェイドもルークの状態を見て大丈夫だと判断したのだろう、続いて新しい指示を出す。 「次に命令を記入しますが、古代イスパニア語は……分かりませんよねぇ?」 「当たり前だろっ!」 「分かりました。今使っているフォニック言語でお願いします。文法はほぼ同じですから動くでしょう」 「なんて書くんだ?」 「ツリー上昇。速度三倍。固定」 「分かった」 円の周囲に、少しずつ新たな文字が刻まれていく。指示通りの言葉が書き終わると、先程の円周の時と同じ様に、今度は刻んだ文字が輝き出した。 ジェイドはティアが起動した制御盤を見詰め、上手く作動しているか確認する。 「……正常に機能している様なので、大丈夫でしょう」 「それじゃあセントビナーはマントルに沈まないんですね!」 「エンゲーブの方も、これでいきなり魔界に崩落する事は無いでしょう」 ティアが感激のあまり声を震わせ、フレイルも笑みを浮かべる。 「……やった!やったぜ!!」 セントビナーが完全に崩落するのを防ぐ事が出来た。エンゲーブの街も、助ける事が出来た。その事を喜ぶあまり、ルークも歓声を上げ、思わずティアを抱き締めた。彼女が腕の中で頬を染めたのにも気づかずに。 「ティア、有り難う!」 ルークはティアの右手を両手でしっかりと包み込み、何度も上下に振る。握手というには少々、激し過ぎる動きだった。 「わ、私、何もしてないわ。パッセージリングを操作したのはあなたよ」 「そんなことねーよ。ティアがいなけりゃ起動しなかったじゃねぇか」 素直なルークが可愛い。戸惑うティアも可愛い。嗚呼〜、やっぱりルクティアは癒しだわ〜。 「それに、皆も……!皆が手伝ってくれたから、皆……本当にありがとな!」 明るい表情で、くるりと仲間の方へと向き直ったルークに、サクも笑みを深める。 『お疲れ様、ルーク』 「サク…!サクも、本当に有り難うな!」 『いやいや、今回一番頑張ったのはルークだよ。此方こそ、有り難うだよ』 ティアに引き続き、嬉しさの余りはしゃぐルークからブンブンと若干激しく握手されながら、サクもつられて笑う。 「何だか、ルークじゃないみたいですわね」 はしゃぐルークを見詰め、ナタリアがポツリと呟いている。…ああ、そっか。ナタリアはアッシュとルークを混同してるもんね。ルークの変化が嬉しい反面、内心は複雑か。確かに、アッシュがこんな反応を見せたら……うわあ、シュールだ。 そんなナタリアの小さな呟きを、サク以外で唯一聞き取ったガイが、「いいんじゃないの」と言ってルークを見守りながら笑った。 「こーゆー方が少しは可愛げがあるしね」 「あなたはルーク派ですものね」 「別に違うけどね。ナタリアだってアッシュ派って訳でもないんだろ」 ガイの言葉に、ナタリアはそっと顔を背けた。 「……私には、どちらも選べませんもの」 少し寂し気にナタリアが胸中を溢した一方で、サクがふと気付く。…危ない危ない。このままルークと和んでる場合じゃなかった。 『……ねぇイオン。イオンが六神将に連れ出されて解咒したのは、アクゼリュスとシュレーの丘…だけ?』 「?……いえ、ザオ遺跡も…ですね」 つい今しがた思い出した様にイオンに尋ねると、イオンは少しばかり過去の記憶を辿り、そう答えた。皆の視線が再び此方に集まり始めた中、私が言わんとする事にジェイドが一早く気付いた様で、再びサッと表情を曇らせた。流石ジェイド。察しが良いですね。 『ザオ遺跡のセフィロトをヴァン謡将が操作してる可能性、高いよね』 「「「!」」」 よく気が付かれましたね、とジェイドは眼鏡のブリッジを押し上げる。 「他の大地の崩落を狙うなら、恐らくは」 「ザオ遺跡のセフィロトだと……今度はケセドニア辺りが危険です」 「ケセドニアにはエンゲーブの住民に避難して貰っていますし、此方のセフィロトも早急に確認する必要がありますね」 イオンの言葉に、フレイルも表情を顰める。エンゲーブの人達にケセドニアへ避難して貰ったのに、そこでケセドニアに崩落されては避難した意味がない。 『ザオ遺跡のセフィロトへ行きましょう。これ以上、外郭大地を崩落される訳にはいきません』 サクの言葉に、一同は頷いた。…よし。これで次の目的地は決まったね。 皆が出口へと向かい始めた時、ルークはティアが胸元を押さえて立ち止まっている事に気付いた。 「……ティア。どうかしたか?」 「少し疲れたみたい……。でも平気よ」 少し目眩がしただけだから、と言って、顔を上げたティアの微笑みは、何処と無くぎこちない。 「ホントかよ?お前、結構無理するから、イマイチ信用できないっつーか……」 「信用できなくて悪かったわね」 ムッとした表情でティアに睨まれ、ルークは一瞬言葉を詰まらせた。 「……そ、そんな言い方ないだろ!俺はただ……」 「……ごめんなさい。確かに、私がおかしかったわ」 そう言って、ティアは今度は柔らかく微笑んだ。 「心配してくれてありがとう」 「う……うん。いや、平気なら……い、いいんだけどさ」 ルークは僅かに頬を赤く染めながら、頭を掻いた。そんな二人の背中を見詰めながら……サクは密かに拳を握った。ティアの身体をを蝕む障気の事も、忘れてはいけない。シナリオではイオンがティアの障気を引き取って逝ったけれど……其れだけは絶対にさせない。 今の所、事の流れは殆んど上手くいっている。それでも、全てが全て計画通りに進む訳ではない。その都度微調整をしたり、計画を見直す必要だって、この先出てくる可能性もあるだろう。 此方もどのタイミングで対処するか……また改めて考えておかないとね。 *前 | 戻 | 次#
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