世界を駆ける(7/9)

ユリア式封咒の解除方法。属性の異なる音素を集め、それを各部屋の床に浮かび上がった五線譜に配置し、メロディを奏でる作業を三回。

音素はその辺に収束している物もあれば、石の中やゴーレムの中にある物もあった。面倒くさいから私が譜歌を詠って集めてやろうかとも思ったけど、ユリアの譜歌についてツッコまれると微妙なので止めておいた。

仕方が無いので、腹いせにゴーレムをボコる事にしましたヨロシク。



「虎牙破斬!」

「狂乱せし地霊の宴よ、ロックブレイク!」

「潜身脚!」

「当たって砕けろー!ミラクルハンマー!」



ガイがゴーレムに斬り込み、ジェイドが譜術を放ち、ダウンしたゴーレムをフレイルが足払いで蹴り上げ、最後にアニスのトクナガが叩き潰す。

そんな感じでサクサクとゴーレムを倒していく中、戦闘に一息ついた所で、フレイルの戦闘を見ていたガイが口を開いた。



「フレイルもシグムント流なのか?」

「そうですね……ここ最近私が剣術指南を受けた師は、確かにシグムント流派でした。けれど、私の場合は亜流も少し混じってしまってて、正式なシグムント流とは言えません」



基本の型は押さえてますが、と剣を鞘に納めながらフレイルは話す。基本の型を崩さない形でオリジナルの剣技を編み出すとか、それって既に師範レベルに到達しているのでは…?と思ったけど、口には出さなかった。

ゲームの仕様みたいに言うならば、フレイルのレベルや術技レベルもカンストしてる感じかな。



「サク!」

『あ』



イオンの声に振り返ると、直ぐ傍に音素を持ったゴーレムが此方に襲い掛かってきていた。突っ込んで来たゴーレムの体当たりをギリギリの所で避けて、攻撃直後の無防備な背後に回り込み、音叉を向ける。



『面倒な仕掛けを造った先人へのこの怒り、具現せよ!フレアトーネード!』

「サクの詠唱恐ッ!!つーか一撃で倒してるし!!?」

『フフフ、ルークも食らってみる?』

「すみませんでしたぁあああっ!!」



戦闘終了時の掛け合いをルークと交わしながら、サクは妖し気に笑った。目が据わった状態で。

取り敢えず、これでこの部屋の必要な音素はコンプリート出来たかな。



『全く、音素を集めたり、並べたり、色々と面倒くさいね……昔の人達は一体何を考えてこんな仕掛けを考えたんだか』

「デスよねぇ〜……流石のアニスちゃんも、ちょっと疲れて来ちゃいましたぁ」

「確かに。この中をウロつきだして、もう結構な時間が経つしな」



壊れたゴーレムから音素を取り出しながら、溜め息を溢したサクのボヤキに、アニスとガイも各々の感想を述べる。

いやはや、まさか本当にこの仕掛けがあるとは思わなかったよ。こんなのはゲームの仕様だろうなって舐めてたよ。ていうかゲームでも大概面倒くさかったのに、実際に自分達が動いて作業をするのは本当に骨が折れるね。やっぱり現実って厳しい。



「大佐ぁ、何か面白い話して下さいよ〜ぅ」

「そうですねぇ……。では、この丘が『シュレーの丘』と呼ばれる由縁でも話しておきましょうか」

「へえ、それは興味があるな」

「私も聞きたいですわね」



ジェイドの提案に、ガイとナタリアが食い付く。えーっと、シュレーの丘の由縁は……ああ、アレか。



「では、お話しましょうか」



眼鏡のブリッジを中指で押さえ、唇に何処か怖い笑みを浮かべるジェイド。うわぁ…何とも楽しそうな顔をして。そういう私も、あまりジェイドの事は言えないけど…まあいいや。せっかくだし、私もジェイドと同じく、皆の反応を楽しませて貰うとしますか。



「……今も昔も、この辺りは国境線を巡って戦争が繰り返し行われてきました。七百年ほど前にも、この辺りで大きな戦があり、その時の死者は積み上げると山ほどの大きさになったと言います」

「まあ……。なんて酷い……」



口元を指で隠すように押さえるナタリア。



「当時高名であった譜術士のシュレーは、死者たちを弔う為に、彼らの遺体の音素を組み替え、丘を作り上げました」



ジェイドはそう言って、足元を見た。



「ちょっ、ちょちょちょちょ、ちょっと待って下さい!」



もはや本気で顔を引き攣らせるアニス。他の者達も、表情をすっかり青ざめさせている。



「それって、じゃあ……この辺りは元々……」



上擦ったアニスの言葉に、ジェイドは、にや、と微笑んだ。

何人かが思わず悲鳴を上げ、互いに抱き合う。ちなみにガイは何とか堪えて、寸での所で踏み止まっていた。今の話より女性の方が怖いらしい。



「まだ話のオチまで辿り着いていないのですが……おや?どうしました、ティア?」

「……」



一人、その場をピクリとも動かなかったティアをの顔を、比較的に動揺が少なかったフレイルが覗き込む。反応が無い。更に彼女の目の前でパタパタと手を振ってみたが、やはり反応は無い。



「…どうやら立ったまま気絶している様ですね」

「ティアー!!?しっかりしろ―――っ」



フレイルの言葉にルークが慌ててティアの肩を掴み、揺さぶる事で彼女は漸くハッと我に返っていた。



「この程度で気を失うなんて、まったく……兵士として失格ですねぇ」

「わ、笑えねぇんだよ!ジェイドの話は!!」

『でも皆の反応は面白かったよね』

「ジェイドの旦那に負けず劣らず、サクも結構良い性格してるよな…」

「ふむ、意外にもサク様は平気だったみたいですね」

『残念ながら、毎回引っ掛かったりはしませんよ(何より知ってたし)。ね、イオン』

「まさか、シュレーの丘にはそんな成り立ちの秘密があったなんて……僕も知りませんでした」

『いや、冗談だからね』



ナタリアの他にもう一人、ここにも天然がいました。



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