世界を駆ける(2/9)

セントビナーに到着したルーク達は、直ぐに以前も訪れたマルクト軍基地へ赴いた。住民の避難が優先か、戦争が優先かで揉めていたマクガヴァン親子だったが、ルーク達がピオニー皇帝陛下からの勅命を伝えた事で街の放棄が決定した。

勅命を受けたマクガヴァン元元帥達の対応は早く、基地にいたマルクト軍にも指示を出し、早急に住民の避難が始まった。

右往左往するセントビナーの人々を、ルーク達も率先して街の外へと導いていく。マクガヴァン元元帥も、街中で人々の誘導を行っていた。

崩落の危機や突然の避難命令に混乱する住民も少なくなかったが、マクガヴァン元元帥の人徳もあり、避難は何とか順調に進んでいた。

……のだが、もうすぐ避難が完了するという頃になって、全くもって空気を読まないディストが、導師イオンを奪いにまたしてもルーク達に襲撃を仕掛けてきた。

とはいえ、ディストはものの見事にルークやジェイド達によって返り討ちにされたのだが……戦闘の衝撃で、大地に亀裂が走ってしまった。その亀裂は一気に大規模な地割れとなり、大地は大きく揺れながら、セントビナーはついに崩落を始めてしまった。

街の外側近くで戦闘をしていたルーク達は、運良く街の外側に残ったのだが……崩落していく大地には、マクガヴァン親子をはじめとした住民が、取り残されてしまった。

自分達とマクガヴァン元元帥達の間を地割れが隔てて、為す術もなく崩落していく街。



「くそ!マクガヴァンさん達が!」

「待って、ルーク!それなら私が飛び降りて譜歌を詠えば……!」

「待ちなさい。まだ相当数の住人が取り残されています。あなたの譜歌で全員を護るのは流石に難しい。もっと確実な方法を考えましょう」



思わず崩落する大地に飛び降りようとしたルークをティアが引き止め、そんなティアをジェイドが止める。

その時、下降する大地の上からマクガヴァン元元帥がルーク達に向かって叫んだ。



「わしらの事は気にするなーっ!それより街の皆を頼むぞーっ!」



マクガヴァン元元帥は必死で両腕を振り、早く離れろと合図する。そうしている間にも、セントビナーは少しずつ沈んでゆく。



「くそっ、どうにか出来ないのか!」



ルークは焦れて地団駄を踏む。



「空を飛べれば良いのにね」

「アニスさん、それはあんな風にですの?」

「そうそう。あんな風に……って、ええ!?



ミュウの言葉に相槌を打っていたアニスだったが、ミュウの視線につられて空を見上げた瞬間、思わずすっとんきょうな驚きの声を上げてしまった。

今度は何事かと、アニス達と同じく頭上の空を見上げたルーク達もまた、あまりの驚きに瞳を見開いた。



「な、何だアレ!?」



セントビナーの上空に颯爽と現れたのは、空を駆ける浮遊機関、アルビオールだった。

初めて見る浮遊機関に、ルーク達が驚くのも無理はない。アニスの冗談等ではなく、本当に空を飛ぶ物体が、今まさに自分達の目の前に姿を現したのだから。



「こいつはもしかして……」

「ガイ。心当たりがあるのですか?」

「シェリダンで飛晃艇の実験をやってるって話を、聞いたことがある」



ガイの呟きにナタリアが尋ねる。ガイはアルビオールを見上げたまま、半ば呆然とした様子で頷いた。



「音機関好きの間で、ちょっと話題になってたんだ。確か、教団が大昔の浮力機関を発掘したって。ユリアの頃は、それを乗り物につけて空を飛んでたって……」

「確かにキムラスカと技術協力するという話に、了承印を押しました。飛行実験は既に実用レベルになっていたんですね」



ガイの言葉を、イオンが肯定した。どうやらあの飛晃艇は二人が話している音機関に間違いなさそうだ。



「でも、キムラスカで飛行実験が行われてた飛晃艇が、何でマルクトに?」

「確かに。戦争が起きようとしている最中に、不自然ですね……」



アニスの最もな疑問に、ジェイドもキムラスカ側の偵察でしょうか?とやや警戒しながら首を捻る。

まさか、開戦直前に敵国の救助の為に現れる、なんて事はまず有り得ない。有り得ない、と、思っていたのだが…

ルーク達が警戒する中、なんと飛晃艇は崩落する方の大地の広場へと降り立ったのだ。取り残された住人達やマクガヴァン元元帥達が警戒する中、飛晃艇のタラップが降り、中から一人の人物が降りてきた。



『皆さん大丈夫ですか!』

「お前さんは…導師サク!?それに、この乗り物は…!」

『詳しい説明は後程。兎に角今は乗って下さい!皆さんも!!』



誰もが驚きを隠せないでいる中、彼等の前に現れたのは、ローレライ教団が第二導師、サクであった。



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