世界を駆ける(3/9)

サク達は崩落する街に取り残されていた人達をアルビオールに乗せ、ルーク達がいる大地まで全員運ぶ事に成功した。そして、私がアルビオールから降りて来るなり…



「おかしいですねぇ。導師サクにはグランコクマでお待ち頂くようお願いしていた筈なのですが…」

『いひゃいへふヘイホハン』



ジェイドから両頬を引っ張られてます。痛いです。そして喋れません。ジェイドの笑顔も恐いです。



「これジェイド坊や!わしらの恩人でもある導師サクを苛めるとは何事じゃ!」

「おっと。軽いスキンシップのつもりが、怒られてしまいました」

『頬が伸びた…』



アルビオールから降りてきたマクガヴァン元元帥がジェイドをたしなめ、サクは漸くジェイドから解放された。有り難うマクガヴァンさん!むしろ貴方の方が私の恩人です。

ていうか、普通に考えたらコレってかなりの不敬だよね。導師の頬を容赦なく引っ張るとか……まぁ、私もあまり他人の事をとやかく言える様な事はしてきてないけど。



『ごめんね皆。待ってるって言ってたんだけど、やっぱり来ちゃった』

「いや、サクが来てくれたお陰で、マクガヴァンさん達を助ける事が出来たんだ。来てくれて有り難う」

『此方こそ。ルーク達が避難を進めてくれてたお蔭で助かったよ』



ルーク達の頑張りのお蔭で、取り残されていた人数は本当にごく少数だった。アルビオールの乗員数にも、やはり限界がある。今回は本当に定員オーバーギリギリだった。まぁ、往復するという手もあるけど、なるべく危険な橋は渡りたくない。

更に、残っていたのが比較的健脚な者達だった為、アルビオールへの乗り込みもスムーズに進める事が出来た。避難の際、女性や子供、老人を優先したのが幸を評したのだ。本当に、ルーク達様々である。



「なぁサク、この飛行挺はまさか…」

『うん。アルビオールだよ』



まじまじとアルビオールを見詰めているガイに、頷いてみせる。ちなみに今回のアルビオールは2号機の方である。

余談だが、現在初号機の方はメンテナンス中であり、操縦士も二号機専属のノエルに代わっている。ギンジも休憩を挟んで貰わないとね。



『シェリダンへ行った時に、アルビオールを借りられないかって交渉して来たの』

「もしかして、私達とベルケンドで別れた後に…?」

『ナタリア正解。まさか、セントビナーが本格的に崩落を始めてたとは思わなかったけど…』



何はともあれ、間に合って良かった。ルーク達と行き違いになったらどうしょうって、ちょっと心配してたんだけど。



「助けて頂いて感謝しますぞ。しかしセントビナーはどうなってしまうのか……」



崩落していく街を改めて見下ろし、惜別の情を抑えきれぬまま、マクガヴァン元元帥がルーク達に言った。



「申し上げ難いのですが……このまま魔界に完全に崩落してしまえば、セントビナーはいずれはマントルに沈むと思います」

「そんな!何とかならんのか!?」



ティアが答えると、彼は頭を抱えた。



「今回は、ホドが崩落した時の状況に似ています。その時は結局、一月後に大陸全体が沈んだそうですから」

「ホド……」



ティアの言葉に、マクガヴァン元元帥はハッと顔をあげた。



「そうか……。これはホドの復讐なんじゃな」



マクガヴァン元元帥は肩を落とし、感傷的に呟いた。ジェイドも目を伏せ、重い沈黙を貫く。この時点では、ホドを故郷とするティアやガイ達は、まだホド崩落の真実を知らない。マクガヴァン元元帥の言葉の真意を理解出来たのは、私を抜いて……ジェイドのみだろう。



「……本当になんともならないのかよ」

「住む所がなくなるのは可哀想ですの……」



ルークが言うと、ミュウも悲し気に耳を下げた。かつてのライガの事を思い出したのだろう、ミュウは目にいっぱい涙をためて声を震わせた。



「大体、大地が落っこちるってだけで常識外れなのにぃ、なんにも思いつかないよ〜。超無理!」



頭を激しく振ってアニスが悩まし気に唸った所で、ルークが何かを思いついた様にティアを見た。



「そうだ、セフィロトは?ここが落ちたのは、ヴァン師匠がパッセージリングってのを操作してセフィロトをどうにかしたからだろ。それなら復活させればいいんじゃねーか?」

「でも私達、パッセージリングの使い方を知らないわ」

「じゃあ師匠を問い詰めて……!」

「おいおいルーク、そりゃ無理だろうよ。お前の気持ちも分か…」

「分かんねーよ!」



ガイの言葉をルークは怒声で遮り、彼を睨んだ。



「アクゼリュスを滅ぼしたのは俺だ!だから何とかしてーんだよ!せめてこの街ぐらい……!」

「ルーク!いい加減にしなさい!」



ジェイドに怒鳴られ、ルークは体を震わせた。



「……焦るだけでは何も出来ませんよ」

「……っ」



ルークは黙り、視線を床に落とした。頭が少し冷えたらしい。

……ごめんねルーク。君一人に重荷を背負わせてしまって。本当は、私にはルークに謝る資格はない。こうなると分かっていて、ヴァンを止めなかった私には。



「とりあえず、ユリアシティに行きましょう。彼らはセフィロトについて我々より詳しい。セントビナーは崩落しないという預言が狂った今なら……」

「そうだわ。今ならお祖父様も力を貸してくれるかもしれない」



ジェイドの提案に、ティアが頷いた。



「それとルーク。先程のあれは、まるで駄々っ子ですよ。ここにいる皆だって、セントビナーを救いたいんです」



ジェイドに諭され、ルークは先程の勢いが嘘のように、項垂れてしまう。セントビナーを救いたい気持ちは、皆一緒なんだと、彼も反省した様子。



「……ごめん……。そうだよな……」

「まあ、気にすんな。こっちは気にしてねぇから」



ガイはルークの肩に手を乗せ、明るく笑った。本当に、ガイは良いお兄ちゃんだねぇ。



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