ライガクイーン(5/6)


「サク様ーっ!」


光が爆発し、譜術の余波が強い突風となり、辺りに吹き荒ぶ。クロノとアリエッタの譜術が炸裂する前に彼らの間……正確にはライガクイーンの許へと駆け出したサクの姿を見て、フレイルは思わず叫んでいた。

いくら味方識別をしているとはいえ、自ら攻撃のど真ん中に飛び込めば無傷では済むまい。ましてや、ただの譜術攻撃ではなく秘奥義だ。

光の爆発による突風に視界を遮られながらも、フレイルは目を凝らしてサクの姿を探した。

そして……



『―――…危なかったああぁ〜!』



光と風が収まった時、ライガクイーンの前で音叉を翳したままつっ立ってるサクがいた。

ライガクイーンもサクも、奇跡的に無傷だ。



「サクっ!ママっ!」



慌てて二人の許へアリエッタが駆け出す中、サクはヘタリとその場へ座り込んだ。

咄嗟にだったけど……使えて良かった。ハハッ、案外やれば出来るもんだね。第二超振動。


「サク、大丈夫?」

『何とか大丈夫だったみたいだよ』

「ママも大丈夫?」

「グルル…」


やり過ぎちゃってごめんなさい…と、申し訳なさそうに俯くアリエッタ。あぁ、そんな泣きそうな顔しなくて良いんだよ。一番悪いのは悪ノリしたクロノなんだから。

咽を鳴らすライガクイーンと一緒にアリエッタを慰めながら、サクは苦笑する。


「サク様!お怪我は!?」

『有り難うフレイル。私もクイーンも無傷だから心配ないよ』


刀を鞘に納め、血相を変えて此方に駆け寄って来たフレイルに苦笑しながら、ひらひらと手を振る。


「サク、今の技は何?禁術の類い?」

『そんな所だけど……その前に先ずは言う事があるよね?クロノ』

「………先程はすみませんでした。僕もつい、調子に乗ってしまって…」

『何で導師口調に!!?』


え、素では謝れないのこの子?って思わずツッコんだら、この謝り方の方が誠意が伝わるでしょ?って返された。ちょっと罰の悪そうな顔をしている所を見ると、反省はしているらしい。今まで素で謝る事なんて無かったから、ちょっと素では謝りにくかった様子。…まさかのツンデレ疑惑浮上か?


「サク、何故私を助けた…って、ママが訊いてるです」

『あぁ、それはだって……あのまま譜術が落ちてたら、確実に卵まで被害がいってただろうし』


広範囲に影響を及ぼす譜術であった為、卵から離れた場所で戦っているとはいえ、譜術の余波で卵が割れる危険性があった。


『クイーンや卵を守る為に来たのに、卵が割れちゃったら意味がないでしょ?』


ライガクイーンの毛並みを撫でながら、サクは苦笑する。自らの危険を省みずに飛び込んだから、クイーンも驚いたのかもしれない。


「!サク、ママが負けを認めるって」

『え!?』


通訳のアリエッタ曰く、敵だった私に守られた時点で、我らの負けだ……とかなんとか。



「今回はサクに免じて、指示に従う……とも、言ってます」

『ウソ…本当に?』

「我らライガは約束は守る……卵が孵ったら、街へは大挙せず、別の森へ移る……って」


ライガはプライドが高そうだから、正直どうなるか不安だったんだけど……話が丸く収まって良かった。


『クイーンに伝えて。"此方の我が儘を聞き入れてくれて有り難う御座います。お礼に、アリエッタの妹や弟達が生まれた時は、お祝いに十分な食糧を提供します……って』

「!サク、良いの…?」

『これ位のお詫びはしなきゃ。それに、アリエッタの妹や弟が生まれる事は喜ばしい事だし』

「っ……有り難う、サク!アリエッタ、サク大好き!」



余程嬉しかったのか、とても嬉しそうに抱き着いてきたアリエッタの頭を撫でながら、内心アリエッタの可愛いさに身悶えする。本っっっ当に可愛い過ぎるよこの子っ!!クロノからの突き刺さる様な殺人的視線はこの際気にしない。気にしたら負けだ。

ちなみに、食糧に掛かる費用の支払いは教団費から出す予定だ。導師権限で豚に文句は言わせない。銘木は、今回アリエッタが私の導師守護役としてよく働いてくれた特別手当て……にでもしておこう。

此れからも、娘を頼む。そう言うクイーンに、サクは勿論だと、笑顔で応えた。



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