消えない傷(5/11)

私ことローレライ教団の第二導師サクは、現在いつぞやかにもお邪魔したマルクト帝国皇帝陛下の私室に招かれております。

オマケに…



「なかなか似合ってんじゃねーか」

『あ、アリガトウゴザイマス』

「ハハハ、そう固くなるなって」



着替えを終えた私の格好を見るなり、ピオニーは満足気な笑みを浮かべた。

ジェイドにピオニーと共に捕まった後、ピオニーは私に着替えが無いと知るや否や、城に連行されるなりコレに着替えるよう強制……ゴホンッ。そう、着替えを頂いたんだよね。

ピオニーに服を作って誰かにプレゼントをする趣味があるのは知っていたけど、まさか私まで服を貰えるとは思わなかった。しかもこの服、結構可愛いし私好みのデザインなんだよね。似合ってるかは兎も角。

ピオニー陛下の御好意は素直に嬉しかったんだけど、流石に今は傷口が開いてしまう可能性もあって、血で汚れると勿体無いから…と断ろうとしたのだが、そしたら「他にも何着か用意してあるから安心しろ!」と、超絶楽し気な笑顔で言われてしまった。いや、だからと言って汚してしまったら申し訳ない事に変わりはないのだが。

本当は、後でこっそりフォミクリーで破れた部分を直そうと思ってたんだけどなぁ……こうなると、今は無理かな。…あ、後で服を買いに行ってくれたナタリアには謝っておかないと。



「お前が負傷したって聞いた時は驚いたが、元気そうで何よりだ」

『その件につきましては、ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした』



…本当に心配してくれてたんだ、陛下。まぁ、外交問題に発展しかねない危険性もあったしね。頭を下げながら、サクはそんな事を思った。

品の良いソファーにどっかりと腰を降ろしたピオニーは、隣に居座るブウサギの頭を撫でている。その対面のソファーに座るサクもまた、彼と同じくして足許にすり寄って来た可愛い方のジェイドを撫でてやっていた。



「貴女の事は、陛下から色々とお聞きしましたよ。導師サク」



ピオニーの傍に立つジェイドが、一瞬嫌そうに私の足許にすり寄るブウサギを一瞥した後、メガネ越しに私の方を見据えてきた。



「タルタロスに乗船していた私の部下達が全員生きていて、アクゼリュスの住民の避難活動を行っていた事。そして、それらの全てが貴女の指示と手引きによる物だという事も……ね」



ジェイドの言葉に、サクは静かに口角を上げた。

あの時タルタロスに乗船していたマルクト兵達は、六神将襲撃の際に全員(但しジェイドを除く)疑似超振動で脱出させた。彼等を飛ばした先で第六師団と合流させ、アクゼリュスの住民達の避難に当たって貰ったのだ。

いくらダアトが中立な立場にあるとはいえ、第六師団だけでは、マルクト領内では自由が利かない事もある。しかし、マルコさん率いるマルクト兵の方達にも協力して貰った事で、その問題も解消。

結果、キムラスカの親善大使一向がアクゼリュスへたどり着く前に、住民達の避難を9割以上終える事に成功したのだ。



『それでも、アクゼリュスの住民全員を助けるには至りませんでした……これは私の力不足です』

「いえ、貴女のお陰で犠牲者は最小限に押さえられました。それに、私の部下達もです」



ジェイドの部下達は、皇帝陛下から直々に新たな任務の命を受けた事になる。従って、和平の使者使節団の任務を疎かにした訳ではないので、無論彼等にお咎めは無い。

実の所、ピオニー陛下との話合いでは、タルタロスのマルクト兵達は和平締結後にアクゼリュスへ向かって貰う予定だった。しかし、六神将達によるタルタロス襲撃に合わせて、彼等へ指示を出すのを予定よりもかなり前倒しに出したのだ。

とはいえ、私は最初からあのタイミングで飛ばすつもりでいたんだけどね。六神将が来る事は知ってたし。



「有り難う御座います」

『……へ?』



ジェイドに頭を下げられて、一瞬虚を突かれた。うええええ!!?あ、あのジェイドさんに頭を下げられた!?何気にピオニー陛下に頭を下げられた時以上の驚きである。



「ハハッ、なんつー顔してんだよ」

『いえ、ジェイドにはてっきり怒られるとばかり思っていたので、ちょっと意外で…』

「確かに、私にも事前に説明位はして頂きたかったですがね」

『う……』



ジェイドの眼鏡が薄ら笑いに合わせて妖しく光る。不気味過ぎて、思わずたじろいでしまった。

マルコさん達やジェイドからの報告が無かったら、私は今頃牢屋行きだったかもしれないな……とは思う。なんせ、アクゼリュスが崩落しちゃったからね。早期から住民避難を訴え掛けてた私が怪しまれるのは当然の流れだ。



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