過去の罪(3/6)

音機関都市と呼ばれるベルケンドには多くの音機関研究施設があったが、アッシュは迷う事無く第一音機関研究所の扉を潜った。確か、ファブレ公爵に取り入ってここの全権が髭に任されてるんだっけ。ここでレプリカ研究が進められているとも知らずに。

アッシュが引き連れている為か、彼以外の人間は部外者であるにも関わらず、特に咎められる事も無く、一行は研究者達の間を通り抜けていく。アッシュが奥まった部屋のドアを開けると、そこに一人の老人だいた。



「……!お前さんはルーク!?」



机に向かって書類に目を落としていた老人は、メガネ越しに赤い髪の青年を認めて驚いている。どうやら、コイツがスピノザらしい。



「いや……アッシュ……か?」

「はっ、キムラスカの裏切り者が、まだぬけぬけとこの街にいるとはな。……笑わせる」

「裏切り者って、どういうことですの?」



皮肉っぽく唇を歪めて言ったアッシュの言葉に、ナタリアが訝しげに眉を寄せる。



「こいつは……俺の誘拐に一枚噛んでいやがったのさ」



その時、ジェイドがハッと顔を上げた。



「まさかフォミクリーの禁忌に手を出したのは……!」

「……ジェイド。あんたの想像通りだ」

「ジェイド!死霊使いジェイド!」



ジェイドは驚くスピノザをじっと見た。



「フォミクリーを生物に転用することは禁じられた筈ですよ」

「フォミクリーの研究者なら、一度は試したいと思うはずじゃ!あんただってそうじゃろう、ジェイド・カーティス!いや、ジェイド・バルフォア博士。あんたはフォミクリーの生みの親じゃ!何十体ものレプリカを作ったじゃろう!」

「……!」



ガイとナタリアが息を飲む。アニスは瞳を見開き、衝撃を受けたイオンは固まってしまっていた。そんな中、当のジェイドは努めて冷静に否定はしませんよ、と答えた。



「フォミクリーの原理を考案したのは私ですし」

「なら、あんたにわしを責めることは出来まい!」

「すみませんねぇ。自分が同じ罪を犯したからといって、相手を庇ってやるような傷の舐め合いは趣味ではないんですよ」



ジェイドは軽く眼鏡の位置を直して、続けた。



「私は自分の罪を自覚していますよ。だから禁忌としたのです。生物レプリカは、技術的にも道義的にも問題があった。あなたも研究者ならご存知のはずだ。最初の生物レプリカがどんな末路を迎えたか」



スピノザは言葉に詰まったが、唇をわななかせながら言った。



「わ、わしはただ……ヴァン様の仰った保管計画に協力しただけじゃ!レプリカ情報を保存するだけなら……」

「保管計画?どういうことだ」

「お前さん、知らなかったのか!」



思いがけないアッシュの反応に、スピノザはハッと口をつぐんだ。



「いいから説明しろっ!」

「……言えぬ。知っているものと、つい口を滑らせてしまったが、これだけは言えぬ」

『本当に、レプリカ情報を保存するだけの計画だと思ってるんですか?』

「「「!!」」」



今まで静かに傍観していたサクがアッシュの前に出ると、スピノザに対してにたり、と怪し気に笑う。その視線に含まれた僅かな殺気に、スピノザの肩がビクリと震えたのを見て、サクの口角がさらに上がる。



『何故、保存するのですか?保存するという事は、後から使う為ですよね?使うという事は、当然後から作るって事ですよね?レプリカを』

「な、何と言われようが無駄だ!ヴァン様には深いお考えが…」

『その深いお考えの真意が、とんでもなく恐ろしい計画だとしても……貴方は同じ言葉を吐けますか?』

「ひっ……」



サクの目が全く笑っていない事に気付いたのか、先程アッシュの前で失言してしまった時以上に顔を真っ青にさせて、スピノザは逃走した。私の軽い脅しに対して何だか震え上がってた様に見えなくも無かったけど……ま、深くは気にしないでおこう。



「サク、君も何か知っているのかい?」

『ううん。ハッタリをかましてみただけ』

「「「…………」」」



ガイの質問にテキトーにサラッとそう言えば、皆からなんとも言えない顔をされた。何故だ。

ただ、ジェイドだけが私の方を見て訝しんでいたけれど。



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