過去の罪(4/6)


「あなたがフォミクリーの発案者だったのですね……」



研究所の通路を歩きながら、イオンがジェイドに言った。



「はい。フォミクリーが持つ数々の問題点。それを無視してでも行いたいことが、かつてはありました。……若かったのでしょうね。私も」

「ジェイド……」

「大丈夫ですか、イオン様? 顔色が悪いですよ?」

「いえ……大丈夫、大丈夫です……。ただ、ちょっと、びっくりして……」



アニスがイオンの異変に気付いたが、イオンはぎこちなく微笑むだけだった。正直、大丈夫とは言い難かったが……サクには何も言えなかった。



「……つまり、あんたがフォミクリーを生み出したから、ルークが生まれたってわけか……」



物憂げにガイが呟く。その瞳に込められた感情は、怒りや憎しみといった類の負の感情だった。



「だったら、大佐はルークのお父さんってことになるのかなぁ?」

「父親、ですか……。私の息子なら、もっと利発で愛くるしいと思いますがねぇ」

「あ、ひど〜い」



いつもの調子でそう茶化すジェイドに、アニスも軽い調子で愉快そうに笑う。が、サクにはあまり笑えなかった。同調フォンスロットを通じて彼にも聞こえているのであろう、この決して笑えない冗談を。



『利発で愛くるしい幼少ジェイドが想像出来ない…』

「何か言いましたか?」

『イエナニモ』



あ、でも可愛い方のジェイドなら分かるかも…なんてくだらない事を考えてみたり。ジェイドが恐いから言わないけど。



「そもそもアッシュにフォミクリーをかけたのは、私ではなくヴァンですから。ルークの父親はヴァンになると思いますよ」

『え"、て事はディストが母親…?……物凄く非行に走りたい衝動に駆られますね』

「「「………」」」



本日二度目。何だか空気が凍った気がしないでもない。この中で唯一ディストを知らないナタリアだけは、やはり首を傾げていたけれど。

第一音機関研究所を出た所で、一行は今後について話し合う事になった。



「ヴァンは、レプリカ情報を集めてどうするつもりなのでしょう」

「そりゃレプリカを作るんだとは思うけど……」

「……ワイヨン鏡窟に行く」



アッシュのこの一言に、一同の視線が集中する。



「西のラーデシア大陸にあるという洞窟ですか?でもどうして……」

「レプリカについて調べるつもりなのでしょう。あそこではフォニミンが採れるようですし。それに……」

「それに?」

「……まぁ、色々と。ラーデシア大陸ならキムラスカ領。マルクトは手を出せない。ディストは元々マルクトの研究者ですから、フォミクリー技術を盗んで逃げ込むにもいい場所ですね」



さっき研究員AとB達がそんな会話をしていたのを小耳に挟んだしね。レプリカを作るのにフォニミンが足り無いけどワイヨン鏡窟へ採掘に行くのは面倒だとか。妥当な判断だろう。

ナタリアの疑問の声に、ジェイドは言葉を濁しはぐらかした様だった。



「……お喋りはそれ位にしろ。行くぞ」



苛立ちの混じったアッシュの口調に、アニスがムッと頬を膨らませる。



「……ぶー。行った方がいいんですか、イオン様」

「そうですね。今は、大人しく彼の言うことに従いましょう」

「俺は降りるぜ」



ガイの突然の言葉に、ジェイドとサク以外は驚きの表情を浮かべる。勿論、アッシュも。



「……どうしてだ、ガイ」

「ルークが心配なんだ。あいつを迎えに行ってやらないとな」

「呆れた!あんな馬鹿ほっとけばいいのに」

「馬鹿だから俺がいないと心配なんだよ」



アッシュが咄嗟に反応出来ずにいる一方で、アニスが抗議する。



「それにあいつなら……立ち直れると、俺は信じてる」

「………」

「ガイ!あなたはルークの従者で親友ではありませんか。本物のルークはここにいますのよ」

「本物のルークはこいつだろうさ。だけど……俺の親友はあの馬鹿の方なんだよ」



アッシュの隣に立ったナタリアが腰に手を当てて言う中、サクは瞳を伏せた。本物のルーク、ね……ナタリアの混乱する気持ちは分からなくも無いけど、もうちょっと言葉を選んで欲しかったな。



「迎えに行くのはご自由ですが、どうやってユリアシティへ戻るつもりですか?」

「……ダアトの北西にアラミス湧水洞って場所がある。もしもレプリカがこの外殻大地へ戻って来るなら、そこを通る筈だ」



ジェイドに訊ねられ、ガイは少し困惑した様子で言葉を詰まらせた。そんなガイに助け船を出したのは、意外にもアッシュで。ガイは驚きに瞳を丸くした後…思わず苦笑を溢した。




「悪いな、アッシュ」

「……フン。お前があいつを選ぶのは分かってたさ」

「ヴァン謡将から聞きました、ってか?まあ――それだけって訳でもないんだけどな」

「どういうことですの」

「何でもないよ。それじゃ」



そう言い残し、ガイは足早に走り去って行った。ガイを引き止めれなかったナタリアが、堪らずアッシュに駆け寄る。



「ルーク!止めないのですか!」

「その名前で呼ぶな。それはもう俺の名前じゃねぇんだ」

『あ、悪いけど私も此処で降りるね』



空気を読まないサクの発言に、皆が一斉に此方に振り返った。シリアスな雰囲気が台無しですね。



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