タルタロス襲撃(6/11)

嗚呼、これは不味い。非常に不味いぞ導師サク。渇いた笑みを貼り付け、額には冷や汗を浮かべつつ、にじりよじりと後退すれば、遂にはピタリと背に壁がついてしまった。残念ながらもうこれ以上は下がれないという状況でも、相手は構わず此方にズカズカと詰め寄ってくる。しかも、恐ろしい鬼の様な形相で。いや、仮面があって実際どんな顔をしてるかは不明なんだけども。何ていうか雰囲気が……ね。



「何で僕に黙って失踪したの?」

『シンク……怒ってる?』

「当たり前」



私の目の前迄近付いて来た所で、シンクは漸く足を止めた……かと思えばいきなりそう質問された。いつにも増してシンクの機嫌が悪い様子。仮面をしてて見えないけど、眉間にはアッシュ並に皺が刻まれてそうだ。



『ごめんねシンク。心配掛けて』

「………」



返事がない。どうやら今回はかなりご立腹のようだ。

この様子だと……シンクにイオンの事は聞けそうにないな。出来れば私が代わりにセフィロトの解呪に行きたかったんだけど……私もこれ以上火に油は注ぎたくはない。



「……今他の事考えてたでしょ」

『へ?え!?あ――…取り敢えず、座ろうか』



咄嗟にそれだけでアウトですか!?と思わずツッコミそうになってしまった。あ、危ない……危うく肯定する所だった。肯定してたらイオンの事を考えてたの?って聞いて来たに違いない。絶対零度の目で。

苦し紛れにシンクに椅子に座ろうと促したものの、全く話をはぐらかせていない感が諫めない。ピリピリした空気の中、腕を組んで椅子に座ったシンクを前に、サクは腹をくくって話を始めた。



『……預言にね、近々マルクトとキムラスカとの間で戦争が起きるって、記されてるの』

「…それで?」

『私はその預言を回避したい。だから、和平締結に今回協力しようと思ったんだ』

「それが、サクが教団から姿を消した理由?」

『うん』



預言を尊重すべき教団の導師が揃って預言回避に動く(イオンは惑星預言を知らないけど)なんて、前代未聞だ。

大詠士モースにその事を相談しようものなら、全力で否定されて教団内に監禁されかねない。そうでなくても日頃から軟禁状態だし。



『ライガママの事もあって、急いでて……ちゃんとシンクに話が出来なくてごめん』

「………」



相変わらず、シンクは答えない。……やっぱり、ちゃんと説明してから行くべきだったよね。連絡無しの私の長期間の失踪は、シンクをかなり不安にさせてしまったらしい。

さっきまでは怒ったシンクが恐かったけど、時間が経つにつれて段々申し訳ない気持ちになってきた。目の前のシンクは、今も変わらず怒ってはいるけども。



『(でも……シンクに今から此方に協力して、とは言えないよね…)』



今のシンクは、私の導師守護役としてではなく、六神将の一人……また、彼等を束ねる参謀長官として任務についている。モースからは導師奪還、並びに、イオンにセフィロトの解呪をさせるようヴァンから命じられている筈だ。

モースから任務を言い渡される前なら兎も角、今さら私の我が儘に付き合わせるのは、シンクも酷だろう。

さらに、下手をすると先手を打ったアクゼリュス救援の件等の情報がヴァンに漏れてしまう危険性もある。シンクを信じていない訳じゃないけど、もしもの可能性はどうしても残ってしまう。出来ればまだ、ヴァンには勘付かれたくない。



「……サクの気持ちは分かった。けど、その和平締結に僕は協力出来ないよ」

『シンクは参謀長官もやってるしね……仕方ないよ』

「……僕に協力しろとは言わないんだね」

『可能ならお願いしてるよ。けど、シンクに無理はさせたくないから…』

「………」



シンクは椅子から立ち上がると、無言で扉の前まで行ってしまった。そしてそのままドアノブに手を掛け、外へ出て行こうとする……って、え?ちょっと待って!!



『シン…』

「もう、何処にも行かないでよね」



私の言葉を遮り、それだけ言うと、シンクは部屋から出て行ってしまった。次いで、部屋に鍵が掛けられた音が聞こえた。

何処にも行かないで……って、え、どうしょう。私、イオン達と脱走する気満々なのに。



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