タルタロス襲撃(5/11) 「お前は……導師サクか」 『そうだよ。久し振りだね』 導師守護役の時には何度か会ってるけど、此方の姿で会うのは本当に久し振りだ。アッシュは私の姿を見るなり怪訝な顔つきになるも、自身が感じた違和感の正体に気付く事はなかった。 幸いな事に、アッシュは私に違和感こそ抱くものの、導師サク=例の導師守護役とは気付かれていない。……いや、下手をすると導師守護役姿の私は導師サクのレプリカって勘違いされてる可能性はあるけど。何にしろ、勘違いされたままの方が此方にとっても都合が良いから気にしない。 「何故お前がこんな所にいるんだ」 『その言葉、アッシュにそっくりそのまま返すよ。何で一人で甲板にいるの?任務のサボり?』 「違う!俺は見張りだっ!!」 ニヤニヤしながらアッシュの隣に行くと、彼は米額に青筋を立てていた。 と、思ったらいきなり剣先を突き付けられた。 『あの、私これでも導師なんだけど?』 「大人しくしていれば、危害は加えねぇよ」 『アッシュから逃げる気があるなら最初から近寄らないよ。全く……不敬で減俸処分にし…「うわぁ―――っ!!」 『「!」』 突然下の方から響き渡った引きつった様な情けない悲鳴。サクは声の主がルークである事を瞬時に悟り、下の甲板……艦橋の扉前へと視線を動かした。 甲板前に倒れている一人の神託の盾兵は、既に事切れている様子。その直ぐ傍に彼……ルークはいた。 血塗れの剣を持って、ガクガクと震えている。怯えた様に辺りを見回すその横顔は……真っ青だった。 ……初めて、人を殺したのだろう。 ふと、隣に視線を向けると、アッシュもルークの事を射抜くような視線で見下ろしていた。同時に、彼から滲み出る殺気。 初めて目の当たりにした自分のレプリカ。全てを奪った、己の出来損ないへの……ルークへの憎しみ。複雑な憎悪が絡まり、抑えきれていない様子だ。 「…人を殺す事が恐いなら、剣なんか棄てちまいな!」 騒ぎを聞き付けたティア達がルークに駆け寄る姿を見下ろしていたサクは、いきなり隣から聞こえてきた怒りと軽侮に満ちた声にハッとした。 ヤバい……アッシュがキレた。サクが気付いた時には、アッシュは既に譜術を発動させていた。 「この出来s…『ちょっ、アッシュ待……』 咄嗟に、慌ててアッシュを止めようとしたら、音叉に足を引っ掛けて思いっきりバランスを崩して思いっきりアッシュに体当たりをしてしまった。 「な―――っ!?」 『あ』 アイシクルレインを発動中な上、完全に頭に血が登っていて周りが見えていなかったアッシュは、突然ぶつかってきた私に対応出来ず、彼も身体のバランスを崩してしまい……二人仲良く甲板から足を踏み外してしまった。 「うわあっ!」 「きゃあっ!?」 『――…っ!!』 ティアとルークの悲鳴に続き、私の声にならない悲鳴が続く。チッ、とアッシュが舌打ちしながらも私を素早く抱き寄せると、彼は何とか無事に甲板へ着地した。 『……あ、危なかっ…「テメェ、大人しくしてろって言っただろーが!!」 『ムッ、人が止めてるのにアッシュが一人突っ走るからだよ!!』 「それが助けられた奴が言う言い種か!?」 『う……有り難う、アッシュ』 「な!?……チッ」 怒鳴って来たアッシュに食って掛かるも、確かにアッシュの言う事も一理ある為、思わず言葉を詰まらせてしまった。ので、素直にお礼を言ったら、何故か面食らった様な顔をしてそっぽ向かれた。しかも、舌打ち付きで。 ……ツンデレだ。 「流石は死霊使いジェイド殿、しぶとくていらっしゃる」 「………」 私から視線を外したかと思えば、どうやらアイシクルレインの直撃を免れたらしきジェイドとアッシュは向かい合っていた。その様子をアッシュの腕の中からチラリと盗み見ると、ジェイドはアッシュの顔を見て表情を曇らせたようだった。 ああ、そうか。ジェイドだけはこの時から既に……気付き始めていたんだ。 「隊長、こいつらは如何致しますか」 騒ぎで目を覚ました神託の盾兵が、ティアとルークに剣を突き付ける。そんな二人を忌々し気に見下すアッシュ。 この時、サクを支える彼の腕に僅かに力が込められたのを、サクは見逃さなかった。 「殺せ」 『!駄…「アッシュ。閣下の御命令を忘れたか?」 それとも我を通すつもりか?と、この場に現れたリグレットに問われ、アッシュはチッと再度舌打ちを溢した。 「……捕らえて何処かの船室にでも閉じ込めておけ!」 「導師サク。貴女には我々と御同行願おう。それと……アッシュ」 「何だ」 「いつまで導師サクを抱き締めているつもりだ」 「………!」 リグレットに指摘されて初めて気付いたのか、アッシュの顔が瞬時に真っ赤になった。うん。気付くのが遅いね。 *前 | 戻 | 次#
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