聖獣の森(8/12) 「それにしてもルーク!いきなり魔物の群れの中に考え無しに飛び込むなんて、自殺行為だわ」 「なっ…!考え無しに飛び込んでじゃねぇし!!」 私や大佐が挨拶を交わしていた一方で、ティアはルークに治癒術をかけながら厳しく注意をしていた。で、注意を受けてるルークは不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。……図星だったようだ。 「今回は偶然大佐が駆け付けて下さったから助かったものの……最悪、イオン様とサク様に危険が及ぶ所だったわよ!!」 「じゃあお前はあのチーグルを見過ごせって言うのかよ?冷血女!!」 「おやおや、痴話喧嘩ですか?」 楽し気なジェイドの声に、ルークは首が鞭打ちになってもおかしくない勢いで振り返った。 「誰がだ!」 「そうです、カーティス大佐。私達はそんな関係ではありません」 抗議の声を上げたルークに続き、真剣な表情でティアもそう言う。ルークはティアにキッパリ否定されてしまうと、それはそれで何となく面白くない様子。フフ腐ー、まだまだ初々しいルクティアですね。 冗談ですよ、と言ってこの場を楽しんでる様子のジェイド並に、彼らのやり取りを傍観して私も楽しんでます。 「ティア、どうかそれ位にしてあげて下さい。ルークはチーグルの仔どもを助けようとしたんです」 ルークをフォローする為のイオンの言葉に、ルークは明らかに動揺を見せた。 「ば……っ、か、勘違いすんなよ!あのチーグルが食われたら手掛かりが無くなっちまうと思ったから、ウルフを倒しただけで、べ、別にチーグルを助けた訳じゃねーぞ!」 「倒したのは大佐でしょう」 「う…うるせぇ!!」 ルークの言い訳がかなり矛盾してる上に、何もそこまで赤面しなくても……と思う位、微笑ましくもツンツンなルークとティアの夫婦漫才に、思わずニマニマ。はっ、いかん。気を付けないとジェイドに変な奴って認識されてしまう! 『……あ、そういえばチーグルは…』 ふと思い出して辺りを見回してはみたものの、やはりというか……助けた筈のチーグルは、既に居なくなっていた。ま、当然か。 「あのヤロォ……」 「結局振り出しに戻ったわね…」 「いえ、そうでもありませんよ」 表情を引きつらせるルークと、嘆息したティアの傍で、イオンが何かを拾って此方に見せる。…林檎だ。しかも、エンゲーブの焼き印が付いていた。 「やっぱりあいつらが犯人か!」 掌に拳を打ち付け、動かぬ証拠を見付けたと言わんばかりにルークは息巻く。 「アイツらとは…?」 「チーグルだよ!やっぱりアイツらが食料泥棒の犯人だったんだ!」 「成る程。お二人はその証拠を探していたという訳ですか」 そう言った後、ジェイドはイオンへと振り返る。イオンは彼の前に進み出ると、少し首を項垂れた。 「すみません、勝手な事をして……」 「貴方らしくありませんね。悪い事と知っていて、この様な振る舞いをなさるのは」 「チーグルは、始祖ユリアと共にローレライ教団の礎です。彼らの不始末には僕が責任を負わなくてはと……」 「その為に能力(ちから)を使いましたね?医者から止められていたでしょう?」 「……すみません」 「しかも民間人を巻き込んだ」 ため息をつくジェイドを前に、イオンはますます項垂れる。と、二人の一連のやり取りを見ていたルークが、痺れを切らして「おい!」とジェイドに怒鳴った。 「謝ってんだろ、そいつ。何時までもネチネチ言ってねぇで、許してやれよ、おっさん」 「おや。巻き込まれた事を愚痴ると思っていたのですが、意外ですね」 そう思っていたのがジェイドばかりでなかったらしいのは、ティアの目を見れば分かった。ちなみにサクはというと……微笑まし気にルークを見守っていたり。 『……あ』 「サク?どうかしましたか?」 『ほら、あそこ…』 ふと、ルークから視線を右側にずらしたその先で、黄色いチーグルが巨大な樹の根元……そこに開いた洞の奥に入って行くのが見えた。サクの呟きに疑問の声を上げたイオンを含む一同も、そちらに視線を向け、チーグルが洞の奥に入って行く後ろ姿を確認していた。 「どうやらあそこが巣の様ですね。チーグルは木の幹を住み処にしていますから」 大樹の前まで移動し、イオンが洞の中を覗き込む。中は奥行きもあり、結構広そうだ。 「ジェイド、少しだけチーグルの住み処へ寄って貰えませんか?」 「…分かりました。なるべく手短にお願いしますよ」 「はい!」 『ここがチーグルの巣かぁ……って、』 「!導師イオン!?危険です!!」 とか何とか言っている間に、イオンは躊躇いも無く大樹の穴に入っていってしまった。その後を、ティアが慌てて追う。……ティアも大変だね。イオンを止めない私も私なんだけど。 「やれやれ。仕方ありませんねぇ」 「本当だぜ。ったく、しょうがねぇガキだな……」 ジェイドは兎も角、ルークも大概ガキだと思うよ、とは思ったけど口にはしなかった。 *前 | 戻 | 次#
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