聖獣の森(9/12)

チーグルの巣の中は、暖かくて意外に明るかった。あちこちには様々な色のチーグルがいる。体と頭が同じ大きさで、袋状の大きな耳がついてるから異様に頭が大きく見える。



「あの、通して下さい……」

「みゅーみゅーみゅみゃみゅ!」

「みゅみゅみゅ!」

「みゅーみゅーみゅー!」



そんなチーグルが何十匹も集まって、イオンの行く手を遮っていた。チーグルも可愛いけど、困った様子のイオンも可愛いよね。



「あの――」

「魔物に言葉なんか通じるのかよ」

「チーグルは教団の始祖であるユリア・ジュエと契約し、力を貸したと聞いていますが……」

「通じてねーみたいだけどな」



ルークの言葉通り、どう見ても言葉が通じている様子はない。むしろ、侵入者と見なされ、警戒されてしまっている。



「……みゅみゅーみゅうみゅう」



薄暗い奥から、どこか老成したような声が聞こえた。同時に、他のチーグル達はピタリと鳴き止み、群れは左右に別れてルーク達に道を開けた。

暗がりの奥から、いかにも長老!といった感じの一匹のチーグルが現れた。手に持っている金環は……ソーサラーリングだろう。



「……ユリア・ジュエの縁者か?」

「お、おい、魔物が喋ったぞ!」



ビクッ、とあからさまに肩を震わせたルーク。ティアも目を丸くしてルークに頷いている。

これにはジェイドも少なからず驚いたらしく、珍しい物を見るように眼鏡の位置を直していた。この中で驚いていないのは、イオンと私くらいだろう。



「これは、ユリアとの契約で与えられたリングの力だ。お前達はユリアの縁者か?」

「はい。僕はローレライ教団の導師イオンと申します。あなたはチーグル族の長と、お見受けしましたが」

「いかにも」

「おい、魔物。お前ら、エンゲーブで食べ物を盗んだだろ」



単刀直入。ルークはまどろっこしい挨拶は抜きにして、老チーグルにずばり訊いた。



「…成る程。それで我らを退治に来たという訳か」

「へっ、盗んだ事は否定しないのか」



老チーグルは、答えなかった。



「チーグルは草食でしたね。何故人間の食べ物を盗む必要があるのです?」

「……チーグル族を存続させる為だ」



イオンの質問に、老チーグルは重々しく答えた。曰く、チーグル族の仲間が北の地で火事を起こしてしまったらしい。その結果、北の一帯を住み処としていたライガがこの森に移動してきたのだそうな。チーグル達を、餌とする為に。



「では、村の食料を奪ったのは、仲間がライガに食べられない為なんですね」

「……そうだ。定期的に食料を届けぬと、我らの仲間を拐って喰らう」



イオンの言葉に、老チーグルは頷いた。イオンは酷い…と呟いていたが、サクはあまりそうは思わなかった。むしろ、少々イラッときていたりする。

チーグル族の言い分はまるでライガが悪者のような印象を受ける。実際、彼らからしてみればライガは天敵以外の何物ではないのだろうけれど……アリエッタと仲良くなり、必然的にライガとも触れ合う機会が多いサクからしてみれば、あまり気分の良い会話ではない。

数日前に、アリエッタがママ達の家を燃やされたと悲しそうに言っていた姿が思い出される。そもそも、ライガ達の住み処を燃やしたのはチーグルだというのに。

一方で、チーグルとイオンの話を聞いていたルークは、ふんっと鼻を鳴らした。



「知った事か。弱いモンが食われるのは当たり前だろ。しかも縄張り燃やされりゃ頭にも来るだろーよ」

『うん、私もルークと同意見だね。この場合、ライガは加害者である前に、被害者でもあるんだから』

「だろ?」



サクの気持ちを代弁したかのようなルークの言葉に、少しだけ気持ちが晴れる。思わずルークに同意しちゃったけど……まぁ、これ位は言っても良いよね?事実だし。



「確かにお二人の言う通りかも知れませんが、本来の食物連鎖の形とは言えません」



そう言って、イオンは首を横に振る。確かに、そうなんだよね……とはサクも思う。

こうして、食料泥棒の事件の真相が解明された訳だが。ここで「ルーク」とティアが彼に声を掛けた。



「犯人はチーグルと判明したけど、あなたはこの後どうしたいの?」

「どうって……こいつらを村に突き出して……」

「でもそうしたら今度は、餌を求めてライガがエンゲーブを襲うでしょうね」

「あんな村、どうなろうと知った事か」

「そうはいきません。エンゲーブの食料はこのマルクト帝国だけでなく世界中に出荷されています」



エンゲーブで泥棒扱いされたルークからしてみれば、そうなったらいい気味だと思う程度らしい。が、イオンにそれでは駄目だと言われ、非常に面倒そうな顔になる。

ちなみに、ジェイドはこの件に口を挟む気はないようで、あくまで成り行きを見守るつもりらしい。



「じゃあどうするんだよ」

『……いや、どうもしなくて大丈夫だよ。多分、この数日中には解決すると思うし』

「はぁ?どうしてだよ」



サクの言葉に、ルークが疑問の声を上げた。



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