聖獣の森(7/12) 「ジェイド!?」 バッと私達が一斉に後ろに現れた人物へと振り返った中で、イオンがその人物を見上げて驚きの声を上げた。 青い軍服に眼鏡の奥で光る血のように赤い瞳。そして、この緊迫した状況には不似合いな食えない微笑み。……間違いない。ジェイドだ。 ていうか……え?何でこのタイミングで貴方が現れるんですかジェイドさん。 「カーティス大佐!?どうしてここに!?」 「詮索は後にして下さい。このままでは彼が危険です」 驚いたティアにそう言うが早いか、ジェイドは直ぐ様詠唱を開始した。その間、ルークはライガの群れを相手に一人奮闘中……あ、ルークが魔物に力負けして地面に倒れた。好機と言わんばかりに魔物達が一斉にルークへと飛び掛かろうとする……が、 「荒れ狂う流れよ――…スプラッシュ!」 寸での所でウルフ達の頭上に巨大な青い光の弾が出現し、凄まじい勢いの水流がその背に襲い掛かった。ルークもウルフもろとも譜術に呑み込まれたが……そこは大佐。譜術の指向性を駆使し、味方識別もなしにルークは奇跡的にも無傷で生還。 「おや、あっけなかったですね」 倒れ伏したウルフの群れと驚きの表情のまま固まっているルークを見据えて、ジェイドは眼鏡の位置を直した。最初から狙っていたのか、ルークを上手く囮にし、更に群れを一掃出来る絶妙なタイミングで譜術を放つとは……流石鬼畜!え?ちょっと違う? 「すっげぇ……今のもサクがやったのか?」 『今のは私じゃなくて、この人の譜術だよ』 ジェイドを示せば、無事でしたか?と、彼は何とも薄い笑みをルークに向ける。 中級譜術だったにも関わらず、桁違いな威力の譜術に、ただの譜術士ではないわね……というのがティアの見解らしい。 「アニース!ちょっとよろしいですか」 「はい、大佐vお呼びですかぁ」 ジェイドは薄い笑みを浮かべて両手をズボンのポケットにしまうと、後ろから来ていたらしいアニスへと声を掛けた。アニスと呼ばれた少女…というかアニスはジェイドに駆け寄り、何やら耳打ちされている。 「えと……わかりました。その代わり、イオン様をちゃんと見張ってて………って、はうあっ!!?な、何でサク様まで此処に!?」 イオンの方へと視線を向けるなり、この場に私もいる事にアニスは漸く気付いたらしい。アニスの表情が一瞬で驚きのモノに変わる。 「しかもサク様付きの導師守護役が見当たらないんですけど……シンクやアリエッタはどうされたんですか!?」 『二人は多分任務中。私は非公式(プライベート)中だよ』 「駄目じゃないですかぁあああ!!!」 アニスが頭を抱えて、かなり悩まし気に唸る。グワングワン頭を回してる為、トレードマークのツインテールが揺れる揺れる…… 『何て言うか……成り行きで、ちょっと頼まれ事をされてね。詳しい事は後で話すから。ね?』 「うう、……わかりましたぁ。…大佐、イオン様だけじゃなくてサク様の事もよろしくお願いしますよ!!」 ジェイドから急ぎで頼まれたのだろう。アニスはジェイドにビシッと追加事項を伝えるなり、猛ダッシュで元来た道を引き返して行った。わぁー、若いだけあって足が早いね。 「ふむ。サク様、という事は、貴女は……」 『はい。御察しの通り、ローレライ教団第二導師、サクです』 改めて此方に向き直ったジェイドに、サクはニコリと営業スマイルを向ける。 嗚呼、生ジェイドさん……美形過ぎる。とても35歳には見えません。 「やはりそうでしたか。…申し遅れました。私はマルクト帝国軍第三師団所属、ジェイド・カーティス大佐です」 『カーティス大佐。先程は危ない所を助けて頂き、有り難う御座いました』 「いえ、お二人に怪我が無くて良かったです。それから、私の事はジェイドとお呼び下さい。ファミリーネームの方には、あまり馴染みがないものですから」 一瞬、可愛くない方のジェイド……って呼んでみたくなったけど、何とか思い止まった。ピオニーから是非そう呼んでやってくれとは言われていたけど、私もまだ命が惜しいからね。 *前 | 戻 | 次#
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