聖獣の森(6/12) 辺りを散策していて、ティアとサクがほぼ同時に気付いた。チーグル族じゃない、強い殺気を伴った魔物の気配に。 それも複数だ。 「イオン様、此方に…」 「?どうかされましたか?」 『近くに魔物の気配がするみたいなんだよね……ひょっとしたらまた囲まれたかも』 「なっ、またかよ!?」 先陣を切って歩いていたルークとイオンが慌てて此方に駆け寄って来る。 魔物の正体は、恐らくウルフだ。さっきから気になってはいたんだけど、まだそう山奥に入ってはいないのに、妙にウルフの数が多い……この間アリエッタ達と来た時は、まだこの辺にはこんなにいなかった筈だ。 考えられるのは、ライガクイーン達の移住により、ウルフ達が縄張りを追われたからか……既に生態系に悪影響が出始めているという事か。 このままだと、ウルフにチーグル族が食べ尽くされるかもね。ま、もとはといえばチーグルが原因だから、自業自得とも言えるんだけど。 そして、チーグルを食べ尽くしたウルフ達はその後更に人里に向かって大挙し、果てにはエンゲーブが餌食になるだろう。 ……駄目じゃん。加害者がライガからウルフにかわっただけだし。 「…!三人共、あそこを見て下さい!!」 「みゅ……」 「グルルルル…」 イオンが示した先……しかも割りと近くにて、なんと淡い青色のチーグルの仔どもがウルフの群れに追い込まれていた。いくら弱肉強食の世界とはいえ、流石にこんな食事の場面を直視するのはちょっと…… 「危ねぇ!!」 「「『!!』」」 意外にも、私達の中で一番に動いたのはルークだった。一番近くにいた一匹のウルフに向かって斬りかかり、ウルフ達の注意をチーグルから此方に惹き付けた。その隙に、チーグルの仔どもがサッと草影に身を隠した。 食事の邪魔をされた挙げ句、獲物に逃げられてしまったウルフ達は、当然怒り心頭。一斉に標的をルークへと変更した。うん、これは不味い。 「ルーク!」 慌ててティアが詠唱に入るも、間に合うか微妙だ。ルーク自身、実戦はまだまだ不馴れだろうし、この数を一度に捌き切れるとも思えない。 そして、ティア自身も直ぐ傍に私とイオンがいる為に、下手にこの場から離れる事が出来ないでいる。…此れは本当に不味いなと察し、サクが音叉を構えた時だった。 「なんとかして差し上げましょう」 緊迫した場には不似合いな、余裕のある素敵子安ボイスが後ろから聴こえて来た。 *前 | 戻 | 次#
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