アシェル

かつて、仲間達と約束を交わした"ルーク"は、その約束を果たせないまま消えてしまった。正確には消えていないのだが、今の自分は以前の自分とも違う。

ルークでもなく、アッシュでもない。そんな曖昧な感じ。

アッシュの記憶にある大爆発に関する情報と、ジェイドの言っていた言葉から考察するに……どうやら、大爆発により消えるのは本来"ルーク"の方であったのだろうと、推察される。

けれど、自身の感覚で表現するなら、今の自身はアッシュの記憶を持ったルークである。アッシュの記憶は、まるで前世の自分のような感覚で、確かに自身が体験してきた筈なのに、何故か別々の感覚なのだ。

こうして、この奇妙な人格が形成された訳なのだが……。

今やアッシュでもある自分がルークと名乗って良いのか、またルークではあるが最早今までのルークでも無くなった自分がまたルークと名乗って良いのか、悩んでいた。

むしろ、アッシュが自身をルーク・フォン・ファブレだと、レプリカだったルークとはまた違う、互いに一人のルークであると最期に認めていた以上、本来ならルークと名乗る巾なのだろう。

けれど、迷いがあるし抵抗もあるのも事実。まだ、己の無意識下では今の自分という存在を受け入れられていないのかもしれない。

悩みに行き詰まり、答えを返しかねていたまさにその時、本当にアッサリと別の打開案を打ち出してきたのが、彼女だった。



『アシェルだよ』



アッシュとルーク、両者から捩った名だと。迷っているのなら今だけでもこう名乗っておいたら?と。

気に入らなければルークでもアッシュでも貴方の好きなように、納得のいく名を乗り直せば良い。これは貴方の事だから最終的な判断は、貴方自身に任せるけど、とサクは俺に言った。

その瞬間、やっぱりサクには敵わないな、と思った。

けれど、同時に嬉しくもあった。それは初めて貰った、俺を示す俺だけの名前だったから。

今まではもともとアッシュの本名だったルークという名を、名乗ってきた。ルーク・フォン・ファブレのレプリカだった故に。

アッシュの記憶があるとはいえ、やはりベースがルークである己にとっては、特別な思いだった。

彼女…サクの事は、"俺"自身…ひいては"ルーク"や"アッシュ"も直接的には知らない。けれど、何故か記憶にはある。別世界のオールドラントで彼女と旅した"ルーク"や"アッシュ"の記憶だ。ローレライは俺の身体や記憶を再構築する際に記憶粒子が混入した為だろう、と言っていた。理由や原因は不明だが。

だから、サクの事は知らないけれど知っている。彼女の世界のルークやアッシュの様に、自身も彼女を特別な…大切な存在だと思っている。

そして、与えられた俺の名前を笑顔で呼んでくれるロイド達。事情は知らない彼等は、純粋に俺が"アシェル"という名前なのだとしか思っていない。当然、後ろめたさも多少はある。けどそれ以上に、事情を知らないとはいえ、偽りも気遣いも何もない純粋無垢な素の彼等の自身への対応が、純粋に嬉しかった。



「よろしくな、アシェル!」



今まで旅をしてきた仲間達とはまた違うあたたかさに、俺は涙が零れ落ちそうだった。

こんな風に、自身を無条件で受け入れてくれたのは………彼等が初めてだったから。

だから俺は、彼等やサクを守る為にも、彼等の旅に同行しようと思う。俺を仲間として迎え入れてくれた、彼等の仲間として。

そうして元の世界へ帰る為の手掛かりも探そうと、サクとも決めた。

きっかけは下らない手違いだったが、この仲間達と出逢わせてくれたローレライには、感謝していたりもする。



「アイテムの補充も終えたし、次の目的地へ向けてそろそろ出発しましょう?」

「オッシャー!気合い入れて行くぞーっ」

「もう、コレットじゃなくてロイドが気合い入れてどうするのさ!」



リフィルやロイド、ジーニアス達の会話が、かつて自身が旅をしていた時の仲間達を彷彿とさせる。

ジェイド、ガイ、アニス、ナタリア、ミュウ、それに………ティア。

必ず約束は果たす。だから……



「アシェルー!サクーっ!早く行こうぜ!」

『本当、子供は元気だよねぇ……特にロイド。少しはコレットやジーニアスを見習いなさい』

「ちぇっ、別に良いじゃねーかよー!俺は元気なのが取り柄なんだからさ!」

『Σ自分で言っちゃったよこの子!!?』



俺が戻る迄、もう少しだけ……待ってて欲しい。



『はぁ……しょーがないなぁ。…行こうか、アシェル?』

「ああ」



向けられた笑顔に微笑み返して、俺も前へと進み始めた。


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