Synch in Wonderland

ヴァンからの命令で、地殻静止作戦の妨害の任務につくも、やはり失敗して。最終的に地殻に身を投げた僕だったけど……その後、森の中に落ちた。地殻に落ちて、そこから森の中に落ちるなんて変な表現だけど、巫山戯た事にこれが事実なのだから仕方がない。

更に気付いた時には、何故かこの獣耳と尻尾が生えていた。サクに指摘される迄は全く気づかなかったというのに、気付いてしまってからは慣れない猫耳や尻尾がウザい。自分の意思に反して感情の赴くままに勝手に動いてるみたいだし。慣れれば自分で自由に動かす事も出来そうだが……それにはまだ時間が掛かりそうだ。仮面を無くした手前、こんなものが付いてたらポーカーフェイスも出来やしない。全く持って厄介な。本当に邪魔でしかない。

森の中だというのに、不思議と魔物の気配は無い。そもそも此処は本当に地殻の底なのかすら怪しい。ていうか絶対に違うと思う。地殻に突入してオールドラントの反対側に辿り着いてしまったという説の方が納得してしまう程度には。

チラリ、と隣に視線をやれば、彼女は相変わらず非常に締まりのない表情で僕の事をジッと見詰めている。…僕に生えた獣耳と尻尾の存在に気付いてからずっと、だ。



『猫耳に尻尾を付けたシンクとか、可愛過ぎて仕方が無いんだけどどうしょう』

「誰が可愛くて仕方無いって?」

『え、もしかして声に出てた?』

「全部出てたからね」



ジトリと睨み付ければ、彼女は今度は渇いた笑みを浮かべた。男の僕に対して可愛い、なんて言われても嬉しくはない。他の奴なら双憧掌底破をくらわせている所だ。ていうか、僕じゃなくてサクにこの獣耳や尻尾が生えたら良かったのに、というのが個人的な意見だったりする。

それにしても、何故彼女の方はこんなにも落ち着いているのか。焦っても仕方が無いのも分かるが、彼女は楽観的過ぎる位だ。もう少し焦った方が良い。



『ほぉらシンク、猫じゃらしで…』

「誰が遊ぶかっ!!」



焦るどころか此処が何処なのか問題視すらしていなかったよ!何でこんなにも馬鹿みたいに危機感が皆無な訳!?衝動的に思わず彼女が持つ猫じゃらしを叩き落としてしまったが、この衝動は怒りに駆られた物だと思いたい。猫じゃらしに戯れたかったからではない。断じて。



「こんな知らない場所で、ましてや訳の分からない空間に落とされて、もし敵が現れでもしたらどうするのさ!?」

『いや、その時はシンクが守ってくれるでしょ?』

「…。それはまぁそうだけど…」



…取り敢えず、僕の事を頼りにされている事は分かった。とは言え、もしも敵が未知の魔物で強敵だった場合、僕じゃサクを守りきれない様な場合だったらどうするというんだ。……ああもう!こんな時にサクに頼られて嬉しいなんて思ってる場合じゃないのにっ馬鹿か僕は!?むしろこんな状況で敵が現れたら、サクの性格上彼女が大人しく守られている筈も無く、むしろ真っ先に敵を倒そうと動くのであろう事も分かっているのに。何だか彼女のペースに丸め込まれた気がしないでもない。



「…ね、ちょっとだけ……触っても良い?」



そしてサクは一体僕に対して何を期待しているんだ。好奇心旺盛に、瞳を爛々と輝かせる彼女の目は、それこそ猫の様で、これじゃあどっちが猫だと言いたくなる。今の状況にしろ、楽天的過ぎる彼女を前に、シンクは色々と諦めた上で、好きにすれば、と溜め息を溢した。今の彼女に何を言っても無駄であろう事は、彼女との短くない付き合いの上で分かってしまっている。あ、自分で言ってて何か悲しくなってきた。

死を覚悟して、捨て駒任務に着いた筈だったのに…何この巫山戯た状況。ヴァンに文句を言えば良いのだろうか。それとも全ての元凶たるローレライにとか?



「……っ!!」



彼女の手が耳に触れた瞬間、ぞくっと肌が粟立った。な…何、今の感覚?ていうか感覚あるのかよこの耳!!やっぱり許可なんかしなきゃ良かったと、獣耳の思わぬ敏感さに、シンクは内心舌打ちする。けど、そんな嫌な感覚は本当に一瞬で。むしろ触られるのに慣れてしまうと、逆に彼女に撫でられるのが妙に心地良くなってきた。何て言うか……これはこれで、悪くないかもしれない。

何となく…というかほぼ衝動的に、彼女の手に擦り寄ってみた。このまま目を閉じて、彼女に甘えてしまおうか…なんて、らしくない事を考えてしまう。…半猫化のせいだと思いたい。

と、丁度その時。少し離れた場所で草叢が掠れる音が聞こえた。次いで、何者かの足音が近付いてきている。…どうやら聴覚まで獣並になっているらしい。相手に殺気は感じられ無いし、魔物の気配でもないなと判断し、内心警戒しながら相手の出方を窺っていると……僕とサクの目の前を敵ではなく、見慣れた朱色が通り過ぎていった。…って、



「時間が無い…っ、このままじゃマズイ…」

『…あれ?ルーク、そんなに急いでどうしたの?』

「その前に兎耳に対するツッコミは?!」



懐中時計を片手に慌ただしく走り去ろうとしていたルークに対する、サクのあまりにも呑気な声に、思わずツッコミを入れてしまった。ルークはルークで焦って若干つんのめってるし。

そう。足を止めたルークには、僕とは少し形状が異なりはするが、同じ獣耳と尻尾が付いていた。て言うか、何でコイツまでここにいる訳?あの後ルークも地殻に落ちでもしたの?



「悪いけど、俺は今説明してる時間も無いくらい急いでるから!じゃ!」

『あ、行っちゃった…』

「追わなくて良いの?」

『え、面倒くさい』

「アンタってそういう奴だよね…」



彼女は本当に……どこ迄もマイペースだった。何故ルークがここにいるのか、はたまた何故急いでるのか何処に行くのかなど、かなり疑問が残る所なのに。みすみす手掛かりを見逃すなんて。

こうして、状況はまた振り出しに戻ってしまったのだが……。まぁ、サクがそこまで危機感を抱いていないって事は、この世界に危険は無いって事なのかもしれない。心当たりでもあるのか、あるいは預言にでも記されていたのかは、僕は知らないけど。



「ルークにまで獣耳があったけど…何?此処ではアレが普通なの?おまけにかなり急いでたみたいだけど、ここはまず元に戻る方法を捜すべきじゃない?」

『お伽噺みたいに、キスをしたら元の姿に戻ったりするかもね』

「ああ成る程…って、はぁ?!」



今度はいきなり何を言い出すのかと思えば。ドキドキしてしまったのは、彼女には秘密だ。本当はもう暫く此処でこのまま二人で一緒に居たいな…と思っている事も、ね。



――――――――――――
タイトル通り、導師様 in Wonderlandのシンクside.です。ツンデレっぽいシンクを書いたのは久しぶりな気が((ry

ルークに関しては完全に友情出演状態でした。こんな感じのノリでいくと、きっと女王の配役はナタリアではなくアッシュですww



- 11 -

[*前] | [次#]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -