導師様 in Wonderland

パタン、パタンと黒い尻尾が揺れる。彼の背中から漂う不機嫌オーラは、瘴気並に暗雲を立ち込めているのだが……いかんせん、つい口許が緩んでしまう。というのも、今のシンクが可愛くて仕方が無いのだ。猫耳に尻尾を装備した彼はそれはそれは破壊的な愛らしさで…



「誰が可愛くて仕方無いって?」

『え、もしかして声に出てた?』

「全部出てたからね」



えー、皆様こんにちは。地球からアビスの世界にトリップしてローレライ教団の第二導師をやってます望月サクです。紆余曲折あって崩落編でいう地殻静止作戦の際に、やっぱり紆余曲折あって地殻に飛び込んだ後に先に地殻に落ちたシンクと合流して一緒に脱出をはかろうとした直後、突然地に足が着いたというか不時着致しました。辺りを見渡せば森の中で、私の勘が正しければ私達はどうやら不思議の国にやってきた模様です。オールドラントの地殻の底にまさかのワンダーランド。ルイス・キャ○ルもビックリだろう。

何故ここがワンダーランドだと分かるのかって?異世界トリッパーの称号は伊達じゃないのよ。…嘘です。今の私とシンクの格好を見てそうじゃないか否シチュエーション的にむしろ絶対そうだろって思っただけですごめんなさい。

どうやらシンクは立ち位置的にチェシャ猫になったらしく、この世界に落ちてから気付いた時には既にアタッチメントが黒い猫耳に黒い尻尾の猫さんになっていた。半猫化な所に愛と浪漫を感じます。紫色のシマ模様とかじゃないの?という疑問は、シンクなら黒い猫耳尻尾の方が似合うじゃないかという主張で納得して頂きたい。ちなみに私はアリスみたいです衣裳的に。



『ほぉらシンク、猫じゃらしで…』

「誰が遊ぶかっ!!」



フシャー!と毛並を逆立てて牙を見せて怒っている姿でさえ、威嚇されている筈なのに、癒されてしまう。つまりは逆効果という。もともとサクは猫好きという事もあり、猫化してしまった今のシンクがどうあがいても彼女にとっては愛でる対象にしかならないのだ。怒って猫じゃらしをはたき落とす動作でさえ、猫パンチにしか見えなかった位です実は。



「こんな知らない場所で、ましてや訳の分からない空間に落とされて、もし敵が現れでもしたらどうするのさ!?」

『いや、その時はシンクが守ってくれるでしょ?(勿論私も闘うけど)』

「…。それはまぁそうだけど…」



一瞬だけ瞳を丸く見開いた後、彼はフィッとそっぽ向いてしまった。落ち着き無く左右に揺れる尻尾が彼の動揺を如実に語っている気がする。そんなに敵に警戒しなくても良いのに。不思議の国で戦うアリス、なんて一体どこのアリスイン悪夢?余談だけど、このPCゲームってかなり鬼畜らしいよ……って、何か話がズレた。



『…ね、ちょっとだけ……触っても良い?』

「ハァ……好きにすれば」



色々と諦めた様子でため息をつくシンクに、では遠慮無く…と言って早速彼の猫耳に手を伸ばしてみた。猫耳に触れた直後に、シンクは一瞬ビクリと肩を跳ね上げさせたが、何も言って来ないのでそのまま気にせず続行。やわやわと耳に触れ、毛並みも堪能する。猫の耳や尻尾を触ると嫌がられるとは分かっていたが、猫好きとしてはやはり触らずにはいられなかった。ごめんねシンク。とは言え、一緒に頭を撫でたりしてたら、何とゴロゴロと喉を鳴らしているのが聞こえてきた。猫は気まぐれシンクはツンデレとは、よく言ったものだ。勿論私が。

あの手袋の下には肉球もあるのかな?此方の方が敵の存在よりかなり重要な問題だ。シンクは格闘家だから「疾風、猫パンチ!これでトドメにゃぁあああっ!」なーんて秘奥義(勿論カットインも猫化)を使われた日には私は間違い無く即死確定だ。にゃカシック・トーメントでも可。ああもうむしろ敵さん今直ぐカモン!!

と、丁度その時。私とシンクの目の前を敵ではなく見慣れた朱色が通り過ぎた。…って、



「時間が無い…っ、このままじゃマズイ…」

『…あれ?ルーク、そんなに急いでどうしたの?』

「その前に兎耳に対するツッコミは?!」



懐中時計を片手に慌ただしく走り去ろうとしていたルークに声を掛けたら、彼は焦って若干つんのめりながらも律儀に足を止めてくれた。そしてシンクのツッコミ通り、今のルークには白い兎耳と白いモフモフ尻尾が付いてます。どうやら彼が白兎と見て間違いはなさそうです。はい、此れでここはワンダーランド確定。



「悪いけど、俺は今説明してる時間も無いくらい急いでるから!じゃ!」

『あ、行っちゃった…』

「追わなくて良いの?」

『え、面倒くさい』

「サクってそういう奴だよね…」



シンクに呆れられたけど、いつもの事なので気にしない。それよりも、先程のルークは…反応的に、ワンダーランドの住人である可能性が高そうだ。あの時タルタロスから落ちたのは、シンクと私だけだったしね。この調子だと、おそらく白兎ルークを追い掛けて最終的にハートの女王辺りに会えたら、実は夢落ちでした!って具合に目が覚めそうな気がしないでも無いのだけれど…

正直、当面どうこうしてやろうという気は無かったりする。



「ルークにまで獣耳があったけど…何?此処ではアレが普通なの?おまけにかなり急いでたみたいだけど、ここはまず元に戻る方法を捜すべきじゃない?」

『お伽噺みたいに、キスをしたら元の姿に戻ったりするかもね』

「ああ成る程…って、はぁ?!」



ああ、でもシンクにしろルークにしろ、今直ぐに元の姿に戻ってしまうのも何だか勿体無い気がする。やっぱり自然に戻るのを待とうそうしょう。サクが一人自己完結する一方で、シンクは口をぱくぱくさせている。その顔が心なしか赤くなっている事に、彼女は気付いていない。



魅惑の園にみ入りて

白兎?少なくとも今はまだ追い掛けないよ。別に急ぐ必要性は感じないし。もう少し、この世界に留まって、ここで二人でゆっくりしていたいから。



――――――――――――
企画サイト様に参加して提出させて貰ったお話。の導師様連載ver.だったり。本編分岐というかパラレル要素が強いので此方に掲載。獣化をプッシュし過ぎたせいか、アリス要素が設定のみで内容にまでイマイチ反映されてませんね←

企画サイト peekaboo



- 10 -

[*前] | [次#]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -