廻るカルマ 旧4頁目



「あの、シンク。今日は、失敗してごめんなさい…です」



宿屋(施設規模的には完全にホテル)の一室で窓の外を眺めてサクの帰りを待っていると、おずおずといった様子でアリエッタが僕に声を掛けてきた。失敗とは、僕の秘奥義を誤ってキャンセルしてきた事だろう。いつもならここで文句や嫌味の一つや二つを返す所だけど……その事に関しては、別にもういい。面倒くさいし。それよりも、今はちょっと気になっている事がある。



「…アンタもさ、本当はずっと前から知ってたんだよね。僕がレプリカだって」

「うん。でも、秘密にしないと駄目だったから…」



何処か申し訳なさそうに眉を下げるアリエッタ。…やっぱりか。恐らく、サクや被験者(クロノ)に口止めされていたのだろう。表情の変化とか分かりやすそうな顔をしてる癖に、よくヴァンにも気付かれなかったものだ。そういう自分も、見抜けなかった一人ではあるけど…



「シンクとクロノは似てる…です」

「似てるじゃなくて、同じだろ」



僕の顔色を伺う様にしてじっと不安気な視線を向けて来てたかと思えば。今度は何を思ったのか、僕にとっては不愉快極まり無い一言をポツリと呟いてきた。わざわざヒトの逆鱗に触れる様な発言をしてくるとか、どういう了見?アリエッタの事だから、考え無しに思った事を喋って地雷を踏んだ可能性は十分にあり得る。苛立ちが増した僕の投げ遣りな言い種に、しかしアリエッタはフルフルと首を横に振る。



「今のイオン様も、クロノも、シンクも、皆違う…です」

「ハァ……あのさ、別に気を遣わなくて良いよ」

「シンクは、アリエッタのお友達の見分けはつく?」

「……は?」


虚を突かれた。今度はまた何を言い出すのかと思えば。



「シンクには皆同じ魔物に見えるかもしれない……けど、アリエッタには一人一人ちゃんと違って見えるもん。顔も気配も匂いも違うの。だからアリエッタのお友達も、クロノもシンクも、皆同じじゃない…です」

「僕は魔物と同じかよ」



思わず溜め息を溢してしまう。別に、僕がレプリカだからという理由から、魔物と同レベルの扱いをした訳ではないのだろう。魔物は人間以下という概念も、アリエッタに関してはあり得無いだろうし。同様に、被験者じゃないレプリカだからとレプリカを卑下するのも彼女の価値観からしてもやはり考えにくい。



『フフッ、アリエッタに一本取られたね』

「何処がさ。ていうか、いつの間に帰って来てたの?」

『ついさっきだよ。部屋に入るなり修羅場な雰囲気でどうしょうかと思ったよ』



いや、他人事だと思って絶対愉しんでただろ。明らかにニヤニヤしながら僕に文句を宣うサクの戯言はいざ知らず。アリエッタの言葉は全て彼女の本心だという事は、そう短くない付き合いからもよく分かる。ので。



「…癪だけど、アンタの意見は分かったよ」



そう言ってやったら、アリエッタは満足した様で、嬉しそうに笑った。全く、ただ相手から分かったって言われただけで、何がそんなに嬉しいんだか。



『アリエッタは凄いね。さっきのも全部本心だし。自然体で受け止める事が出来るんだから』

「…そうだね」



話を終えると、アリエッタはその事を早速被験者の許へ報告しに行った。お礼を言われたのが余程嬉しかったのか、被験者の傍で嬉しそうに…幸せそうにアリエッタは笑っている。最初に見た時は、サク以外の前でもあの表情をするのかと、内心驚いた。きっとアリエッタにとって僕の被験者は、僕にとってのサクと同じなんだと思う。

その事が何となく分かってしまうから、余計に被験者が苛つくんだけど。

そんな僕の視線に気付いたのか、クロノが苦笑を溢した。



「君が僕(被験者)を憎んでる事は知ってるよ」

「サクから聞いてます、って言いたい訳?」

「確かにそれもある。けど、僕もこの世界に絶望した事があるからさ」



この世界に絶望し、元凶たる預言を憎み、やり場の無い怒りや復讐の為に、僕はヴァンのレプリカ計画にも賛同したのだからと、被験者は皮肉気に語った。そんな所まで、僕と同じだなんて。ある程度予想はしてたけど。ヘドが出る。



「…君達には業を背負わせてしまったと思ってる。全部僕らの責任だ。憎まれて当然さ」

「…残念だけど、今はそこまで憎んでもいないよ」



そう言うと、クロノが意外そうに目を丸くした。



「確かに、僕は生まれた事を憎んでる。失敗作として生きたまま廃棄されて。この世界も預言も嫌いだよ。被験者に対しても全く蟠りがない訳じゃない。でも少なくとも、サクと出逢えた事には感謝してるから」



サクは僕に暖かい居場所をくれた。生きる意味も、存在意義も。だからだろうか。預言に依存仕切った愚かでくだらない世界だけど、サクとの繋がりを通して見てると、世の中捨てたモノでもないと思えたんだ。



「アンタ達の身勝手で生み出された事を、許す気は無いけど」

「…それで良いよ。君達には僕を憎む権利がある」



そう言って、クロノは静かにほほ笑む。珍しい事に、その笑みには相手に対する嫌味は含まれていないようだった。シンクの方も、クロノに対してあれほど殺意を剥き出しにしていたというのに、今は軽く睨んでいるだけだ。どちらに一体どういう心境の変化があったのかは分からない。けど、あったとすればそれは恐らく……シンクの方だと思う。



「…ねぇサク、シンクとクロノは、仲良く出来ないの…?」

『色々と複雑だからね……でも、喧嘩したりは(多分)しないから(恐らく)大丈夫だよ』



残念そうな様子のアリエッタには悪いが、彼等が仲良くするのは、ヴァンが最終決戦の地で魔法少女まどかの衣装を着て待ってるのと同じ位無理があると思う。ローレライの力を解放したらアルティメットまどかver…女神ヴァンになるのか。…うん、コレだと普通にキモい変態じゃねーか。ある意味最凶のラスボスの誕生だね、主に視覚的に。



「本当なら今すぐにでもアンタを殺してやりたい所だけど……サクが助けた命だからね。見逃してあげるよ」

「それは助かった」



取り敢えず、少しだけ和解は出来た…と受け取っても良いのだろうか。当事者達の方はアレで納得してるみたいだし


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