06



なんて、残酷なんだろう・・・。


後ろでいまだに爆音が聞こえる。
でも、私は目の前のこの状況が理解できなかった。


赤、

赤に濡れる、銀色・・・


それから、光。


私から観えるのは、力なく立つ三成さんの背中と、そして、横たわって血にうもれる家康。

ピクリとも動かず、家康の肩から腹下にかけては綺麗に刀傷が走っていて、
でも、三成さんの刀だってかけている。

あんなに大切にしていたものなのに・・・



そして、笑い出した三成さん。



けれど、その笑いが止んで行くと、プツリ、っと糸が切れたように、その場に膝を着いた。

顔を上げ、背をのけぞらせ、ただ、曇った空を見る。


二人を失ったあの日のような・・・くらい、そらを・・・



「この、空虚は・・・」



乾いた、三成さんの声。
力なく家康へと視線が移動して、「おい」と、家康に声をかけた。

それは・・・



『っ・・・』



秀吉様と、半兵衛様と・・・
二人が、まだ豊臣軍で一緒に居たときのような、そんなときの声色で。



「立て、家康。」



そう、声をかけているけれど・・
もうその人は答えることは無い。

そんなの、信じたくないのはきっと三成さんだ。


返事をしない、家康の襟首を掴んで、三成さんは動かない家康の身体をゆする。
立て、と、起きろ、と、



「何をしている、立て。

        そしてもう一度、私に殺されろ・・・。」



その声には、イラつきが混じっていた。

でも、ふっと、その手が止まる。



「・・・家康・・・」



あぁ、三成さんは気がついたのだろうか。
家康が、この世界にもう存在していない、ただの抜け殻だって言うことに・・・


たとえ、まだ、生きていたとしても・・・あれだけの血を流していれば、もう助からないだろう。

この世界にきて、教えられた冷たい心が、簡単に分析して・・・


ただ、映画のワンシーンを見るように、その光景を見ている私。



ふと、再び視線を上に上げて、空虚を見つめる三成さんが、痛々しくて、仕方が無い。



「私は・・・秀吉様の恩為に・・・
 
        家康を倒したのではなかったのか・・・」



唖然と、ただ、口から空気が漏れるかのように紡がれるその言葉に、目の前がかすんでいく。



「それとも・・・ただ生きる理由を欲して・・・家康を目指したのか・・・?」



ゆらり・・・

たちあがった三成さんの手には、刃、




はっとして走り出して、その刀を奪った。




私の剣よりもずっとずっと重くて、いまだに血の流れ続ける、刃を・・・



「・・・何をする・・・弥月・・・」

『西軍の勝利です。
 本陣に帰りましょう、三成さん・・・』

「それがどうした・・・」

『・・・っ』



あぁ、彼は壊れてしまったのかもしれない・・・。





「貴様もどうせ、裏切るのだろう?」








刑部は私を遺して逝った、








執筆日 20130410


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