02
「まだか・・・まだ始まらないのか・・・!!」
「急くな、三成。」
怒りに燃えるのは、とてもしってる、
私だって家康を完全に許したわけじゃない。
けれど、何時までも過去の怒りに溺れているわけには行かないと思う。
三成さんだって、きっと、気がついてるはずなのに・・・。
それを認めるのが怖いのだろう。
冷静な刑部さんにイラッとしたのだろうか、彼を振り返る三成さん。
「もう待てるものか!
刑部、貴様が止めようと私は!!」
そして、彼に対して言葉を吐き出した三成さんだが、その言葉を裂くように響いたのは爆音。
はっとして陣から飛び出せば上がっているのは煙。
三成さんも私のように周りを伺う。
先に見つけたのは三成さんだった。
ギリっと歯を食いしばる音。
三成さんの視線をたどれば、そこに居たのは金吾少年。
こっちを向いて、そして私たちを睨んでいる。
「いやだ!嫌なんだよ!
やっぱりキミ達なんか嫌いだ!!
僕は家康さんを裏切らない!!
裏切るなら・・・っ!」
そして、叫び、叫び。
そのまま、ビシッと私たちを指差す。
「キミを裏切るよ、三成くん!」
のけぞるように堂々と胸を張ると、そのまま身をひるがえして走り出した。
はっとして横にいる三成さんを見れば彼の顔は、いつも血相が悪いのに、より悪くなりそして刀の柄を握っている手が、握りすぎて血が出ている。
あぁ、彼は、また・・・っ
『三成さん、』
「おのれ・・・金吾・・・」
彼の思いが痛いほど分かる。
きっと、彼はまた家康に対する思い、憎しみを増して行くのだろう。
どんどん、己の心を枯らしていく。
『三成さん。』
「・・・」
小さく、彼の名を呼べばさっきよりも狂気に孕んだその瞳が私を映す。
仕方の無いこと・・・
けれどせめて、その怒りを今は沈めて欲しい。
『大丈夫、貴方のことを、秀吉様も半兵衛様も刑部さんも・・・勿論、私も裏切りません。
だから今は落ち着いて。
まだ戦は始まって無いんですよ、
いまからそんなに声を上げていたら肝心なときに力を出せませんから。』
「・・・弥月・・・」
『大丈夫、大丈夫、
貴方は一人じゃない。一人になんてさせませんから。』
「・・・」
彼の心は、きっと、孤独の中にいるんだ。
秀吉様、半兵衛様を失うと同時に彼は親友まで失ってしまったのだから、
だからせめて、その心に私をいさせて欲しい。
「戯言だ、裏切りは許さない。」
『貴方に救われた命が貴方様を裏切るはずは無いじゃないですか。』
「・・・貴様だけは・・・っ裏切るな。」
『分かっています。』
でも、裏切りというのは、きっと死することにも繋がるのだろう・・・。
死なないなんて自信はないけれど、それでも私は裏切らないと、誓いたい。
きらりっと、首からかかる赤の宝石が小さく輝いた。
執筆日 20130407
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