『あー・・くそ、しくった』
はぁっと盛大にため息を零した。
ありえないだろう。っていうか久々すぎてむしろ笑える。
『悪い、颯。お前まで巻き込んで。』
落馬して、バランスを崩してそのまま疾風を巻き込んで森の中にあった段差っていうか、山道を転げ落ちた。そのせいで足を怪我してしまった颯には乗ることも出来ないし、何より雪に足を取られてあまり進めない。森も深いし、小十郎たちとも距離があったから見失っただろう。
本当、最悪だ。
『立てるか?ゆっくりでも良いから、歩こうな?』
けれど、此処にとどまっていても仕方ない。むしろここでふぶかれたら疾風も俺も危ない。手綱を持てば、身体を起こして歩き出す。
左足を庇うように歩くため遅いが、それでもゆっくりと確かに歩き始めた
*-*Side Koyuro*-*
「どうしよう、梵が、梵が・・・ッ!」
目に涙を溜めて、叫び取り乱す成実に多少の苛立ちを覚える。
雪の中、一人はぐれてしまった政宗様。
あの方が馬を飛ばすのはいつものことだ。
だが、はぐれるということは滅多にない。
なにかしらで少しでも距離が開けば彼女は足を尾染めるのだ。
早駆けのときもまた然り・・・
しかし、今は居ない・・・
どこにも・・・彼女の姿がない・・・
大きな不安にうろたえるが、それでは輝宗様の時と同じだ。
あの方はいつの間にか大きくなっておられて、いつか一人で消えてしまうんじゃないかと不安になる。
「成実、テメェは少し黙ってろ」
「っだっていま梵は刀一本しか持ってないんだよ!?
こんなに寒いのに、一人でいるなんて・・・!」
「あの方はそんなにやわじゃねぇ」
だが、俺はあの方の右目だ、
あの方を信じることが、その背を守ることが俺の役目。
そこまであの方は弱くはない。
おそらくは最上領を目指しているだろう。
だから、俺が今できることは。
「今から最上領へ向かう。」
「っ小十郎さん!!」
「成実。政宗様をしんじられねぇか?あの方を信じやがれ。」
それは己にも言い聞かせるように
執筆日 20130805