『お前も私と同じね。』


クスっと思わず笑ってしまった。小さなこの手のなかでピィピィと親を求めて鳴く捨てられた命。
私とおそろい。私は神にも捨てられ・・・親にも捨てられたのだから・・・





医者から許しを貰った。
やっと、母上や父上に会えると、私の心は歓喜していた。ただ、感染の危険があるからと、右目の包帯はそのままで。

人の気配に身体を起こす。ゆっくりと開いた障子。

そこには二人の姿。飛びつきたかったけれど、けれど、二人の纏う空気が違う。難しい顔をしていて、私を見ている。

私は病に打ち勝った。ほめて欲しかった。

よく頑張ったねって言って欲しかった。
笑って、笑いかけてもらって・・・子供っぽい思考に酔いしれていた

ただ、ほめて欲しかった。

雨の匂い。外は雨なのだろう。だからいつもより右目が痛い。けれど、今は二人に会えただけで心底幸せなのだ。
母上を見れば、以前よりも少し、腹が膨れている。

手を伸ばしたけれど、父上が母上を抱き寄せて私を睨んだから、その手が止まった。殺気の孕んだその瞳に体が、震えて足がとまる


「来るな、この化け物。」


吐き出された言葉に、世界が凍った。
静かに目を開いてしまうのは、その言葉を理解することができなかったからだ。
小さく声を漏らしてしまったが、その声は彼女に届いていたらしい。


「化け物、梵天丸を殺しおって、あの子はこれから使える駒だったというのに!!」


グルグル、グルグル。
     目の前の人は何を言っているの?

グルグルグルグル…
     気持ちが・・・悪い・・・


「っ妾の美しい梵天丸を、貴様っどこへやった!!」


あぁ、なんて皮肉。力が抜けて、体が下に落ちる。


罵声。狂気。

でも、泣けなかった。あぁ、あぁ・・・いっそ、言い訳してみようか。だけどそんなの意味はないね、
崩していた足を正座にして手をついて、深く頭を下げる。
空気が、張り詰めた、気がした。


『・・わたくしめが・・・梵天丸に・・ござります・・・輝宗様・・義姫様・・・』



親を名で呼ぶ子がどこにいようか・・・顔は上げられなかった。
逃げるような足音一つ。一つは止まったままだけれど。


「・・・梵天丸・・・」


小さくだが、聞こえた声に、あえて聞こえないフリをした。もう私は・・・好かれてすらいないのだ・・・
子とさえ、思われていないのだから・・・


「結い上げまでは、面倒を見てやる。」


そして吐き出された言葉に、『ありがとうございます』と言葉を吐き出した。
気配が消えるのを待って、顔を上げる。


開けたままの障子から雨が降る景色が目に入った。
ぽろっと、涙が雨のように流れ気がつかれたくない私は部屋を飛び出す

はだしのまま雨の中へと飛び出して…でも、ビシャっと、病み上がりの身体はうまく動かなくて、ぬかるんだ地面に崩れ落ちた

痛い・・・でも、それ以上に心が痛い。

身体を起こして、いつものように、木を見に行く。雨は枝のおかげで濡れていないけれど・・・木の根元に一匹の燕の子弱弱しく、助けを求めるように鳴いている。私の身長では・・・あの巣には届かない、ごめんね。

どれぐらいそうしていたのか・・・


「何をしているんですか!!」


叫ぶような声に、暖かさが身体を包み込む。いつもの忍かとおもったけれど・・・違う・・・


『・・・喜多・・・?』


今まで、会うことの許されていなかった乳母だ。小さく呼べば、「そうでございます」と震えた声で返された。
何故、喜多がここにいるんだろう・・・頭が働かない。
けれど・・・先に・・・


『ねぇ、喜多・・・この子を巣に返してあげてよ・・・』
「梵天丸様・・・鳥の子は・・・鳥の子は、落ちたらもう育ててもらえませぬ。」


その言葉を聞いて、確信した。


『じゃあ、あなたもおそろいなのね・・・』


小さな竜は泣きました



執筆日 20130215



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